2024年3月4日(火)0:00発表(日本時間)
米国 ISM製造業景気指数

【1】結果:拡大圏を維持したものの市場予想と前回結果は下回る

2月の米ISM製造業景気指数は50.3となり、景気の分岐点となる50を2ヶ月連続で上回ったものの、市場予想(50.7)と前回結果(50.9)を下回りました。なお、経済全体では、一般的に42.5以上を記録すると景気拡大とみなされますが、今回で58ヶ月連続の景気拡大を示しました。

※製造業の拡大・縮小を判断する基準値は50ですが、製造業が経済全体に占める割合は1割程度であることから、指数が50を下回ったとしても、経済全体としては必ずしも縮小を意味するわけではありません。米供給管理協会の回帰分析に基づく調査によると、過去のISM製造業景気指数と米国GDP成長率の関係から、指数が42.5を上回れば、一般的に経済全体(GDP)は成長していると解釈されます。

【図表1】ISM製造業景気指数の推移
※市場予想はBloombergがまとめた市場予想の中央値
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【2】内容・注目点:関税の影響で受注-在庫バランスは悪化し生産も低下

そもそもISM製造業景気指数とは

ISM製造業景気指数は、全米供給管理協会が製造業300社以上の仕入れ担当者に生産状況や受注状況、雇用状況等の各項目についてアンケート調査を実施し、その調査を基に製造業全体のセンチメントを指数化した指数です。企業のセンチメントを反映しており景気転換の先行指標とされること、また主要指数のなかでは最も早く発表されることから注目が集まります。

2月結果の詳細・内訳

【図表2】ISM製造業景気指数、各項目まとめ
※太字は総合指数の構成要素。
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

景気の先行指標の新規受注は再び縮小圏に転落

図表2の通り各項目を見ると、景気の先行指標とされ最も注目の集まる新規受注は、前月比6.5ポイント低下の48.6となり、4ヶ月ぶりに縮小圏へ転落しました。調査回答者のコメントによれば、今回の悪化はトランプ政権による関税政策の不確実性が高まっていることが主な要因と考えられ、企業はその不確実性の高さから新規受注を控えざるを得ない状況にあることが分かります。

生産は前月から低下、受注-在庫バランスも悪化し今後の生産減少を示唆

新規受注(需要)の低下に伴い、生産指数は50.7となり前月から1.8ポイント低下しました。依然として50を上回っており、企業の生産レベル自体は一定の安定感を維持しているといえますが、今後も低下トレンドが継続し縮小圏へ転落する可能性があるため、予断を許さない状況です。

一方、今後の生産動向を分析するうえでは、在庫指数との組み合わせが重要となります。そして、今回の在庫指数は、新規受注と生産指数が低下するなかで4.0ポイント増加して49.9となりました。

本来、新規受注や生産が増加する局面で在庫が積み上がるのが自然なサイクルと言えますが、今回は新規受注と生産が低下した状況での在庫上昇であるため、企業としては意図せぬ在庫の積み増しが起きていると想定されます。図表3に示した受注-在庫バランスを見ても、在庫が新規受注以上に増加しており、今後の生産をさらに抑制する要因になり得ることが示唆されます。

【図表3】受注-在庫バランスと生産指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

雇用指数も再び縮小圏へ

生産指数の減少とともに雇用指数も、前回から2.7ポイント低下して47.6となりました。前回1月の雇用指数は、2024年5月以来8ヶ月ぶりに拡大圏へと回復しましたが、今回は再び縮小圏へ転落となりました。

なお、雇用指数は2024年半ばから回復基調であることから、今回の転落が単月のものとなる可能性もあり、来月以降の結果を確認する必要があるでしょう。また、ISM調査は企業のセンチメントを指数化したソフトデータであるため、3月7日(金)に発表予定の雇用統計でハードデータの確認が求められます。

【図表4】ISM製造業雇用指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

入荷遅延指数は上昇も必ずしもいい結果ではない

入荷遅延指数は、前月から3.6ポイント上昇して54.5となり、3ヶ月連続で拡大圏を維持しました。入荷遅延指数が上昇する背景には、需要の強さやサプライチェーンの混乱といった要因が考えられます。しかし、新規受注が今回縮小圏へ転落している点を踏まえると、今回の上昇は主にサプライチェーン側の問題であり、関税政策が原因の一つとみられます。報告書によれば、買い手とサプライヤーの間で、関税分をどちらが負担するかについての交渉が行われており、そのために一部の材料の納品が遅れているといいます。

支払価格指数は再び上昇

総合指数の構成要素以外では、支払価格指数が前回の54.6から62.4に急上昇しました。これは2022年6月(78.5)以来の最高値であり、今後のインフレ圧力の増加が懸念されます。

【図表5】ISM製造業支払価格指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【3】所感:見出しの数値ほど内容は良くない結果

米製造業は2ヶ月連続で、好不況の境目とされる50を上回る結果となりました。本来であれば、長らく低調が続いた米製造業が回復基調に入ったとして歓迎されるはずの数値ですが、詳細を見てみると今回の総合指数を押し上げたのは入荷遅延指数と在庫指数の2つでした。企業活動の景況感とより密接に関わる新規受注指数や生産指数、雇用指数は低下していることから、今回の結果は、総合指数の表面上の数値ほど良くない結果だったと言えます。

懸念材料としては、やはりトランプ政権による関税の影響が挙げられます。今回の調査における回答者のコメントの3分の2は関税に関するもので、これはISMが調査を開始して以来、最も高い割合だったといいます。世界経済政策の不確実性は過去最高レベルまで高まっており(図表6参照)、今後も政治要因から目が離せません。

【図表6】世界経済政策不確実性指数
出所:Bloombergよりマネックス証券作成

そして、こうした不確実性の高さは、企業活動におけるコスト増大につながり得るものです。ISM指数は企業の景況感・センチメントを指数化したソフトデータであり、実体経済を示す数値とは別物ではありますが、すでに企業のセンチメントには政策の不確実性の影響が出始めていることが今回確認できました。

今後は、より実体経済を反映するハードデータに関税の影響がどのように現れてくるかが注目点となりますが、まずは目先の3月7日(金)に発表される雇用統計で、足元の労働市場の状況を確認しましょう。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