2025年の米国長期金利見通し:レンジ3.5%~4.5%
政策金利の4.75%は引き締め的、2025年は断続的に利下げが続くと予想
まず、2025年の米国の政策金利については、緩やかな利下げを想定しています。景気に中立的な金利水準である「自然利子率」に「予想物価上昇率」を加えた「中立金利」は、適切な政策金利水準とみなされます。景気を刺激も冷やしもしない水準であり、政策金利がこの水準よりも上ならば金融引き締め的、下ならば金融緩和的とみなされます。
米国の自然利子率は潜在成長率等を考慮して様々試算されていますが、0.7%~2%とみられ、予想物価上昇率である2%を加えた政策金利は2.7%から4%が中立的となります。なお、FRB(米連邦準備制度理事会)が長期的な短期金利の数値として現在提示している値が2.9%です。
また、アトランタ連銀が試算したテイラー・ルール(現在の景気状況において政策金利をどの水準に設定すればよいかを示した関係式)は、足元4.1%程度を示しています。少なくとも現在の4.75%は引き締め的であり、労働市場の鈍化に先手を打つ形での利下げとされる現段階から、インフレの落ち着きとともに中立金利に近づけていく断続的な利下げが続くでしょう。
2025年の金融政策はトランプ政権の政策の出方によっても振られることになりますが、まずは中立域の入り口である4.0%を目指す利下げが選択されるものの、堅調な景気が継続する際には様子見に転換するでしょう。労働市場の変調が早い場合は3%台へ利下げが継続すると予想します。なお、FRB当局者の2025年末の政策金利水準予想は中央値で3.4%と断続的な利下げが想定されています。
長期金利は景気次第で低下は緩やかなものに
長期金利については年を通してレンジの低下を想定しつつ、堅調な景気が金利低下を緩やかなものにとどめると予想しています。まず政策金利の引下げは長期金利にも低下圧力となります。利下げ局面における10年金利とFF金利との差はこれまでもゼロに向かって収束し、その後10年金利がFF金利を上回る傾向にあります。段階的なFF金利の利下げに伴い、FF金利が低下するよりも緩やかなペースで10年金利は低下し、まずは4%を目指すでしょう。
4%という長期金利の水準は長期実質金利(≒潜在成長率)2%+インフレ期待2%という中期的な目途値でもあります。現在、実質金利は潜在成長率並みの水準で落ち着いており、インフレ期待次第では4%中盤に向けた金利上昇圧力がかかる一方、景気鈍化局面では潜在成長率、インフレ期待ともに低下圧力がかかるでしょう。
また、予想政策金利+タームプレミアムとして長期金利を見てみると、足元タームプレミアムはレンジ上限で頭打ちとなりました。これまでタームプレミアムは2016年のトランプ政権誕生時、2021年のコロナ禍での財政支出、2023年の債務上限問題時、といった政府機能や財政支出への懸念が高まる時期に、レンジの上限を試してはその後収束してきました。
今回も第2次トランプ政権誕生とともにタームプレミアムは高まりましたが、レンジ上限を超えて金利上昇圧力となることは考えにくく、タームプレミアムによる金利の押上は4.5%程度までと予想しています。
次期トランプ政権の動向を注視、関税や移民政策によるリスクシナリオの可能性も
トランプ政権の政策が物価を押し上げるのか景気を停滞させるのか、前トランプ政権時の金利の動きが参考になります。2016年の大統領選挙前後に10年金利は上昇していますが、2017年に入るともみ合いの展開となりました。その後2018年には上昇、2019年には低下となるのですが、当時は減税による好景気からやがて関税による景気不安へと変わっていきました。その点で、今回も政策の出方には要注意となりますが、総じて金利の動きは企業景況感(グラフではISM製造業景況感指数)に符号的な動きとなっています。
IMFによると米国のGDPは2024年の前年比2.8%成長から2025年は2.2%成長と堅調ながら鈍化が見込まれることから、長期金利も落ち着いた動きが想定されます。また、議会審議を経る減税は2025年後半のテーマとなる一方、大統領令で可能な関税や移民政策が先行して執行されることで、インフレリスク台頭の可能性もありますが、むしろ2019年同様に景気鈍化を通じた金利低下となる可能性がより意識されます。なお、前回との大きな違いとして、当時の利上げ局面と異なり、現在は利下げ局面にあることも金利低下圧力となるでしょう。
リスクシナリオは堅調な経済が持続するなかで、関税や移民政策がインフレ期待の高まりにつながるケースです。その場合、金融政策は利下げ停止の一方で、市場では利上げの織り込みも始まり、長期金利は5%に向かうと考えられますが、政策の出方次第でもあり今後注意深く見守る必要があります。
2025年の国内長期金利見通し:レンジ0.7%~1.5%
賃上げが進むなか消費動向に注目、「金利のある世界」へ踏み出した先には?
次に国内金利ですが、まず政策金利について、中立金利は中央値で0.75%であり、年前半までにその水準への利上げ(0.25%で2回)が目指されるでしょう。その後の政策金利は国内要因としては消費の動向に注目です。
賃上げが進むものの、消費の基調は横ばいで食料品価格の上昇などによって生活防衛的な雰囲気も高まる中、賃上げの恩恵が消費行動につながっていくのか確認が必要になります。海外要因としては日銀もリスク視する米国の経済環境が堅調継続となれば、また円安基調が強まれば、年後半に向けて一段の利上げも可能となるでしょう。
長期金利は上限1.5%程度までの上昇を予想する一方、国内外の停滞によっては0.7%程度までの調整を予想します。年前半は緩やかな金利上昇となる一方、年後半は米国に振られる展開となるでしょう。
日本の金利はこれまで米国金利への連動性が予想の骨格となってきました。危機時を除く通常時で日米金利差は3%程度あり、そのレンジが今後も意識されますが、金利のある世界へ踏み出した国内要因による変動、特に経済の好循環による金利上昇要因が年後半に現れるか注目されます。
※レポート内の金利等の数値は12/6執筆時点のものとなります。