2025年5月1日(木)23:00発表(日本時間)
米国 ISM製造業景気指数

【1】結果:市場予想を上回るも前月から低下し2ヶ月連続で縮小圏

4月の米ISM製造業景気指数は、市場予想の47.9を上回りましたが前月から0.3ポイント低下の48.7となりました。景気の分岐点とされる50を2ヶ月連続で下回っており、景気縮小圏での推移が続いています(図表1)。

また、経済全体では、一般的に42.3以上を記録すると景気拡大とみなされ、今回で60ヶ月連続の景気拡大を示しました。

【図表1】ISM製造業景気指数の推移
※市場予想はBloombergがまとめた市場予想の中央値
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

※製造業の拡大・縮小を判断する基準値は50ですが、製造業が経済全体に占める割合は1割程度であることから、指数が50を下回ったとしても、経済全体としては必ずしも縮小を意味するわけではありません。米供給管理協会の回帰分析に基づく調査によると、過去のISM製造業景気指数と米国GDP成長率の関係から、指数が一定期間42.3を上回れば、一般的に経済全体(GDP)は成長していると解釈されます。 

【2】内容・注目点:関税の影響で入荷遅延と在庫が指数を押し上げ 

そもそもISM製造業景気指数とは

ISM製造業景気指数は、全米供給管理協会が製造業300社以上の仕入れ担当者に生産状況や受注状況、雇用状況等の各項目についてアンケート調査を実施し、その調査を基に製造業全体のセンチメントを指数化した指数です。企業のセンチメントを反映しており景気転換の先行指標とされること、また主要指数のなかでは最も早く発表されることから注目が集まります。

4月結果の詳細・内訳

【図表2】ISM製造業景気指数、各項目まとめ
※太字は総合指数の構成要素。
※トレンド(月)は、項目が50を上回る、または50を下回る状態が継続した月数を表す。
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

図表2の通り、総合指数を構成する5つの要素(新規受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫)のうち、拡大圏にあるのは入荷遅延と在庫のみで、それ以外の項目は縮小圏にあることが分かります。 

入荷遅延と在庫の拡大はポジティブな要素ではない

入荷遅延指数が上昇する背景には、需要の強さやサプライチェーンの混乱といった要因が考えられます。しかし、新規受注が縮小圏で推移しており需要の強さがうかがえない状況であることを踏まえると、今回の上昇は主にサプライチェーン側の問題であり、やはり関税政策が原因の一つとみられます。

報告書によれば、買い手とサプライヤーの間で、関税分をどちらが負担するかについての交渉が行われており、そのために一部の材料の納品が遅れているといいます。

また、在庫の拡大に関しては、関税導入により原材料の価格が上昇する前に在庫を蓄えようとする駆け込み需要の動きと考えられ、需要がついていかない限りは決してポジティブなものではありません。受注-在庫バランスも悪化することで、今後の生産を抑制する要因にもなり得ます(図表3)。

【図表3】受注-在庫バランスの推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

総合指数は関税政策の要因を強く受けた入庫遅延と在庫の増加によって下支えされましたが、他の主要項目にポジティブな点は見られず、総合指数の数字以上に中身は悪いと評価できるでしょう。

支払価格指数はやや上昇

総合指数の構成要素以外では、支払価格指数が前回の69.4から69.8へとわずかに上昇しました(図表4)。過去6ヶ月間での上昇率は15%に達し、2022年6月(78.5)以来の高水準となっています。トランプ政権による関税政策の影響により、企業の実感として価格上昇圧力が強まっている状況にあり、インフレ圧力の高まりが引き続き懸念されます。

なお、支払価格指数は実際の物価ではなく、あくまで企業担当者の感覚を数値化したものであり、実際の物価動向を把握するにはCPIやPPI、PCEなどの指標を確認する必要があります。

