世界最高の投資家の1人ドラッケンミラー氏の最新ポートフォリオ

資産家で著名投資家のスタンレー・ドラッケンミラー氏は、ジョージ・ソロス氏の元部下で世界最高の投資家の一人と称されている。そのドラッケンミラー氏が運用するファミリーオフィス、デュケーヌ・ファミリーオフィスが、引き続きAI関連銘柄の保有を削減していることが分かった。

8月14日にデュケーヌがSEC(米国証券取引委員会)に開示した資料によると、前四半期(1-3月期)に111万株保有していたマイクロソフト[MSFT]の株式を64%削減した他、前四半期に再投資し、約6万株を保有していたメタ・プラットフォームズ[META]については、今四半期に持分を全て手放した。

【図表1】デュケーヌ・ファミリーオフィスのAI関連株保有株数の推移(単位:株)
出所:フォーム13Fより筆者作成

前四半期に保有を7割削減させたエヌビディア[NVDA]については、6月末時点の保有株数は21万株と3ヶ月前に比べて4万株ほど増加している。ただし、エヌビディアは6月10日に1:10の株式分割を実施している。このため、6月末のデュケーヌが保有するエヌビディアの株式数は増えているが、分割を考慮しなければ保有株数は9割弱減少していることになる。

【図表2】2024年6月末時点のデュケーヌ・ファミリーオフィスのポートフォリオ
(緑:新規ポジション オレンジ:全売却)
出所:フォーム13Fより筆者作成

以前からドラッケンミラー氏はAIについて、「私のような年寄りでも、それが何を意味するのか理解できた」と述べ、AIブームはインターネットよりも大きな可能性を秘めた「見たこともないようなメガトレンドだ」と述べている。また、エヌビディアの売却については、「ちょっと休みたいんだ。私たちはとんでもない成功を収めた。私たちが認識したことの多くは、今や市場によって認識されるようになった」と語っていた。

この他、2024年4-6月期はゼネラルモーターズ[GM]やステランティス[STLA]、またウェスタン・デジタル[WDC]等を含む28銘柄を売却した。その中には3月末時点で保有のトップであったiシェアーズ ラッセル 2000 ETF[IWM](ベンチマーク:Russell 2000インデックス)のコールオプションも含まれる。

米国の中小型株で構成されるラッセル2000は、2021年後半に記録した最高値に近づくことができず出遅れが鮮明だったが、6月末時点でも株価は低空飛行を続けており、早々に手仕舞いしたものと思われる。

ハイパーインフレに直面するアルゼンチン企業にも投資、狙いはどこにあるのか?

デュケーヌ・ファミリーオフィスの2024年6月末時点の上場株式ポートフォリオを評価額順にまとめると、トップは光学材料および半導体メーカーのコヒレント[COHR]で、以下、韓国のEC大手クーパン[CPNG]、エネルギーのビストラ・エナジー[VST]、テキサス州オースティンに本拠を置く臨床遺伝子検査会社ナテラ[NTRA]と、時価総額にして100-400億ドル程度の比較的中規模の会社により多くの投資を振り向けていることが特徴のひとつである。

【図表3】デュケーヌ・ファミリーオフィスが保有する上位10銘柄(2024年6月末時点)
出所:フォーム13Fより筆者作成

ドラッケンミラー氏のポートフォリオでもうひとつ特筆すべきは、米国市場に上場するアルゼンチン企業のADR(米国預託証券)を買い入れていることだろう。アルゼンチンのブエノスアイレスを拠点とするエネルギー企業YPF ADR [YPF]やアルゼンチンを拠点とするユニバーサルファイナンシャルサービス企業のグルポ・スーパービエル[SUPV]、アルゼンチン国内で2番目に大きい民間銀行のバンコマクロ[BMA]、ブエノスアイレスに本社を置く電子商取引のメルカドリブレ[MELI]を保有している。

アルゼンチンの国家統計院が8月14日に発表した7月のインフレ率は前年同月比263.4%と、6月の271.5%に比べて減少した。インフレ率は3ヶ月連続で縮小しているが、なお高水準にある。アルゼンチンは高インフレが長期化し、通貨アルゼンチン・ペソは米ドルに対して下落するなど、経済危機が深刻化している。

一般的に株式は「インフレに強い資産」とされている。インフレによって通貨の価値が毀損する一方、モノの値段が上がるため、インフレ分だけ株式市場は上昇する。したがって、インフレが起きているとき、もしくはインフレが起こりそうなときに、保有資産に占める株式の割合を高めるのは一つの手段になる。

