マネックス証券の投資教育部門であるマネックス・ユニバーシティでは、現役の中学生、高校生の皆さんから、お金にまつわる素朴な疑問・質問を募集。それに答えることで、お金のことをわかりやすく解説する『世界を知る大人になるための本気の「お金」授業』を連載しています。

マネックス証券が本当に伝えたいお金のこと、世界のこと…、親子で一緒に読んでほしい本音トークを繰り広げます。

第9回目のゲストは、芸人から投資家に転身され、2023年末には通算獲得利益が85億円(含み益込み、税引き前)に達した井村俊哉さん。将来的にはファンドを立ち上げたいと表明されていますが、新たなチャレンジへのモチベーションには、3人のお子さまたちに「自分(お父さん)の仕事で社会に貢献する」ところを見てもらいたいという思いがあるといいます。そんな井村俊哉さんに、投資の魅力や家庭での金融教育、中高生のみなさんに期待することなどについてお聞きしました。

投資は「一人旅のようなもの」、自分の意思決定を貫ける

――井村さんは「投資を生涯続けたい」とお話されていますが、井村さんにとって「投資の魅力」とはどのようなものですか? 

 
投資は「一人旅」にたとえられると思います。一人旅は、行く場所や予算、日程などをすべて自分で決めて行動します。つまり、すべて自分でコントロールできる。投資もそうです。自分の裁量で銘柄を選び、自分のタイミングで自分が好きなだけ買い、そして、自分の好きなタイミングで売ることができます。極論を言えば、一人で部屋に閉じこもり、他者の意思を介在させずに意思決定ができる。自分の意思を100%ピュアに貫くことができるのが投資です。

世の中の意思決定や決断は、ほとんどが他者との関係の中で行われます。例えば、仕事を進める際、自分は「絶対にこのやり方がいい」と思っても、上司が「違う」と言えば、自分の意思を貫き通すことはできないでしょう。でも、一人旅や投資は、自分一人で決断して責任も結果も自分一人で負う。それが魅力だと思います。

井村家で子どもに伝えているのは「行動と報酬の関係性」

――井村さんには現在3人のお子さまがいらっしゃいますが、ご家庭でお金についてお話されるときに大事にしていること、意識して伝えていらっしゃることを教えてください。

金融教育というより、社会の仕組みといったほうがよいかもしれませんが、「行動と報酬の関係性」について、しっかり伝えるようにしています。仕事をすることで給料が得られるなど、行動して価値を提供する対価として報酬を得られる仕組みがあり、それによって社会が成り立っていることは伝えていますね。

臨床心理士の奥田健次さんが書かれた『叱りゼロで「自分からやる子」に育てる本』(大和書房)という書籍があるのですが、私が子どもと接するうえで大きな気づきを得た一冊です。この本では、褒めて伸ばす指導を「アメ」、叱責や体罰を与える指導を「ムチ」とし、育児の極意は「アメとムチ」ではなく、「アメとアメなし」だとしています。

いい行動をしたときには、過剰なくらいに褒める。これが「アメ」です。例えば、妻のお手伝いをしたときには、「すごいね」「ありがとう」「本当に助かったよ」と大げさに褒めます。いい行動を引き出すためにポイント制度も導入して、いいことをすると1ポイント付与しています。可視化するためにポイント表を作り、「ありがとう!ポイント入れていいよ」と、そこに丸を書かせています。10ポイント貯まると100円のものを買える仕組みです。褒めるのは決算書を読みながらでもできるので、乱発しています(笑)。

一方、ダメな行動をしたときには絶対に報酬を与えない。スーパーで「お菓子が欲しい」と駄々をこねたときに、静かにさせるためにお菓子を買うのではなく、「まだ、そのお菓子を買えるだけのポイントが貯まっていないでしょう?」と伝えます。これが「アメなし」です。

ダメな行動に成功体験を与えると、駄々をこねれば買ってもらえるというダメな行動のループができてしまう。そうではなく、「欲しいなら、いいことをたくさんしてポイントを貯めなさい」と伝えることで、いいループが回るようになります。さらに、1,900円のものを買うには190ポイントが必要なことを理解できてくると、「190ポイントは大変そうだから、500円のものを買えるようにがんばろう」と金銭感覚も養うことができるのです。

幸せになる一番簡単な方法はお金を稼ぐこと

――中高校のみなさんに、今、お伝えしたいことはどんなことでしょうか? 

お金を稼ぐことから目を背けないでほしいと思います。Z世代は、経済的な充足よりも自分の価値観を重視する傾向があると聞きます。だからと言って、本音ではお金が欲しくないわけではないでしょう。

 
基本的に、みんな幸せになりたいと思っているはずです。思い切ってお伝えしますが、幸せになる一番簡単な方法は、お金を稼ぐことではないでしょうか。お金が増えて困る人はいないでしょうし、ある一定のレベルまでは、お金の量と幸福感は相関するのも事実でしょう。その「一定のレベル」までは、お金を増やすという作業に、しっかり注目してほしいと思います。簡単にお金を稼ぐことはできませんので、自分自身に何ができるのか、人生を真剣に考えるきっかけにもなります。

「やりたいことができれば、お金は稼げなくてもいい」という考えは甘いと思います。経済的に成り立たなければ、好きを貫くことができなくなります。やりたいことをやるためにもお金が必要なのが現実なのです。

もちろん、経済的なこと以外の幸せもたくさんあります。でも、自分の幸せが見つからない間は、社会の役に立ち、一生懸命頑張ってお金を稼ぐことが道を開くことにつながると思います。

乗りたい船を見つけ、心地よい状態でバリューを発揮しよう

――最後に、中高生のみなさんにエールをお願いします。

「頑張る」ことは尊いけれど、好きではないことを頑張っても消耗するだけでしょう。そうやってお金を稼いでも幸福感は高まらないかもしれません。何かを頑張っていても「削られている」感覚があるのなら、思い切って「やめる」のも一法です。

 
私は、投資が好きでたまりません。これまで数多くの失敗をしてきましたが、一度たりとも止めたいと思ったことはありません。投資家としての未熟さに苦悩するのですが、悩んで悩んで悩み抜き、成長の糧にしてきました。経済的な損失を被っても、心の底から投資が好きなので、なにくそと踏ん張れる。でも、誰もがそうだとは限りません。

投資のことで言うなら、たとえば個別株投資が辛いなら、無理をしてまでやる必要はないと思います。お金を増やすことだけを投資の目的にするならば、長期・積立・分散投資で、低コストのインデックス投信などをコツコツと積み立てて資産形成を目指すのが最適解だと思います。無理をして個別株に投資をする必要はなく、仕事に精を出して、社会にバリューを還元するほうがよっぽどよいです。

船を操縦するには、漕ぎ方を学ぶことが大切だけれど、どの船に乗るかを選ぶことも大切だと聞いたことがあります。乗りたくない船を頑張って漕いだところで辛いだけです。自分が「乗りたい」と思う船を漕いでこそ、心地よい状態でバリューを発揮できます。ただし、若いうちは、まだ視野や世界が広がっていませんから、乗りたい船がわからないかもしれません。その場合は、いろいろな船に乗ってみて、違うと感じたならサッと乗り換えて、本当に乗りたい船を探してもいいのではないでしょうか。ここで頑張りたいと思える船を見つけられたらこっちのもの。間違っても大丈夫。思いっきり漕いでほしいと思います。