バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]がオクシデンタル・ペトロリアム[OXY]株を買い増し
年明けにかけて、米国は寒波に見舞われる見通しだ。一部報道によると、米国の中部および東部で1
月に厳しい寒波が到来すると予想され、気温は平年を11度下回る場合もあるとみられている。暖房用の燃料需要の拡大や、生産施設の凍結によるシェールオイルの減産が想定されたことから、2024年末以降、WTI原油先物価格が上昇している。直近では74ドル台まで値上がりしており、レンジ相場から上に抜けてきたように見える。
バークシャーはオクシデンタル株の約28%を所有
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が米石油大手オクシデンタル・ペトロリアム[OXY](以下、オクシデンタル)の株式を買い増したことが分かった。バークシャーが2024年12月19日にSEC (米証券取引委員会)に提出した書類によると、12月17日からの3日間で4億900万ドル相当のオクシデンタル株を追加取得した。
バークシャーはすでにオクシデンタルの筆頭株主であったが、今回の買い増しにより、バークシャーによるオクシデンタルへの出資は約2億6417万株となり、発行済み株式の28.15%を所有していることになる。評価額にして約125億ドルだ。
原油の需給、価格下落に対する懸念は?
ドナルド・トランプ次期米大統領が提案している関税が、米国だけでなく国際的な経済成長を損ない、原油の需要を弱めるのではないかという懸念がある。トランプ氏は2024年11月の大統領選挙において「壊滅的なインフレ危機をただちに終わらせ、金利を下げ、エネルギーコストを引き下げるために、掘って掘って掘りまくれ!」と述べており、原油価格が下落する可能性も指摘されている。こうした動きもあり、オクシデンタルの株価は2024年の1年間で2割余り下落した。
一方、オクシデンタルが2024年11月13日に発表した直近(2024年9月末時点)の業績は、売上高がほぼ横ばい(微増)の71億7300万ドルだった一方、純利益は前年同期に比べて約16%減少した。減益とはなったものの、潤沢なキャッシュフロー(15億ドルのフリーキャッシュフロー)を活用し、今第3四半期に40億ドルの債務支払いを進め、バランスシートが改善していることが確認された。
オクシデンタルは、米国のテキサス州西部とニューメキシコ州南東部にまたがる地域のパーミアン盆地に広大な権益を保有している。さらに、2024年8月にはシェール大手クラウンロックとの統合が完了し、第4四半期には日量145万バレルの石油換算生産量に達することが予想されていた。オクシデンタルは2025年を通じてクラウンロックの持つ資産で5基のリグを運用し続ける計画ということだ。反騰態勢は整っている。さて、需給はどう推移するのだろうか。
エネルギー業界は大型業界再編が進行中、勢力図はどのように変わるのか?
米国ではエネルギーセクターにおける業界再編が急速に進んでいる。業界最大手のエクソン・モービル[XOM]はパイオニア・ナチュラル・リソーシズを約600億ドルで、シェブロン[CVX]は530億でヘス[HES]を買収することを発表している。金融情報アプリを手がけるQuartrがまとめた2023年の大型M&A(合併と買収)を見ると、他のセクターを大きく上回る大型のM&Aがエネルギーセクターにおいて展開されていることが分かる。
背景にあるのは、化石燃料に対する根強い需要だ。新興国の経済成長などを背景とした底堅い石油需要を見込み、大型投資が活発化している。日米欧などが2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標を掲げているが、太陽光など再生可能エネルギーの導入促進だけでは、需要を賄い切れないという現実があるのだろう。
2024年12月20日、トランプ次期米大統領は欧州連合(EU)に対し、対米貿易黒字を相殺するために米国からの石油・ガス購入を拡大すべきだと述べ、できなければ関税に直面すると警告した。トランプ氏は自身の交流サイト(SNS)「トゥルース・ソーシャル」で、「欧州連合に対し、米国側の膨大な赤字をわれわれの石油とガスの大量購入で埋め合わせなければならないと伝えた。さもなければずっと関税をかける」と投稿した。
ロイターの2024年12月21日付けの記事「トランプ氏、EUに石油・ガス購入の拡大要求 『関税』警告」によると、欧州委員会の報道官は「EUはロシアからのエネルギー輸入を段階的に廃止し、供給源を多様化することに取り組んでいる」とし、両者の関係強化についてトランプ氏と協議する用意があると述べたという。
一方で、「欧州の購入は米国産原油の供給能力の限界に近づいており、2025年の輸入拡大の余地はほとんどない」と指摘。EUはすでに米国の石油・ガスの主要な輸出先であり、米国が生産を増やしたり、アジア向けを振り替えたりしない限り、実際にはEUが購入を増やすことはできない。トランプ氏は石油・ガス生産をさらに増やすと約束している。両者の攻防は石油・ガスの需給にも影響を与えそうだ。
「ラテンアメリカで最も裕福な人物」もエネルギー株への投資を実行
石油株への投資を積極化しているもう1人の資産家がいる。メキシコの大富豪であるカルロス・スリム氏、84歳だ。スリム氏は1940年、メキシコシティに生まれ、実業家の息子として育った。12歳から株取引を始め、資産運用の英才教育を受けていたと言われている。メキシコ最高峰のメキシコ国立自治大学を卒業後、投資銀行にてブローカーとして活躍し、1965年に財閥「グルーポ・カルソ」を設立。タバコや自動車部品企業などの買収を繰り返し、事業を拡大させた。
1982年にメキシコ債務危機が起こる中でも、企業への投資を継続し、1990年代にはメキシコ国営企業民営化の波に乗り、メキシコ国営の通信電話会社「テルメックス」を買収。そのテルメックスの一部事業から「アメリカ・モビル」を立ち上げ、固定電話や携帯、ケーブルテレビなどに関連する通信業界で成功を収め、ラテンアメリカで最も裕福とされている。
そのスリム氏は、2024年12月、自身のファミリー投資会社を通じて、ニュージャージー州に拠点を置く石油精製会社PBFエナジー[PBF]に6億200万ドルを投資し、出資比率を25%に引き上げた。また、ヒューストンに拠点を置く石油生産会社タロス・エナジー[TALO]の株式3億2600万ドル分も購入した。2024年、PBFの株価は42%下落し、タロス社の株価も3割以上値下がりしているが、今後、化石燃料の需要が当分なくならないという見通しのもと、原油生産および精製ポートフォリオの拡大に約10億ドルを投じた。
スリム氏は2024年、メキシコ南部にある2つの油田の持分を5億3000万ドルで取得することで合意し、エネルギー生産への賭けを拡大した。また、2月には、石油事業への参入をさらに推し進めるため、石油精製と石油化学製品についてより深く学ぶ計画があると述べていた。また、メキシコ湾とその周辺で経験を持つ企業との提携を検討しているとも語っていた。
2人の富豪による米エネルギー企業への投資は今後さらなる業界再編を促すきっかけのひとつになりそうだ。また、トランプ次期大統領による政策がどのように需給に影響を与えるのか、価格も含め動きが大きくなりそうだ。