要件を満たし新規採用された5銘柄

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。米国株式市場の時価総額の約80%をカバーしています。

構成銘柄に採用されるには米国企業であることが前提で、それは米国内での売上高や固定資産、本社所在地などで判断されます。このほかの要件として、

◇過去4四半期の純損益の合計が黒字で、直近の四半期の純損益が黒字
◇流動性比率の高さ(過去6ヶ月間の月間売買高が最低25万株)
◇浮動株比率が50%以上
◇時価総額が180億ドル以上
◇新規株式公開(IPO)から12ヶ月以上経過(構成銘柄からスピンオフした銘柄はその限りではありません)
◇グローバル産業分類標準(GICS)の分類に基づく産業バランスが適切――などです。

今回は2024年6-9月に晴れてS&P500に採用されたパランティア・テクノロジーズ[PLTR]、クラウドストライク・ホールディングス クラスA[CRWD]、デル・テクノロジーズ[DELL]、ゴーダディ クラスA[GDDY]、イリー・インデムニティー・カンパニー クラスA[ERIE]の5銘柄をご紹介します。

パランティア・テクノロジーズ[PLTR]、AI駆使でビッグデータ解析

S&P500の採用基準を軽々とクリア

人工知能(AI)を駆使したビッグデータ解析のソフトウエアを開発するパランティア・テクノロジーズは着実に業績を伸ばしています。四半期ベースでは2022年10-12月期に初めて純損益ベースで黒字に転換し、その後は7四半期連続で黒字を維持しました。また、2024年4-6月期まで4四半期連続で売上高と純利益が過去最高を更新しています。業績面ではS&P500の採用基準を軽々とクリアしているのです。

パランティアの共同創業者として知られるのは、オンライン決済サービスのペイパル・ホールディングス[PYPL]の共同創業者であり、投資家としても有名なピーター・ティール氏です。テスラ[TSLA]を創業したイーロン・マスク氏と並び、「ペイパル・マフィア(実業家として成功したペイパル出身者)」の中心人物として知られています。

「パランティア」という社名は「指輪物語(映画:ロード・オブ・ザ・リングの原作)」に登場する黒い水晶に由来しており、物語の中では遠方を見ることができる不思議な水晶として描かれています。指輪物語はティール氏の少年時代の愛読書で、その中に登場する水晶の名前を拝借したのです。

米国政府と密接な関係

パランティアの創業は2003年。2001年の米同時多発テロを受け、膨大なデータを解析してテロを未然に防ぐソフトウエアを開発するという創業者らの使命感が結実し、誕生しました。主要顧客には米国防総省、米軍、米中央情報局(CIA)、米連邦捜査局(FBI)など強面の組織が名を連ね、安全保障を左右するような極秘情報を取り扱うプラットフォームを提供するだけに、2020年にニューヨーク証券取引所に上場した後も「謎多き企業」というイメージがつきまとっていました。

実際にはデータ分析のためのソフトウエアを情報機関などに提供しており、パランティアが膨大なデータを預かって解析を手掛けている訳ではありません。しかし、米国政府がアルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の隠れ家を突き止めるのに同社の技術が使われたと報道され、「テロとの戦いの秘密兵器」と形容されるなどちょっと怪しい企業というイメージが広がりました。

米国政府との関係は密接で、特にティール氏はトランプ前大統領の熱烈な支持者として知られていました。ただ、今回は支持を撤回したとも報じられており、その代わりではないのですが、イーロン・マスク氏によるトランプ氏への支持が目立っています。

パランティアは米国の安全保障にかかわるビジネスのため対立する国の政府とは取引しない方針です。パランティアがニューヨーク上場前に米証券取引委員会(SEC)に提出した上場目論見書には中国共産党とは協力しないと明記されています。

顧客数も少なく、2023年の年次報告書によると、わずか497。時価総額が日本円で約12兆円に上るソフトウエア開発の企業としては異様ともいえる少なさです。

しかも売上高ベースで上位20の顧客の平均売上高は5460万ドルで、合わせると約10億9200万ドルに達します。2023年12月期の売上高は22億2500万ドルだったので、上位20の顧客だけで売上高のほぼ半分を占める計算です。

