2025年3月6日(水)0:00発表(日本時間)
米国 ISM非製造業景気指数

【1】結果:市場予想・前回結果いずれも上回る

ISM非製造業景気指数(2月)
結果:53.5 予想:52.5
前回:52.8

2月の米ISM非製造業景気指数は53.5となり、市場予想および前回結果を上回りました。また、好不調の境目とされる50を8ヶ月連続で上回ったほか、過去12ヶ月の平均値も上回っており、関税などの影響が懸念された中でも米国のサービス業の景況感は堅調さを示しました。

【図表1】ISM非製造業景気指数の推移
※シャドーは景気後退期
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【2】内容・注目点:企業担当者のコメントで目立つ「関税」の影響

そもそもISM非製造業景気指数とは

ISM非製造業景気指数とは、全米供給管理協会(ISM=Institute for Supply Management)が400社以上の購買担当者を対象にアンケート調査を実施し、その結果を指数化したものです。総合指数は、事業活動・生産、新規受注、雇用、入荷遅延の4つのサブ項目から構成され、50以上はサービス業の好況、50以下は不況を示唆します。

その他、総合指数の構成要素以外に、在庫や受注残に関する項目や、インフレ指標として注目される支払価格指数が報告されます。米国経済ではサービス業の占める割合が大きく、主要指数の中では比較的早く公表されるためこの指数に注目が集まります。

2月結果の詳細・内訳

【図表2】ISM非製造業景気指数、各項目の結果まとめ
※太字は総合指数の構成要素
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

新規受注と事業活動・生産は好調さを維持

図表2が示すとおり、景気の先行指標として注目される新規受注は前月比0.9ポイント上昇し、52.2となりました。先に公表されたISM製造業の調査では、関税の影響により新規受注指数が急低下していましたが、サービス業では依然として堅調な受注動向が確認されました。また、好調な受注(需要)に伴い、事業活動・生産も54.4と高水準を維持しています。

関税政策による投入コストや顧客需要への影響が依然として不透明で、事業予測の不確実性が高まっているにもかかわらず、米国のサービス業の需要と活動は依然として堅調さを維持しているといえます。ただし、後述の企業担当者のコメントからは、関税の本格的な影響が表れる前の一時的な駆け込み需要といった側面も読み取れ、今後の継続性については来月以降の動向を引き続き注視する必要があります。

心強い雇用指数の上昇

新規受注と事業活動・生産が堅調さを維持する中、雇用指数は前月比1.6ポイント上昇して53.9ポイントとなりました。同日に公表された米ADP雇用者数は、前月比7.7万人増にとどまり市場予想を下回ったため、市場では労働市場の減速が懸念されていましたが、今回のISM非製造業雇用指数の上昇は、そうした懸念を和らげる心強いニュースとなりました。

【図表3】ISM非製造業景気指数、雇用指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

支払価格指数はやや上昇 関税に対する不満の声

一方、サービス業の支払価格指数は前月から2.2ポイント上昇して62.6ポイントとなりました。

製造業では支払価格指数が急騰してインフレ圧力の高まりが懸念されましたが、サービス業ではそこまで顕著ではなく、やや高止まりといった印象です。

また、ISMサービス業調査委員会のミラー委員長は、今回の調査回答者らの不満の多くは「価格の上昇そのものではなく、事業の不確実性や、関税を考慮しない長期契約を結べないことにある」と指摘しています。

ISM調査は実際の価格動向を指数化したものではなく、あくまで企業のセンチメントを指数にしたものであるため、関税政策による不確実性が高まっている現状では、そうした懸念が指数を上押しすることになります。こうした景況感は実際の物価動向にも影響を与えるものの、足元の実際の物価動向については、月の中旬に発表されるPPIやCPIの結果が待たれます。

【図表4】ISM非製造業景気指数、支払価格指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

企業担当者のコメント

今回の調査では、トランプ政権の関税政策による影響が懸念される中でも、数値そのものは良好な結果となりました。

一方、下記の企業担当者のコメントを見ると、やはり「関税」による「不確実性」や「天候」による悪影響を指摘する声が目立ちました。また、政府効率化省(DOGE)に関わるコメントもちらほら見られ、今後のDOGEの動きがより具体的に進展した際にどのような影響が及ぶか、引き続き注目です。

【企業担当者のコメント一覧】
・宿泊・飲食
関税措置により、情報や価格指標、予測、先行購入に混乱が生じており、一時的な購買の増加とその後の急減を引き起こす可能性がある。
・農業・林業・漁業・狩猟
関税やその他の政府の措置によるリスクのため、今後の事業活動には大きな不確実性がある。
・建設業
関税の導入は、当社のプロジェクトに大きなコスト影響を及ぼす。購入する設備の大部分は米国で製造されておらず、また、設備を構成する部品の多くは海外メーカー製だ。さらに、以前の関税導入時と同様に、すでに米国内の価格が上昇し始めている。
・教育サービス
大学は現在、連邦支援プログラムの変更の可能性の影響を精査している最中である。
・医療・社会福祉
この1ヶ月で複数の気象災害が発生し、一部の施設では休業や開業遅延があった。
ノロウイルスやその他の感染症により、救急部門や緊急医療施設の混雑が続いている。
・情報
関税は連鎖的な影響を及ぼし、当社の事業に深刻な打撃を与える可能性がある
・企業管理・支援サービス
関税への懸念があるが、現時点では影響は見られない
・専門・科学技術サービス
選挙後にビジネスは一時的に活況を呈したが、その後の不透明感が勢いを削ぐ結果となり、不確実性が再び高まっている。
・公共行政
月初に連邦予算の凍結に関連した契約の不確実性が見られたが、現在はおおむね通常の業務に戻っている。
・卸売業
天候がひどい。寒波や雪がなければ雨が降っている。現時点で最大の課題は天候だ。関税問題による木材市場の不透明感はあるが、需要がなければ価格はそれほど動かないだろう。住宅の手頃な価格や高金利が依然として逆風となっているが、市場のセンチメントは良好に見える。
出所:米供給管理協会(ISM)

【3】所感:不確実性に伴う懸念が高まる中一定の安心感を与える結果

今回発表されたISM非製造業景気指数は、関税政策などの不確実性の高まりによる懸念が強まっていた中でも、米国サービス業の景況感が依然として堅調さを維持していることを示し、市場に一定の安心感をもたらす結果だったと言えます。

足元の政治動向としては、3月4日に発動したカナダとメキシコに対する関税に関して、5日には自動車に対する関税が1ヶ月間適用除外とされる方針が示されました。こうした揺れ動く関税政策の不確実性の高さに、企業の景況感は今後も影響を受けることが想定されます。

そのような状況下では、政治動向を細かに追いつつも、企業や市場のセンチメントに過度に振り回されず、実体経済のハードデータを冷静に読み解く姿勢が求められます。まずは、3月7日(金)に公表される雇用統計で、直近の労働市場の状況を確認しましょう。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