SNS上で著名人を名乗り、「投資」の名目で金銭をだまし取る「SNS型投資詐欺」。2024年から被害が急増中ですが、経済アナリストの森永康平さんも、自身の写真や名前を詐欺グループに悪用されてきたそうです。多数の被害者から報告を受けたことから、自ら「潜入取材」を試み、被害の実態についてメディアやYouTubeチャンネルで発信、啓蒙を続けている森永さん。今回は、進化する投資詐欺の手口をはじめ、被害の実情や投資詐欺に遭わないための心構えについてお聞きしました。
●プロフィール●
株式会社マネネCEO、経済アナリスト。証券会社、運用会社にてリサーチ業務に従事した後、アジア各国で新規事業の立ち上げや法人設立に携わり、事業責任者やCEOを歴任。2018年、金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、国内外のベンチャー企業の経営にも参画。著書に父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)、『森永先生、僕らが強く賢く生きるためのお金の知識を教えてください!』(アルク)など多数。
AIまで駆使して著名人になりすますSNS型投資詐欺
――社会問題になっているSNSを通じた投資詐欺ですが、森永さんご自身も写真や名前を無断で「ニセ広告」に使われるなどの被害に遭われています。「SNS型投資詐欺」の手口について教えてください。
典型的なのは、FacebookやX、InstagramといったSNS上で見かける「毎日上がる株を配信します」「絶対に儲かる投資方法を教えます」といった著名人の写真入りのニセ広告。多くの場合、広告にはQRコードが付いていて、興味を持ってうっかりQRコードを読み取るとLINEのグループトークに誘導される仕組みです。
「森永康平」を広告塔として掲げるSNSのニセ広告から、詐欺の流れを実際に体験してみたのですが、まず偽者の「森永康平」とアシスタントを名乗る女性の2人をはじめ、何百人もの参加者がいるグループトークに招待されます。もちろんチャットの参加者のほとんどがサクラ。偽物とアシスタントが「今日はこの銘柄を買いましょう!」と送ると、何百人ものサクラから「先生のおかげで資産が倍になりました!」「先日薦めていただいた銘柄はストップ高になりましたね」といったメッセージが次々と投稿されます。
2023年ごろまではここで「本物の森永康平さんですか?」などと疑うと、グループから強制的に退出させられていたのですが、今は免許証などの本人確認書類を証拠としてアップロードしてきます。当然、偽造なのですが、これがかなりよくできている。自分自身ですら「なぜ、僕の免許証を持っているんだろう」と思うほどです。
――LINEのグループトークで免許証を見せられると信じてしまいそうですね。
最近はさらに進化しています。「この免許証は偽造じゃないですか」と食い下がると、「通話したら信じてもらえますか」とビデオ通話に誘ってくる。応じると通話先に「ニセ森永康平」が現れて、“僕の声”で話しかけてきます。
僕の動画から顔や音声のデータを抜き取って加工した、いわゆる「ディープフェイク」(生成AIを活用した偽動画)なのですが、チャットボットのようなものを使っているのでリアルタイムで会話できる。応答に少しだけ遅れが出ても、そのタイムラグすらLINE通話だからとリアルに感じてしまう。ここまで徹底されたら、半信半疑だった人も信じてしまいますよね。
――ビデオ電話にまでAIを活用しているとは…。そこから、お金をだまし取られる手口はどんなものでしょうか?
「あなたは見込みがあるので個別にやり取りしませんか」と1対1のトーク画面に誘われて、「直接あなたの資産を運用してあげます」と提案されます。トークで示された専用口座に入金するとウソの約定明細や取引報告書が画像で送られてきて、それを見るとものすごく儲かっているわけです。
もっと投資したくなる気持ちにさせたところで、1000万、2000万……と、どんどん追加で入金させる。「そろそろ現金を引き出したい」と被害者が言うと、「海外の口座なので手数料と税金が500万円かかります」などと言って最後にもう一度、搾り取っていく。そこから急にブロックされて音信不通になる…といったパターンが非常に多いです。とにかく、限界までお金を引き出してからブロックするので、被害額が大きくなりがちなのですよね。
「自分だけは騙されない」という思い込み
――「SNS型投資詐欺」は50代以上の被害者が多いと聞きました。
警察庁が公表している特殊詐欺被害の資料では、被害者の年齢層は中高年から高齢者が大半です。中高年の場合、きっかけとなる詐欺広告に接触するのはFacebook経由が多いですね。デジタルネイティブ世代の若者はネットやSNSに慣れていますし、投資するための資金もそんなにありませんから、あまりこのパターンの詐欺には引っかからないですね。
2023年の秋ごろから、ポツポツと被害に遭った方よりメールが来るようになったのですが、一気に相談が増えたのは2024年1月以降です。やはり背景にあるのは、新NISAがスタートしたことですね。まわりは皆、投資を始めているけど、株式投資といっても何を買えばいいか分からない。そんなとき、金融・経済の専門家が無料で銘柄をピックアップしてくれるという広告を見て、思わず飛びついてしまうわけです。
――ニュースで社会問題として大きく取り上げられているにも関わらず、詐欺に簡単に引っかかってしまうのはなぜでしょうか。
「森永康平が広告に出ていた」と、僕に被害報告をしてくる方は数百人単位でいるのですが、中には信じ切って「金を返さないと訴えるぞ!」と連絡してくる方もいます。一方で、「同じ被害に遭ってほしくないから、森永さんのインタビューを受けて実際の手口を共有します」という被害者もいらっしゃる。
被害者に「よくニュースになっていたけど、知らなかったのですか?」と聞くと、「もちろん知っていた。こんなに怪しい話に引っかかるなんて、バカだなあと思っていた」と皆さん答えます。
では、なぜそこまで知識があるのに、引っかかってしまうのか。詐欺に遭った方のほとんどが、「自分が見た広告は、絶対に本物だと思い込んでいた」とおっしゃいます。LINEのやり取りで時折挟まれるカタコトの日本語だって、普通に考えれば怪しいのですが「先生はお忙しいからタイプミスしたのかな」と、ポジティブにとらえてしまう。「自分だけは大丈夫」と思い込む、都合よく情報を解釈する……典型的な「正常性バイアス」ですよね。
――もしも被害に遭ってしまった場合、対処法はありますか?