米国政府や金融機関が活用するプラットフォーム「ゴッサム」

売上高に占める政府機関向けの割合は55%で、民間企業向けが45%です。主に政府機関向けに提供するのが「ゴッサム」と呼ばれるソフトウエアのプラットフォームです。ゴッサムは、映画「バットマン」が活躍する犯罪都市ゴッサム・シティーを連想させるもので、「バットマン」シリーズの漫画の発行元であるDCコミックスがパランティアの商標登録を差し止めると伝わっていましたが、最終的に「パランティア・ゴッサム」として定着しています。

「ゴッサム」ではデータの統合・分析を比較的容易に実行できる技術を提供し、意思決定の最適化を支援しています。テロや災害への対策、サイバーセキュリティーといった用途が多く、必然的に政府機関の利用が多くなりますが、不正行為の調査などで金融機関も活用しているようです。

「ファウンドリー」と呼ぶソフトウエアのプラットフォームは、主に民間企業が利用しています。データの中央運営システムを構築する仕組みで、必要なデータの統合と管理、解析のツールを総合的に提供します。センサーなどの技術の発達に伴い収集されるデータは膨大になっていますが、それに対応するためデータの統合と解析を通じて企業の意思決定も支援しているようです。特に航空、エネルギー、ヘルスケアなどのセクターでの利用が活発なようです。

【図表1】パランティア・テクノロジーズ[PLTR]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表2】パランティア・テクノロジーズ[PLTR]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月3日時点)

クラウドストライク・ホールディングス クラスA[CRWD]、サイバーセキュリティー提供

サイバーセキュリティーのプラットフォーム「ファルコン」を展開

クラウドストライク・ホールディングスはサイバーセキュリティー事業を手掛けています。創業は2011年で、「クラウド時代のサイバーセキュリティー」を標榜し、人工知能(AI)を主体に構築された「真のクラウドネイティブプラットフォーム」と称するファルコン(Falcon)を展開しています。

ファルコンは、サイバーセキュリティーを統合するプラットフォームとして設計されています。マルウエア(コンピュターウイルスやワームなどの悪意あるプログラム)やゼロディ攻撃(脆弱性への対策を取る前に行うサイバー攻撃)、認証情報の盗難といったサイバー攻撃に対応します。次世代アンチウイルスをはじめ、エンドポイントでの検知と対応(EDR)、脅威の防止や検知に利用できる情報を収集・分析するサイバー脅威インテリジェンス、システムやネットワークなどを探索して脅威の兆候を発見した上で対処する脅威ハンティングなどの機能を持ちます。

EDRとは、パソコンやサーバーなど通信ネットワークの末端に接続されたデバイス(エンドポイント=Endpoint)でサイバー攻撃を検知(Detection)し、被害の拡大を食い止める対応(Response)をするEDR(Endpoint Detection and Response)ソリューションのことです。

一方、継続的に資産の脅威を把握し、重要度に応じて対処する優先順位を決める機能として、不正なシステムやアプリケーションを特定してリアルタイムで監視する「ファルコン・ディスカバー」、脆弱性管理の「ファルコン・スポットライト」、攻撃者に焦点を当てた外部攻撃対象領域管理の「ファルコン・サーフェス」などがあります。

7月に発生したマイクロソフトの大規模システム障害の原因に

クラウドストライクは2024年6月24日にS&P500の構成銘柄になりましたが、それから1ヶ月もしない7月19日に大事件が起きました。マイクロソフトの基本ソフト(OS)で発生した大規模なシステム障害で、世界の空港で遅延が発生する事態となったのです。

システム障害の原因はファルコンの一部にあった不具合です。クラウドストライクは原因の特定や復旧対策を進めましたが、株価は暴落しました。ただ、7月末に底を打つと、その後は不安定ながら戻り歩調にあるようです。

業績は2024年5-7月期まで前年同期比で23四半期連続の増収と着実に売上高を伸ばしています。純損益は2023年2-4月期に初めて黒字に転換すると、その後は6四半期連続で黒字を維持しており、S&P500の採用要件をクリアしています。

【図表3】クラウドストライク・ホールディングス[CRWD]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表4】クラウドストライク・ホールディングス[CRWD]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月3日時点)

デル・テクノロジーズ[DELL]、世界3位のパソコンメーカー

デル・テクノロジーズは、パソコンを軸とするIT機器とITインフラのソリューションの提供を手掛けています。調査会社のガートナー(IT)によると、パソコンの出荷台数ベースの世界シェアではレノボグループとHP[HPQ]に次ぐ3位で、2024年4-6月の市場シェアは16.7%に達しています。

