ユナイテッドヘルス・グループ[UNH]、群を抜く時価総額

衝撃を与えた傘下CEO射殺事件

ユナイテッドヘルス・グループ[UNH]の傘下にあるユナイテッドヘルスケアの最高経営責任者(CEO)が2024年12月にニューヨークで射殺された事件は社会に衝撃を与えました。医療保険大手がなかなか保険金を支払わないとされることで義憤に駆られて犯行に及んだと伝えられており、一部では犯人を擁護する声も上がっているそうです。

ただ、ユナイテッドヘルス・グループは事件後に発表した声明で、保険金申請の約90%に保険金を支払っていると説明し、「保険金未払い」を報じた記事などにも反論しています。

ユナイテッドヘルス・グループの規模は大きく、医療保険や医療サービスを提供する企業の中では時価総額でも事業規模でも群を抜いており、ダウ平均の構成銘柄にも採用されています。

主要事業はオプタム部門とユナイテッドヘルスケア部門の2事業

主要事業は、医療関連サービスを手掛けるオプタム部門と医療保険プランを提供するユナイテッドヘルスケア部門に分かれています。このうちオプタム部門は「オプタムヘルス」、「オプタムインサイト」、「オプタムRx」に分類されます。

オプタム部門

「オプタムヘルス」は個人、家族、雇用主に対し、プライマリーケア(かかりつけ医による初期の診断や治療)をはじめ、特殊な治療、手術、緊急医療などを提供します。情報技術(IT)を活用して患者、医療の提供者、保険会社、公共機関などと協働して医療の質を高め、全体的な医療コストの抑制を目指しています。

「オプタムインサイト」では、医療産業向けに技術ソリューションやデータソリューションを提供しています。医療提供者に支払われる金銭を管理する収益サイクル管理(RCM)、特定地域の社会保険受益者などに医療介入を通じてリスクの低減を図るポピュレーション健康管理(PHM)などがあり、主要顧客は医療機関や医師、保険会社、州政府などです。

「オプタムRx」は薬剤給付管理(PBM)などを手掛けています。PBMは保険会社や製薬会社、薬局、医療提供者、患者などの関係者の間で、薬剤給付の管理を担う事業です。

ユナイテッドヘルスケア部門

ユナイテッドヘルスケア部門は、保険商品を通じて顧客の医療体験を向上させると同時に医療費を制御する機能で加入者を支援しています。オプタムの機能を利用し、サービスを提供しています。米国には日本のような医療分野の国民皆保険制度がなく、民間の医療保険会社がカバーします。このため効率的な医療サービスの提供と医療費の抑制を保険会社側が管理する「マネジドケア」という仕組みが普及しています。

ユナイテッドヘルスケア部門は企業、政府機関、個人に医療保険プランを提供するのが柱です。高齢者と障害者の公的医療保険制度「メディケア」や低所得者向けの公的医療保険制度「メディケイド」にも参加しています。民間の保険会社を通じて提供されるプログラム「メディケア・アドバンテージ」では市場シェアで最大です。

【図表1】ユナイテッドヘルス・グループ[UNH]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表2】ユナイテッドヘルス・グループ[UNH]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月7日時点)

ザ・シグナ・グループ[CI]、薬剤給付管理サービスに強み

ザ・シグナ・グループ[CI]は医療サービスの大手です。30を超える国・地域で事業を展開し、顧客数は1億6400万を超えています。

特に薬剤給付管理(PBM)サービスに強みを持ち、米国市場でのシェアで上位にランクされています。このサービスでは傘下の「エクスプレス・スクリプツ」が主要ブランドで、前述のユナイテッドヘルス・グループの「オプタムRx」などと競合しています。

PBMサービスでは主に契約先の薬局との処方薬値引き交渉、処方薬の薬剤リスト管理、薬剤給付のコンサルティング、処方薬の使用レビュー、処方薬の宅配、難病・希少疾病用医薬品の提供とモニタリングなどを手掛けています。

この部門では、プライマリーケア(かかりつけ医による初期の診断や治療)や往診、メンタルヘルスサポートなどのプログラムも提供。主要顧客は、マネジドケア機関(MCO)、医療保険会社、企業、医療機関などです。

もうひとつのセグメントはシグナ・ヘルスケア部門です。国内外の顧客に医療保険を提供しています。主な商品・サービスには「使用者医療プラン」、「個人&ファミリープラン」などがあります。