いずれのアルゼンチン銘柄も直近では上値が重いものの、年初来の上昇率はYPF ADRで7割、グルポ・スーパービエルとバンコマクロはいずれも2倍以上、メルカドリブレは約30%となっている。

パランティア・テクノロジーズ[PLTR]も堅調に推移、すでに2度の上方修正

ドラッケンミラー氏のポートフォリオの中でアルゼンチン企業と同様に株価が堅調に推移している企業がある。ビッグデータ分析などのソフトウェアを提供するパランティア・テクノロジーズ[PLTR]だ。8月6日引け後に発表した2024年第2四半期(4-6月)の業績は、売上高が前年同期比27%増の6億7800万ドル、純利益は4.8倍の1億3400万ドルと市場予想を上回った。

パランティア・テクノロジーズのアレックス・カープCEO(最高経営責任者)は、「事業拡大ペースは着実に加速しており、さらに発展させる前例のない機会が到来すると考えている」と述べたという。

パランティア・テクノロジーズはオープンAIの創設にも関わっている著名投資家、ピーター・ティール氏を中心に2003年に創業され、創業当時から米軍、国防総省、FBI(連邦捜査局)、CIA(中央情報局)などといった政府関連機関を顧客に抱え、機密案件を扱っていることから謎につつまれている部分も多かった。

古い記事になるが、2020年8月24日付けのビジネス+ITの記事「パランティア(Palantir)とは?ピーター・ティール設立企業に富士通らも出資のワケ」によると、実際、パランティア・テクノロジーズが最初に大口の資金調達を行ったのは、CIAが運営する非営利型のベンチャーキャピタル「In-Q-Tel」だった。また、アメリカ同時多発テロ以降のテロ対策においては、パランティア・テクノロジーズの技術が用いられてきたという噂もある。

【図表4】パランティア・テクノロジーズの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

部門別の売上高を見ると、第2四半期の商業部門の売上高は前年同期比33%増の3億700万ドルと、政府部門(23%増の3億7100万ドル)に迫る水準となった。パランティア・テクノロジーズが従来の政府系顧客以外でもビジネスを拡大させていることを示している。とりわけ今四半期においては、米国における商業部門の売上は55%と大きく伸びた。

通期については、売上高の見通しを27億4200万-27億5000万ドルに(従来予想は26億5200万-26億6800万ドル)、調整後営業利益は9億6600万-9億7400万ドル(8億3400万-8億5000万ドルから)へ上方修正した。パランティアによる年間利益予想の上方修正は第1四半期に続き2度目となる。

8月8日にはマイクロソフト[MSFT]との提携を発表した。米防衛・諜報機関に機密任務用のAIソフトを販売するという。両社が販売を目指しているAI製品は、パランティア・テクノロジーズの分析ソフトとマイクロソフトの防衛・諜報機関向けクラウドサービスを統合したソフトウェアで、マイクロソフト傘下のオープンAIの言語モデル「GPT4」を含むAIツールが採用されるそうだ。

SaaS型ビジネスに取り組む企業を評価する基準に、成長の健全性を示す指標として「40%ルール(Rule of 40%)」というものがある。売上成長率と営業利益率の和が40%を超えていると健全であるとして、1つの目安として用いられており、以下の数式で求められる。

前年同期比売上成長率(%)+ 営業利益率(%)≧ 40(%)

【図表5】パランティア・テクノロジーズの40%ルール
出所:パランティア・テクノロジーズHPのデータより筆者作成

SaaS型ビジネスでは、機能を強化しながらユーザーが利用し続けたいと感じるサービスを開発する必要がある。継続的に利用されるサービスの開発、顧客のニーズに沿ったサービスへの改善にコストがかかる一方、SaaSが提案する新しいサービスにユーザーを集めるためには、ある程度の期間を要する。サービスの成長スピードを伸ばすためにはある程度のコストがかかり、その間は赤字が続くことが想定され、赤字を取り戻すまでに時間がかかるというものだ。

パランティア・テクノロジーズも同様の道のりをたどり、2022年まではなかなか40%を超えることができなかった。しかし、2023年第1四半期から40%ルールをクリアし、その後は売上高が大きく伸び、営業利益率も高まってきていることから、今四半期には64%を記録した。

石原順の注目5銘柄

マイクロソフト[MSFT]
出所:トレードステーション
エヌビディア[NVDA]
出所:トレードステーション
バンコマクロ [BMA]
出所:トレードステーション
メルカドリブレ[MELI]
出所:トレードステーション
パランティア・テクノロジーズ[PLTR]
出所:トレードステーション