戦略の見えないトランプ関税、投資家センチメントは2022年以来の弱気をしめす

・最近のマーケットは非常にボラティリティが高く、世界中に影響を与えている。S&P500は2月19日に6147ポイントをつけ史上最高値を更新。その後3月13日まで10.5%下落した。これは、トランプ大統領の関税引き上げの駆け引きからくる先行き不透明感が原因である。一番の問題点は、関税についての戦略が明確に説明されていないことであり、投資家だけでなく一般の米国民も振り回されている。また、トランプ大統領の行動は次に何が起きるか予測ができず不安定な政策運営が続いている。その結果、これまで強気であった人々が心理的に不安になりマーケットが乱高下していると考えられる。

・一方で良いニュースもある。金利については、1月半ばに4.8%台だった10年債利回りが4.3%と50bpポイント下がっている。また、マクロ的にも雇用市場は強い状況にある。3月11日発表のJOLTS求人動向調査では求人件数が増えている。また新規失業保険申請件数は減少しており、非常に良い兆候にある。

・トランプ米大統領は、「関税についての不安はあるが、長期的には良いことであり、目先は大変だが、長期的にはMAGA(Make America Great Again =米国を再び偉大な国へ)のために今やっているということは、忘れてはいけない。また、米国では世界中の企業が米国に投資をしなければならないという機運が高まっている」と主張している。

・投資家のセンチメントについて、逆張り指数として知られるAAII(米国個人投資家協会)のブル・ベア指数は、マイナス40.1%と、2022年9月末以来の弱気を示している。前回は2022年10月にボトムをつけた後、上昇に転じ、その後2025年2月まで継続して上昇していた。過去のこのような動きを考慮すると、米国の個人投資家の極端な悲観は、市場の転換点を示唆している可能性がある。

マーケットには割安感が

・マーケットには割安感が出ている。PERでみると、現在のS&P500は割安。2024年末のPERは24.8倍だった。予想EPSを使うと2025年は20.9倍、2026年は18.5倍、2027年には17倍まで下がる見込みである。

・トップダウン、ボトムアップでみる株式市場のバリュエーションについて。トップダウンはマーケットのストラテジストが出す予想である。1年後のS&P500の予想は6,479ポイントであり、現在のレベルと比較すると、15%ほど割安である。一方、アナリストが企業分析を行いマーケットの予想を出すボトムアップはさらにギャップが大きく、S&P500は6,847ポイントであり、今のマーケットは20%割安となる。ここまで割安になるのは過去にあまり例がなく、非常に珍しい。関税引き上げ懸念で個別銘柄は下がっているが、マーケットは割安になっている。加えていうと、今回は企業業績の悪化によって下がったわけではないことをおさえておいた方がいい。

今後の見通し、トランプ大統領の次の政策に注目

・今回S&P500が史上最高値から10%下げたが、この下げにかかった期間は僅か14日間である。これは非常に珍しく、通常はもっと時間をかけて下がる。1953年以降、S&P500が史上最高値を更新し、3週間以内に7.5%以上下げたのは今回を入れて17回しかない。このペースで下げると、反発につながりやすい。過去16回は、1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後には88%の確率でプラスに転じている。半年後については平均リターンが中央値で12.2%となっている。このようにスピード調整をした後のマーケットは上がりやすい傾向がある。

・関税実施のXデーである4月2日までの2週間、マーケットは落ち着かない状況が続くだろう。しかしその後は、不確定要因は減る。トランプ米大統領が次に何をやるかというと、税率の引き下げにシフトするだろう。成長を促進するために減税を行う可能性があるなら、2025年末の株価は今のレベルより高いところにあるだろう。その意味では、このところの下げは長期的に投資をしたい、特に初心者の方にとってはいい機会を提供しているのではないか。S&P500の過去5年のデータをみると、10%の下げは4回。20%の下げも3回ある。今回の下落も例外的なことではなく、ある程度の頻度で起こる事象の1つであると考えられる。