パソコンとディスプレー、キーボード、ヘッドセットなどの周辺機器で構成するクライアント・ソリューション部門が中核事業の一角です。2024年1月期決算ではこの部門の売上高が16.0%減の489億1600万ドル、営業利益が8.2%減の35億1200万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ55.3%、45.0%でした。

この部門では法人向けにパソコンや周辺機器を提供するビジネスが主力です。売上比率は法人向けが全体の81.4%、消費者向けが18.6%となっています。

一方、インフラ・ソリューション部門は2024年1月期の売上高が11.7%減の338億8500万ドル、営業利益が15.0%減の42億8600万ドルです。全体に占める割合はそれぞれ38.3%、55.0%で、売上高の割に営業利益が大きいという特徴があります。営業利益率は12.6%とクライアント・ソリューション部門の7.2%を大幅に上回っています。

インフラ・ソリューション部門は顧客のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援します。AIを通じて適正化されたサーバーをはじめ、ストレージ機器、仮想化されたソフトウエア・ソリューションなどを提供し、ITシステムの運用の簡素化、合理化、自動化を推進しています。

【図表5】デル・テクノロジーズ[DELL]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表6】デル・テクノロジーズ[DELL]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月3日時点)

ゴーダディ クラスA[GDDY]、ドメイン管理で世界最大級

ゴーダディはウェブサイトのドメイン管理やウェブホスティングといったサービスを手掛けています。ドメイン登録の管理では世界最大級で、2023年末時点で約8500万件のドメインを管理しています。2023年末のドメイン登録数は世界全体で3億6000万件に達しており、全体の約24%を占める計算です。

事業はコア・プラットフォーム部門とアプリケーション&コマース部門に分かれています。コア・プラットフォーム部門は文字通り中核事業で、ドメインの登録・更新、ドメイン販売のアフターサービス、ウェブホスティングなどで構成されます。2023年12月期の売上高は前年比0.4%増の28億2400万ドル、EBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)が4.2%増の8億1600万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ66.4%、57.9%です。

アプリケーション&コマース部門は、ソフトウエア製品、オンラインストアの運営に使うコマース製品、メール関連製品などで構成されます。特にウェブサイトの作成やオンラインストアの立ち上げなどに使う「Websites + Marketing」などのソフトウエアに強みを持ちます。また、世界中でウェブサイトの作成に利用されるワードプレスの使い勝手を高め、セキュリティーや自動化の機能を改善するツールも提供します。この部門の売上高は11.8%増の14億3000万ドル、EBITDAが13.7%増の5億9400万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ33.6%、42.1%です。

ゴーダディの顧客ベースは2000万超と膨大で、最大の顧客層はビジネスも手掛ける個人です。次いで多いのがWebデザイナーやデベロッパーといったウェブ制作のプロフェッショナルで、3番目はドメイン登録者やドメイン投資家です。

【図表7】ゴーダディ クラスA[GDDY]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表8】ゴーダディ クラスA[GDDY]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月3日時点)

イリー・インデムニティー・カンパニー クラスA[ERIE]、保険の管理業務事業者

イリー・インデムニティー・カンパニー クラスAは、ペンシルベニア州を拠点に保険の管理業務を手掛けています。創業は1925年で、来年2025年に100周年を迎えます。

主力事業は、同じく来年に創業100周年を迎える損害保険会社、イリー・インシュアランス・エクスチェンジの管理業務の代行です。保険証券の発行や契約更新、保険金請求の処理、投資管理、保険の引き受け、代理店報酬管理、広告サポートといったサービス業務を請け負います。

イリー・インシュアランス・エクスチェンジは、損保子会社のイリー・インシュアランス、イリー・インシュアランス・プロパティー&カジュアルティー、生保子会社のイリー・ファミリー・ライフ・インシュアランスなどを抱えており、イリー・インデムニティーはこうした子会社にもサービスを提供しています。

収入の大半は管理サービスの手数料です。業績は順調に成長しており、2023年12月期決算の売上高は前年比15.1%増の32億6900万ドル、純利益は49.4%増の4億4600万ドルと2桁の増収増益でした。売上高が増えるのはこれで10年連続です。

【図表9】イリー・インデムニティー・カンパニー クラスA[ERIE]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表10】イリー・インデムニティー・カンパニー クラスA[ERIE]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2024年10月3日時点)