【図表4】ISM製造業支払価格指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

企業担当者の懸念は、やはり関税の影響

主要項目の悪化は、企業担当者のコメントにも表れています。そして、担当者の懸念はやはり関税に集中しており、原材料価格の上昇による利益の圧迫や、サプライチェーンの混乱、中国からの輸入の停止といったネガティブな反応が目立ちます。

【企業担当者のコメント】
・化学製品
関税に対する不確実性は大きな課題となっており、取引先には直接関税を支払う必要があり、二次取引先は価格引き上げや関税上乗せの形で転嫁してこようとしています。
・輸送機器
関税の影響で業務に支障が出ています。具体的には国境通過の遅延や複雑で不明瞭な関税計算があり、その結果として過剰に支払っている可能性があります。突然の制度導入にも対応を迫られており、対策を講じている最中です。
・コンピュータ・電子機器
ビジネス環境は不安定で、関税が導入されたことにより中国からの全ての輸入が停止しています。私たちや顧客が求める利益水準を保てる価格設定が不可能となっています。
・食品・飲料・たばこ製品
最大の懸念は関税であり、コスト増による利益圧迫や輸送遅延が納期に影響を及ぼしています。仕入先との関係も悪化しており、競合は関税の低い地域から調達してシェアを拡大しています。
・機械
関税の混乱により顧客対応に深刻な影響が出ています。顧客が発注を見送ったり、関税負担を強要するケースがあり、当社はそのリスクを負えず受注を辞退せざるを得ない状況です。
・金属製品
業界全体で関税によるインフレ懸念が広がっており、国内メーカーは値上げを強行しています。
・衣料・革製品
関税戦争が激しく変動しており、業務に大きな混乱を引き起こしています。調達の90%を中国に依存しているため、毎週コスト構造が変化し、供給業者との交渉やリスク分散策が急務となっています。
・電気機器・家電・部品
需要は計画をやや下回っているものの、関税の懸念のなかでも安定しています。関税率の変動による影響を算出するのに多くの時間を費やしており、コスト増への対応を仕入先や顧客と協議しています。
・その他製造業
中国からの輸入に課された145%の関税が2025年の収益に大きな打撃を与えています。部品の複雑性や代替供給源の不足により、コスト面でも新たな調達先が見つかっていません。市場の不透明感から受注も減少しています。
・非金属鉱物製品
戦略的調達やサプライチェーンが、日々変化する関税状況によって完全に機能停止状態に陥っています。

【3】所感:見出しの数値以上に警戒感が高まる内容

今回の結果は、ヘッドラインの数値が市場予想を上回ったことから、市場では比較的ポジティブな反応となりました。しかし中身を見ると、数値を押し上げた要因は関税政策の影響で上昇した入荷遅延や在庫であり、その他の主要項目は軒並み低調でした。このため、今回の調査結果からポジティブな要素はほとんど見られず、見出しの数値以上に警戒感が高まる内容だったと言えるでしょう。

特に、低調な新規受注(需要)を背景に生産が大きく落ち込んでいる点は懸念されます。生産の落ち込みは企業収益の悪化につながり、収益悪化は雇用の悪化を招きます。さらに、雇用の悪化は労働者の購買力(需要)の低下を引き起こし、それが再び生産の落ち込みを招くといったスパイラルに陥れば、景気後退を招きかねません。

一方、関税によるサプライチェーンの混乱からスタグフレーション懸念も浮上していますが、現時点では各種物価指標は落ち着いており、むしろ需要の低迷によるデフレや景気後退が警戒される状況にあると感じられます。

5月7日から8日にかけて開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)では、金利の据え置きが想定されていますが、政策決定と併せて、パウエル議長が現状をどのように認識しているか、その発言に注目が集まります。

米国市場は、現状では底堅い労働市場を背景とした堅調な個人消費に支えられています。
今後も、労働市場指標や個人消費のハードデータに注視する必要があり、まずは労働市場関連の最重要指標である雇用統計に注目が集まります。5月2日(金)の発表が、ひとつの山場となるでしょう。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