皆さん、なぜか僕のところに真っ先に被害を報告してくるので、「まずは最寄りの警察署に行って被害届を出しましょう」とお伝えしています。他にも、金融庁の「金融サービス利用者相談室」に連絡しておくといいでしょう。入金した口座の金融機関に、すぐに連絡をすれば詐欺に使われた口座を凍結してくれます。残高がもしも残っていれば、「振り込め詐欺救済法」に基づいて、申請した被害者に分配される可能性もあります。ただ、詐欺グループもそのあたりは抜け目なくて、入金を確認したらすぐに資金を移動するので、実際に騙し取られたお金を取り戻すのは難しいでしょうね。
「他人名義の口座にお金は移さない」、最後に引き返せるのはこのポイント
――「私だけは騙されない」と過信している人ほど危ないですね。「SNS型投資詐欺」の被害に遭わないためにはどうすればいいでしょう。
広告をタップしたり、QRコードにアクセスしたりしている時点で「詐欺師側の勝利はほぼ確定している」と言っていい。「怪しげな投資の広告には、近づかない」という点で、重要になるのはやはり「マネーリテラシー」だと思うのです。
詐欺師の使う言葉は2パターンあって、まず1つは「元本保証」。日本人は「損をしたくない」という人が多いので、容易に引っかかってしまいますが、そもそも特定の金融機関以外が「元本保証」を謳って資金を集めるのは「出資法違反」です。そこさえ知っていれば、「元本保証」を謳う投資の広告は詐欺だと見抜けますよね。
もう1つよくあるのは、「年2倍」など普通に考えたらありえないリターンの提示です。ただ、詐欺師側も頭が良いので、最近では「月利7%で運用します」といったパターンも。これだって、年利換算すると結局は倍以上のリターンになります。算数の知識があれば計算できますよね。この「月利7%」の広告は、実は全くの投資未経験者よりも、少し投資をかじったことがあるぐらいの人に「刺さる」ようです。
「元本保証」「絶対に儲かる」といった言葉や高すぎるリターンの提示を見たら、すぐ詐欺広告だと判断して「近づかない」というのが第一ですね。
――「元本保証」「年2倍」などの語句に「近づかない」ほかに気を付けるべきことはありますか?
また、SNSからLINEのグループトーク画面にいったん取りこまれてしまうと、そこから抜け出すのは至難の業ですが、最後に踏みとどまれるタイミングは「詐欺師の口座への入金」です。
この詐欺の最終的な着地点は「この口座に振り込んでください」もしくは「このアプリ経由で振り込んでください」です。でも、冷静に考えると一般的な資産運用の世界で個人の口座にお金を振り込むことはあり得ないですよね。「自分の名義以外の口座にお金を移せ」と言われたら100%詐欺なのですから、ぜひそこで引き返してほしい。
手を変え品を変え狙ってくる投資詐欺、今後予想されるのは…?
――森永さんがYouTubeチャンネルなどを活用して、投資詐欺の潜入取材や啓蒙活動を始めたのは、被害相談が後を絶たないからでしょうか。
投資詐欺の被害は、お金を失うだけではありません。「夫が老後のためにコツコツと貯めていた1億円を内緒で投資したら、すべて騙し取られてしまった」と高齢の女性から相談されたときは、言葉もありませんでした。家族関係も崩壊してしまうし、その後の生活設計もめちゃくちゃになってしまいますよね。
金融教育の会社を立ち上げてから、「詐欺に気をつけてください」という啓蒙活動はずっと続けていましたが、詐欺に遭いたくて遭っている人はいません。「気をつけましょう」と口で言うよりも、実際の詐欺師とのやり取りを音声や動画などで見せて「これは詐欺です」と注意喚起したほうが効果的だと思ったのです。
YouTubeで「詐欺の現場」を公開するようになって、何人かからすぐにメールをいただきました。「高齢の母が怪しい金融業者とLINEでやり取りしていて、子どもたちが注意しても聞かない。森永さんの動画を見てようやく詐欺だと理解してくれて、なんとか踏みとどまれました」というメールを見たときは、ホッとしましたね。
――投資詐欺の今後の手口についてはどう思われますか?
この1年は新NISAのスタートを背景に、株式投資に絡めた詐欺が多かったのですが、今後はビットコインやコモデティ、不動産などに関連する詐欺に移り変わることが予想されます。手を変え、品を変え、詐欺師はあなたの大事な資産を狙っているのです。投資をする人は常に「“おいしすぎる儲け話”は詐欺である」「自分だけは大丈夫と思わない」ことを心に留めてほしいと思います。
※本インタビューは2024年11月28日に実施しました。
※本内容は、個人の経験に基づく見解であり、当社の意見を表明するものではありません。
※投資にかかる最終決定は、お客様ご自身の判断と責任でなさるようにお願いいたします。
写真:竹井 俊晴