先週(9月16日週)の動き:FOMC材料出尽くし後にニューヨーク金先物価格(NY金)切り返し高値更新、国内金価格は円安効果で7月来の高値水準

NY金は史上最高値を更新

先週のニューヨーク金先物価格は前週に続き史上最高値を更新した。週末9月20日の取引は週初から2度にわたり更新していた取引時間中の最高値をさらに塗り替え、2,651.00ドルまで付け、終値も2,646.20ドルと最高値を更新して終了した。週足は前週末比35.50ドル、1.4%の続伸となった。

前週9月12日以降21日に至る7営業日に、NY金が取引時間中の史上最高値を5回も塗り替えたが、そのドライバーは米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げへの政策転換だった。しかも引き下げ幅が通常の0.25%でなく、倍の0.50%になったことだった。

9月17~18日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前に発表された米主要経済指標は堅調を示すものが多く、市場では利下げ転換の初っ端は0.25%という見方が大勢を占めていた。ところがFOMCを前にした9月12日、FRBの政策方針の観測記事で定評のある米紙ウォールストリートジャーナル(WSJ)のニック・ティミラウス記者が、「今回のFOMCでは0.50%利下げも俎上に乗っており、0.25%とは際どい決定になる見込み」とした。同記者は過去にもFOMCの直前に大方の見方とは異なる変動幅を示し、その通りになった経緯がある。この記事をきっかけに米大手銀が見通しを変更するなど、市場の大勢は利下げサイクルのスタートは0.50%になると織り込み、NY金は翌日初めて2,600ドル台に乗せることになった。

9月18日の声明文では0.50%の利下げが公表され、メンバー予想では年内の利下げは2回と示唆された。それぞれ0.25%とすると年末までに1%の利下げとなる。当日のNY金の反応は、一言で表すと相場格言の教えるBuy the rumor, sell the fact(噂で買って事実で売る)パターンとなった。大幅利下げを受け2,627.20ドルと、それまでの高値を更新したものの、買いが一巡すると売り圧力が高まり反落した。一時2,572.50ドルまで売られ、当日の時間外取引は2,584.80ドルで終了した。いわゆる目先の材料出尽くしということで、この展開は先週の見通し欄にてその可能性を指摘したものだ。

ところが、その後週末にかけ再び騰勢を強めた。ポイントは9月20日のウォラーFRB理事の発言だった。米経済専門局CNBCとのインタビューで今回0.50%の利下げを支持したとし、インフレが想定以上に軟化しつつあることを挙げ、労働市場を巡る不安ではないとした。ウォラーFRB理事は 「労働市場のデータが悪化する場合、あるいは誰もが想定していた以上にインフレデータが軟化し続ける場合は、より速いペースで行動する可能性もある」と発言し、データ次第ではこの先の利下げ幅拡大もあり得ることに言及した。同理事はFOMC時点で手元にあった資料による判断として「私が思っていたよりもずっと速いペースでインフレが軟化していることに、少し驚きを感じた。そして、0.50%が正しい判断だと思った」と述べた。タカ派として知られていた同理事の発言にNY金は水準を切り上げ、最高値を更新し終了した。

先週のNY金のレンジは、結局FOMC当日の時間外取引で売られた際の価格が下値となり、2,572.50~2,651.00ドルとなった。想定レートは、目先の材料出尽くしを想定し2,580~2,660ドルとしており、ほぼ想定通りの展開となった。

国内金価格は円安が大きな押し上げ要因に

一方、国内金価格はドル円相場が2週間ぶりの円安に振れたことで、NY金の上昇も相まって週足は大きく続伸した。日銀が9月19~20日に開いた金融政策決定会合で政策を据え置き、植田総裁が記者会見にて利上げを急がない姿勢を示したことがドル買いの手掛かりとなった。

ドル円は一時1ドル=144.50円まで上昇し、9月初旬以来の高値(円安)を付け143.90円で終了した。円安が大きな押し上げ要因となり、国内金価格の9月20日終値は1万1912円、前週末比245円、2.1%の上昇となった。レンジは1万1631円~1万1912円となった。想定レートを1万1650~1万1850円としていたが、上値の誤差は想定以上の円安進行による。なお、20日のJPX大阪の夜間取引はNY金の上昇を映し1万2000円を突破している。

大幅関税引き下げ効果が表れたインド金輸入

7月に金と銀の輸入関税を従来の15%から6%に大幅に引き下げたインド。ここにきて中国の一般需要の低下が指摘される中で、インドは下半期の需要拡大が期待されていた。

国際的な金の調査機関ワールドゴールドカウンシル(略称WGC)によると、8月のインドの金輸入は、金額ベースで前月比3倍、前年同月比では2倍の101億ドルに達した。重量ベースでは約140トンとやはり前月比3倍規模となる。

インド政府は、密輸が多く透明度に欠けた金輸入にメスを入れ、国内のジュエリー生産など付加価値を高める産業育成に乗り出したものとされる。折しもヒンズー暦では11月に新年を迎え、10月半ば以降が婚礼シーズンで、婚礼需要が高まる時間帯に入る。ドル建て金価格高騰の中でインドルピー建て価格(10グラム当たり)も7万ルピーに迫り、やはり最高値を更新しているが、価格上昇の中でこの秋の需要増が期待されている。

なお、9月は婚礼需要の素材の仕込みが始まるタイミングでもあり、減速する中国需要の中でインドにバトンが受け継がれた形になりそうだ。

今週(9月23日週)の見通し:9月27日(金)発表の8月PCEデフレーターとFRB高官発言に注目 

想定レンジ:NY金が2,620~2,680ドル 国内金価格は1万2000~1万2400円

今週は週末の9月27日(金)に8月米個人消費(PCE)価格指数(デフレーター)の発表が控えている。FRBがインフレ指標にするコア指数(PCEコアデフレーター)が注目されるが、先週の動きで取り上げたウォラーFRB理事のインフレ低下速度の速さの指摘から、総合指数にも注目が集まる。9月12日(木)に発表された8月の米生産者物価指数(PPI)にPCEデフレーターに含まれる要素があり、それらが想定以上に低下していたことが伏線になっている。ウォラー理事は、過去3ヶ月の伸びが年率ベースで1.8%未満にとどまったと見積もっているとした。これは言うまでもなく目標の2%を下回るものだ。

今週はさらにニューヨーク地区連銀ウィリアムズ総裁やバー副議長など複数のFRB高官の発言機会が9月26日(木)に重なっており、併せて注目したい。市場は11月のFOMCでの0.50%の利下げ可能性まで織り込み始めている状況にある。

こうした中で今週の想定レンジはNY金が2,620~2,680ドルと高値更新が続くと見る。一方、国内金価格は1万2000~1万2400円と7月来の高値を想定している。