TSMC[TSM]が最先端ロジック半導体の生産シェア6割に、良品率でも他社を圧倒
AIに使う先端半導体の生産をほぼ総取り
世界最大の半導体の受託生産会社、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC)[TSM]は1月16日、2024年10-12月期の売上高、純利益とも過去最高になったと発表した。売上高は前年同期比38.8%増の8684億台湾ドル、営業利益は63.6%増の4257億台湾ドル、純利益は57.0%増の3746億台湾ドルだった。AI(人工知能)向け先端品の旺盛な需要に支えられ、2024年通期で見ても売上高は3割余り、純利益は4割近く増加し、売上高と純利益ともに過去最高を更新した。
TSMCは、最先端ノードである回路線幅3~5ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端ロジック(演算用)半導体の性能・歩留まり(良品率)で、競合他社を圧倒している。米エヌビディア[NVDA]などが開発するAI半導体の生産をほぼ総取りしており、営業利益は50%に迫っている。
今四半期(2024年第4四半期)におけるテクノロジー別売上高では、より細い線幅である3ナノと5ナノの生産が全体の6割を占めている。前期(2024年第3四半期)末時点では全体の52%だったことから、より最先端へシフトしていることは明らかである。
プラットフォーム別に見ると、HPC(ハイパフォーマンスコンピューター向け)が前期に比べて2割近く伸びている。また、今四半期に関してはスマートフォン向けが伸びていることもわかる。TSMCは、2021年から米アリゾナ州において新工場の建設を進めている。主要顧客の1社であるアップル[AAPL]は、このアリゾナ工場にiphone向け半導体製造を依頼すると表明していたが、一部報道では2024年9月の時点で、小規模ながら生産が始まっていることも伝えられている。
1強ゆえのリスクがあるとすれば、トランプ政権による関税か
台北での決算説明会に出席したTSMCの魏哲家会長兼最高経営責任者(CEO)は、AI向けの需要は「今年も強く成長する」と語った。2025年も強いAI需要を背景に、通年の売上高は米ドルベースで250億米ドルから258億米ドルの間(前年比20%台半ば近い増加)、営業利益率は46.5%~48.5%が見込まれると説明した。また、設備投資計画は最大4割増の380億~420億米ドルで、3年ぶりに過去最高を更新する見通しであることを明らかにした。
ただし、懸念材料がないわけではない。1月17日付けの日本経済新聞の記事「TSMCに米関税の影10~12月は最高益AI半導体1強、トランプ氏標的 米工場役割増す」は、トランプ政権の関税や輸出規制のリスクがくすぶると指摘している。最先端半導体の製造分野で独走態勢に入ったTSMCだが、1強ゆえのリスクも抱えるとしており、次のように論じている。
最大の懸念はトランプ氏の「米国第一主義」の存在だ。トランプ氏は大統領選中に台湾を巡り「米国の半導体ビジネスを全て奪った」と発言した。実現性は不透明だが、半導体やデジタル製品に関税が課された場合、TSMCの業績だけでなくスマホやAIの需要に影を落とす可能性がある。
TSMC最大の功績は「ファンドリ・ビジネスモデル」を確固たるものにしたこと
「6大顧客」からAI関連の最先端半導体の注文が集中
前述のように、現在、TSMCはデータセンターなど「クラウド」から、パソコンやスマートフォンといった端末側に搭載する「エッジ」まで、AIに使う先端半導体の生産をほぼ総取りする「1強」体制の構図が鮮明になっている。エヌビディア、アップル[AAPL]、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]、クアルコム[QCOM]、インテル[INTC]、台湾のメディアテックという「6大顧客」から、AI関連の先端半導体の注文が集中的に舞い込んでいる。
地域ごとの売上を見ると、2019年の時点で6割程度だった北米向けが近年では7割弱にまで高まっている。一方、2019年には2割を占めていた中国向けの売上は減少傾向にある。北米の売上が高まっている理由は「6大顧客」であるファブレス企業の多くが米国に集中していることが挙げられる。
TSMCの圧倒的な技術革新のスピードが、競合の参入を防ぐ「モート(堀)」に
ファウンドリ・ビジネスは一見、顧客の発注に合わせて製造を行う「下請け」に近く、高収益のビジネスモデルとはかけ離れているように思われる。しかし、TSMCの「ファウンドリ・ビジネスモデル」は彼らを高収益かつ他に類を見ない企業にしている。それはなぜなのか。
TSMCはすでに2025年から他社に先駆けて、次世代半導体「2ナノ品」の量産を予定している。また、次々世代である1.4ナノメートル品の量産技術の開発にも着手するなど、他社を寄せ付けないスピードで技術進化の先頭を猛スピードで疾走している。
TSMCは圧倒的な技術革新のスピードにより、最先端の半導体チップはTSMCでないとつくれないという状況を作り出している。半導体チップの性能の進化は回路パターンの「微細化」が目的であり、いかに細かい回路をチップ上につくれるかにかかっている。
半導体製造は、高性能で高額な製造装置をファブに設置すれば可能になると言うものではない。いち早くファウンドリ・ビジネスを展開したTSMCには長年にわたる生産技術の蓄積がある。半導体製造は多くの工程を必要とするだけではなく、細心の注意が求められる。設計が正しくても、実際の製造の場面においては、設計通りに製造できるとは限らない。
常に性能向上が求められる半導体分野において、他社の追従を許さないスピードで技術革新を進め、その最前線にいる。「最先端のチップをつくれるのはTSMCだけ」という状況にあるため、顧客と対等な関係を築くことにもつながっている。
最先端を手がけるファンドリ・ビジネスには、長期にわたる技術の積み重ねと特許戦略、また人材など、高度な要素が必要となる。新規参入は難しく、ウォーレン・バフェット流に言えば、競合の参入を防ぐ「モート(堀)」が形成されているビジネスだと言える。TSMCの最大の功績は、このファウンドリと呼ばれるビジネスモデルを確固たるものにしたことである。