4月21日の米国市場を振り返る
貿易戦争の継続に加えて、トランプ米大統領によるFRBのパウエル議長への攻撃が激化し、株式市場は再び不安定な動きを見せている。株は売られ、債券も売られ、そして米ドルは過去3年間で最安値を記録。この状態はまさに「バイヤーズ・ストライキ」、投資家が買いをストップし、市場にサポートが入らないという展開になっている。
そのような状況で、今のマーケットを象徴する「Twilight Zone(トワイライトゾーン)」という言葉が紹介された。これは元々アメリカのホラー・サスペンスのテレビ番組の名前で、「現実と非現実のあいだ」「秩序と混沌のはざま」といった状態を意味する。まさに今のマーケットは、理屈も通じず、正常さも失われた「トワイライトゾーン」に入っているような混沌ぶりである。
トランプ米大統領によるパウエルFRB議長に対する攻撃が激化
マーケットが「トワイライトゾーン」にある中、トランプ米大統領のパウエルFRB議長に対する個人攻撃が激しくなっていることが、さらに混沌とした状況に追い打ちをかけている。4月21日にもパウエル氏に対して、「Mr. Too Late(遅すぎる男)」「Major Loser(大敗者/負け犬)」といった言葉まで使って批判をしている。
なぜトランプ米大統領が、そこまでパウエル氏に対して怒っているのか。それは2024年9月に50bpの利下げを実施したことにある。あの時期は、株式市場が史上最高値、GDP成長率は3%と、経済は絶好調だった。しかし今、株価は下がり、第1四半期のGDPはマイナス3%が予想されており、深刻な状況なのに、FRBは動こうとしない。これが「なぜバイデンの時には急いで利下げをしたのに、今は利下げをしないのか」という非常に強い不満につながっている。
さらに米国外をみると、他の中央銀行は、次々と利下げを実施し、その中には、米国との貿易戦争の最前線にいる国々も含まれている。そのため、トランプ米大統領としては、「自分は裏切られた」と感じているのではないか。しかし、そもそもパウエル議長を指名したのはトランプ氏自身である。
パウエルFRB議長の解任の可能性は?
そもそも、大統領にFRBのトップをクビにする権限があるのか。これは米国で1935年に争点になったことがある。その時の判例が有名な「ハンフリーズ・エグゼクター事件」である。これは、当時の大統領がFTC(連邦取引委員会)という独立機関の委員を解任したが、訴訟になり、最高裁で「大統領が独立機関の委員を解任するのは違法である」という判決が出た。つまり、大統領の解任権には制限があるという重要な前例である。
しかしここで重要なのは、トランプ米大統領がFRBの議長を解任できるかどうかという手続き上の問題ではなく、今のマーケットでパウエル議長を解任した場合、不確実性を嫌うマーケットが暴落をするというリスクの方である。
政権の中でもこの件に関しては明確に反対している人たちがいて、トランプ米大統領本人にも伝えているようである。注目点は、ケビン・ウォーシュ元FRB理事で、彼はパウエルの後任候補として名前が挙がっているにもかかわらず、「パウエルを解任するべきじゃない」と反対している。これは自らのFRB議長就任の機会を遠ざけることになるかもしれないわけで、それでも異議を唱えている点はかなり重みがある。ベッセント財務長官も一貫して反対の立場である。
ただし、政権内にはパウエル更迭を強く推しているグループもいるようだ。ウォーシュ氏やベッセント氏のような重鎮の意見が、必ずしも最終決定に反映されるとは限らず、そこが怖いところである。
マーケットに対する「悲観バブル」
今、米国では2025年第1四半期の決算発表が行われている。今週(4月21日週)はS&P500採用銘柄のうち約4分の1の121社の決算発表が行われる見通しである。23日(水)はテスラ[TSLA]、24日(木)はアルファベット[GOOGL]の決算発表が行われる予定だ。
あまりにもワシントン発の情報のノイズが出過ぎという状況ではあるが、少し冷静に現状を整理すると、マーケットに対する悲観さがバブルになってきているようだ。
・AAII(米国個人投資家協会)のブルベアレシオの、ベア(弱気)の人のレベルが歴史的に非常に高い
・VIX指数も60ドルを超え、RSI(相対力指数)で見ても非常に割安、売られ過ぎにある
・米中経済戦争が悪化
・パウエル議長解任懸念
これ以上悪い話が出るのかという状況である。
不確実性が和らぐ段階への過渡期
悪い話ばかりでもない。4月21日にはウォルマート[WMT]、ホームデポ[HD]、ターゲット[TGT]など米国を代表する大手小売企業の幹部がホワイトハウスに入ってトランプ米大統領とミーティングを行った。これらの企業は程度の差はあれ、輸入依存型のビジネスモデルである。どのような問題が起きつつあるのか、企業のトップからの申し入れを無視するわけにもいかず、何らかの形で今後の政策に反映されるのではないか。
また、ホワイトハウスは、現在75ヶ国以上と貿易交渉を行なっており、例の90日間の間に、いくつかの国々と、交渉締結が起きる可能性は極めて高い。これはマーケットを明るくするニュースだと思う。
これまでトランプ米大統領は株価の下落は気にしていないと思われていたが、実際は気にしているようだ。「トランプ・プット」はS&P500で、5,000ポイントのレベルで下値支援が入るのではないかと見られている。
今は、「最大の不確実性」がマーケットを支配しているが、いずれは「やや不確実性が和らぐ段階」に移行する。つまり「明確性が少しでも見え始める段階」へと移行するだろう。
1年、2年後のS&P500は今より高いレベルにあるだろう。現在は、「株価上昇への移行期」で、不安定・混乱状態のマーケットが徐々に安定していき、株価が上昇基調に転じていく過程の時期ではないかと考えている。