2024年1月14日(火)22:30発表(日本時間)
米国 生産者物価指数(PPI)
【1】結果:総合、コアいずれも市場予想を下回る結果
12月の米国生産者物価指数(PPI)は前年同月比+3.3%となり、前月の+3.0%からは伸びが加速したものの、市場予想の+3.5%は下回りました。また、物価動向の風向きを確認できる前月比ベースでは市場予想と前回結果(ともに+0.4%)を下回る+0.2%となり、物価の伸びに鈍化が見られました。
また、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアPPIは、前年同月比+3.5%となり、+3.8%を見込んだ市場予想を下回りました。前月比ベースでは横ばいで、市場予想と前回結果をいずれも下回りました。
【2】内容・注目点:PCE構成項目に注目
そもそもPPIとは
PPIとは、米国の生産者物価指数のことを指し、原材料や製品を対象として生産段階での財・サービスの価格変動を測定しています。
例えば、机などの家具で考えると、企業が机という商品を生産するために仕入れる木材や金属といった原材料の価格変動を測定するのがPPIであるのに対し、CPI(消費者物価指数)は最終的に消費者が購入する際の机の価格変動を測定します。
必ずしもそうとは限らないものの、一般的に、企業が仕入れる原材料の価格変動は、最終的に消費者が支払う価格に反映されることが多いため、PPIはCPIの先行指標として注目されています。
また、PPIの項目のうち、ポートフォリオ管理費や航空運賃、外来医療費などは、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ指標として採用している個人消費支出(PCE)価格指数の算出に用いられるとされています。このため、PPIは月末に発表されるPCE価格指数や、今後の金融政策の動向を予測する上でも注目が集まります。
12月結果の内訳・詳細:総じて物価の落ち着きを示すもPCE項目は強弱あり
今回12月のPPIの結果は、総合指数が事前の市場予想ほどではないものの前月から上昇を示し、ヘッドラインの数値からはインフレが加速する先行きが示唆される結果となりました(図表2参照)。
図表3の通り、前月比の内訳を見ると、財価格は11月の+0.7%から12月は+0.6%へとやや鈍化しました。11月に鳥インフルエンザの影響で卵価格が前月比+55%と急騰した食品価格が+2.9%から-0.1%へと落ち着いた一方、エネルギー価格が+3.5%と大きく上昇したことが主な要因です。
エネルギー価格の上昇は、12月以降のWTI原油先物価格の上昇と一致しています(図表4参照)。1月に入ってからも上昇基調が続いており、来月のPPIでもエネルギー価格が押し上げ要因となる可能性が警戒されます。
変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア財価格は前月から横ばいとなり、財価格全体の上昇が示す印象とは異なります。製造業の景気に底入れの兆しが見え始めていますが、財の需要は依然として力強さを欠いているようです。
また、サービス価格は12月に前月比で横ばいとなり、11月の+0.3%から伸びが鈍化しました。これは、前月に急上昇していた流通業(小売・卸売)のマージン手数料が+0.7%から-0.1%に低下したことが主な要因です。このマージン手数料は業界の利益率を示す指標です。今回の低下はこれまで物価上昇をけん引してきたサービスインフレの落ち着きを示す好材料といえますが、下落が続く場合には、流通業の利益率低下や需要全体の減速が意識されるため、今後は適度な水準での伸びが続くか注目です。
総じて、今回の結果は前月から物価の落ち着きを示しましたが、FRBが金融政策の判断材料とする個人消費支出(PCE)価格指数に関連する項目では、強弱が混在しました。外来医療費や入院治療費などのヘルスケア項目は安定的な動きを見せた一方、ポートフォリオ管理費が-0.6%から+0.2%へと上昇したほか、航空運賃は-1.6%から+7.2%へ大幅に上昇しています。
【3】所感:航空運賃の上昇による月末PCEの上振れ懸念は残るも、ひとまず安心感のある結果
今回のPPIは市場予想を下回り、雇用統計後に高まっていた利下げペース鈍化への懸念を一部和らげ、ひとまず安心感を与える結果となりました。
一方、長期金利はPPI発表後に一時低下したものの、その後再び上昇するなど不安定な動きを見せました。これは、FRBが金融政策で最重視するPCE価格指数の算出に用いられる航空運賃が前月比+7.2%と大きく上昇するなど、一部で強さが見られたため、市場が解釈に戸惑った結果と考えられます。
答え合わせとして1月15日に発表されるCPIが目先の注目点となりますが、事前の市場予想では、12月の総合CPIが前月の+2.7%から+2.9%に上昇し、コアCPIは+3.3%で横ばいとなる見込みです。
フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