ヘルスケアサービス業界では企業合併・買収(M&A)が盛んで、シグナ・グループは2018年にPBMサービスのエクスプレス・スクリプツを買収し、この分野で国内トップクラスに躍り出ました。2024年10月には保険・ヘルスケアサービスのヒューマナ[HUM]を買収するとの観測が浮上しましたが、11月にこうした観測を否定しています。

【図表3】ザ・シグナ・グループ[CI]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表4】ザ・シグナ・グループ[CI]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月7日時点)

HCAヘルスケア[HCA]、米国を中心に病院を運営

HCAヘルスケア[HCA]は米国を中心に病院の運営を手掛けています。2024年末時点で190の病院を運営しており、内訳は総合病院と救急病院が180ヶ所、精神科病院が6ヶ所、リハビリテーション病院が4ヶ所です。このほかに124ヶ所の手術センターと26ヶ所の内視鏡検査センターも運営しています。施設は米国の20の州と英国に位置します。

総合病院と救急病院では、集中治療、心疾患治療、緊急治療、診断などを担い、ベッド数は4万9114床です。外来での手術、放射線治療、呼吸療法、心疾患治療、理学療法などを施します。精神科病院6ヶ所のベッド数は合わせて602床で、子どもから大人までの精神科治療をはじめ、アルコール中毒やドラッグ中毒の治療も行います。

手術センターや内視鏡検査センターなどの外来患者用の治療も担っています。ただ、手術センターの多くは提携先とのパートナーシップに基づき運営しており、パートナーシップが権益の過半を握るケースが多いようです。

186ヶ所の病院の所在地では、テキサス州が54ヶ所、フロリダ州が46ヶ所と圧倒的に多く、テネシー州が13ヶ所、コロラド州とノースカロライナ州がそれぞれ7ヶ所で続いています。

【図表5】HCAヘルスケア[HCA]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表6】HCAヘルスケア[HCA]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月7日時点)

エレバンス・ヘルス[ELV]、医療保険サービスを提供

エレバンス・ヘルス[ELV]は医療保険サービスを手掛けています。2024年末時点の会員数は約4570万人で、米国の医療保険会社として大手の一角を占めています。

効率的な医療サービスの提供と医療費の抑制を保険会社側が管理する「マネジドケア」に基づく幅広い保険プランを運営。個人や雇用主グループに向けた商品に加え、高齢者と障害者の公的医療保険制度「メディケア」や低所得者向けの公的医療保険制度「メディケイド」にも保険プランを提供しています。

このほかに医療補償額の超過額を対象に保険金を支払うストップロス保険、歯科保険、生命保険、障がい保険なども展開しています。保健事業を軸とする医療給付部門は売上比率が73.5%、営業利益比率が68.4%に上る主力事業です。

医薬品関連サービスはケアロンRx部門が担当。自社の医療給付部門の顧客だけでなく、外部の顧客にもサービスを提供しています。処方薬の薬剤リスト管理、処方薬の宅配、薬局ネットワークの管理、処方薬データベースの作成など多岐にわたる業務を請け負います。一方、薬剤給付管理(PBM)サービスはシーブイエス・ヘルス[CVS]に委託しています(2025年末に契約終了予定)。

【図表7】エレバンス・ヘルス[ELV]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表8】エレバンス・ヘルス[ELV]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月7日時点)

シーブイエス・ヘルス[CVS]、医療サービス部門に強み

シーブイエス・ヘルス[CVS]はヘルスケアサービスの大手です。事業は医療サービス部門、薬剤&消費者健康増進部門、医療給付部門の3本柱です。

医療サービス部門では薬剤給付管理(PBM)ソリューションを軸に多様な事業を手掛けています。処方薬の薬剤リスト管理や小売ネットワークの管理、臨床プログラムの提供、医療給付管理など、メニューは多岐にわたります。この部門では2023年に在宅医療サービスのシグニファイ・ヘルスとプライマリーケアの保険給付などを手掛けるオークストリート・ヘルスを買収し、業容を拡大させています。

薬局&消費者健康増進部門は、2023年末時点で9000店を上回る薬局やオンラインストアの運営が中核で、この部門の売上高の8割近くを占めます。店舗運営以外では薬局での診断検査などを手掛けています。

医療給付部門は、診療が提携先の医療機関のネットワークに限られる健康維持機構(HMO)や提携ネットワーク外の医療機関でも受診できる優先医療給付機構(PPO)という代表的な医療保険をはじめ、さまざまなタイプの保険プランを用意。また、公的保険では「メディケア」や「メディケイド」にも保険プランを提供しています。

【図表9】シーブイエス・ヘルス[CVS]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成 ※期末は12月
【図表10】シーブイエス・ヘルス[CVS]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年3月7日時点)