好材料出尽くしで、株価が調整する懸念のあったエヌビディア

米国の半導体大手エヌビディアが11月20日(水)の取引終了後に2024年8-10月期(第3四半期)の決算を発表しました。

市場予想では調整後(Non-GAAP)1株あたり利益額は、前年同期比+85%増の0.74ドルでした。これは5四半期前に始まった前年同期比+400~500%台の急激な成長ペースから、前四半期(第2四半期)に+152%へ低下し、さらに今回は2桁に下がるということになります。これは前年同期がAI特需で激増し、前年の実績が大きくなってきていることが要因です。

もう1つの注目点は第4四半期に量産の出荷が始まる次世代AIプロセッサー「ブラックウェル」を含む売上ガイダンス(予想)です。ジェンスン・フアンCEOは、ブラックウェルの需要は「非常に強い」と指摘していました。ただし、現時点で生産が追いつかず、エヌビディアは受注分をすべて満たす生産ができないのではないかとの懸念があります。実際に同社はホッパー(2023年に発売したチップ)とブラックウェル(2024年に発売した新型チップ)に、一部供給上の制約があると認めています。

決算発表前の状況としては、当然好業績が期待されていました。期待通りの決算が出てくる可能性は高いものの、期待感が高まっているだけにハードルが高くなってしまっていたので、決算発表後の株価は好材料出尽くしで調整していくのではないかとの懸念もあった状況でした。なお、2023年末の同社の株価は49.522ドルでしたが、株価は大きく上昇し、2024年11月20日の終値は2023年末の約2.95倍にあたる145.89ドルとなっています。

ブラックウェルの需要は「驚異的」、データセンター需要は力強く推移

2024年8-10月期の決算:売上の約9割を占めるデータセンター部門は、112%増で過去最高

そして、発表された2024年8-10月期(第3四半期)の業績は、大幅な増収増益という結果でした。売上高は前年同期比93.6%増の350億8200万ドル、純利益は前年同期比108.9%増の193億900万ドル(なお、Non-GAAPの純利益も99.7%増の200億1000万ドルと大幅増益になっています)。調整後(Non-GAAP)1株あたり利益額は0.81ドルと、前述の市場予想である0.74ドルを大きく上回りました。

売上の約9割を占めるデータセンター部門の売上は、ホッパーの強い需要で押し上げられ、112.0%増の 307 億7100万ドルで、こちらも市場予想の291億4000万ドルを上回り、過去最高を記録しています。ブラックウェルについては第4四半期から量産の出荷を開始。ブラックウェルとホッパーの強い需要によって、2026年1月期もデータセンターの需要は力強く推移するであろうとしています。ブラックウェルについてはフル生産中であるものの、同製品の需要は数四半期にわたり供給を上回る見通しとのこと。コレット・クレスCFOは電話会議で、ブラックウェルの需要が「驚異的」であると述べています。

第4四半期予想:売上高、市場平均予想を上回るものの強気の市場予想を下回り、ネガティブな印象か

第4四半期(2024年11月-2025年1月期)については売上高約375億ドル(±2%)を予想しており、こちらも市場平均予想(371億ドル)を上回りました。ただし、410億ドルといった強気の市場予想に対しては下回っており、当初、市場にどちらかと言えばネガディブな印象を与えました。

また、調整後(Non-GAAP)営業経費は市場予想が32億1000万ドルであったのに対し、34億ドルとなっています。第3四半期は決算説明資料では、新製品の導入およびエンジニアリングのコストが拡大していると記載されており、今後数四半期はブラックウェルの需要が供給を上回る見通しであることから、チップの出荷を急ぐことで予想以上のコストがかかるものと予想されるところです。

エヌビディア、時間外での株価は5.5%安まで下落

これらの結果、時間外での株価は一時、11月20日(水)終値の145.89ドル比で5.5%安の137.92ドルまで下がりました。これは前述にあるような期待感で株価が押し上げられたことに対する、材料出尽くしの売りという側面が含まれると思います。ただし、株価は急落後に盛り返してきており、株価が低くなったところでは買い手がすぐに現れるという状況を示唆しているようにも思われます。

当初の株価が下落で反応したため、報道を見ると、エヌビディアの第4四半期の予想が市場予想の上限に達しなかったために株価が下落していると伝えられていることが多いです。しかし、筆者は時間が経てば、市場はこの決算内容を再評価し、株価は上昇してくるのではないかと見ています。

新型チップのブラックウェルの需要は引き続き「驚異的」

エヌビディアはAIデータセンターに必須と言っていい状態にあるチップをほぼ独占的に提供できる立場にあり、結果として、前述の様に、新型チップのブラックウェルの需要が「驚異的」なほどで、生産が追いつかないというわけです。短期的に設備投資などで、利益の伸びは予想よりも弱含む可能性はあるものの、それは将来への投資ですから、長期的にみればプラスと言えるでしょう。このような強い立ち位置にあるからこそ、アップル[AAPL]やマイクロソフト[MSFT]を抜いて、2024年、時価総額世界一の企業になったのです。

つまり、エヌビディアがAIにおいてシャベルとツルハシを提供する企業(必須の消耗品を大きなシェアで安定的に提供できる企業の意味)という立場は変わっておらず、(目先の株価や業績の細かい変動はあるものの)長期視点では引き続き魅力的な企業であると見ることができると、再度認識できた決算だったと思います。