2024年7月30日(火)23:00発表(日本時間)
米国 コンファレンスボード消費者信頼感指数

【1】結果:現況指数は下落も、期待指数の回復が総合指数の上昇に寄与

7月の米消費者信頼感指数は100.3を記録しました。市場予想と前回の結果を上回り、消費者のマインドに回復が見られます。内訳としては、現況指数が低下した一方で、6ヶ月先の見通しを示す期待指数が前回の72.8から78.2へ大幅に回復し総合指数の上昇に寄与しました。

【図表1】米国消費者信頼感指数結果まとめ
出所:The Conference Board、Bloombergよりマネックス証券作成

【2】内容・注目点:消費者マインドは健全ながら労働市場の評価は軟化

米消費者信頼感指数とは、全米産業審議委員会が5,000人の消費者に対して、現状(経済、雇用の2項目)と6ヶ月後の予想(経済、雇用、所得の3項目)について調査し、指数化したものです。個人消費がGDPの約7割を占める米国では、その数値に注目が集まります。また、図表2の通り、景気後退時には、本指数が急激に落ち込む傾向にあり、景気動向の判断にも用いられます。

【図表2】米消費者信頼感指数の推移
出所:The Conference Board、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
※ シャドーは景気後退期

今回7月の結果(100.3)は、前回6月の97.3から上昇しました。ここ2年間横ばいで推移してきた狭いレンジ圏内を抜け出すほどの強さはないものの、消費者マインドが依然として健全であることが示されました。

内訳をみると、現況指数は7月に133.6となり、6月の135.3から低下しました。高水準にはあるものの、消費者は物価高や高金利を懸念し、現状に対する評価は徐々に下向き傾向にあります。一方で、期待指数は6月の72.8から7月には78.2に改善しましたが、景気後退の兆候を示すとされる80は下回っている状況です。

消費者の労働市場に対する評価は、今までの楽観的な評価からやや後退傾向にあります。市場では労働市場の強さを測るために、「雇用は十分にある」と回答した割合と「仕事を見つけるのが難しい」と回答した割合の差の推移に注目が集まりますが、図表3の通り直近は下落基調にあり、労働市場が徐々に軟化しつつあることが伝わります。

【図表3】「雇用が十分にある」と「仕事を見つけるのが難しい」の回答差の推移
出所:The Conference Board、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

消費者の定性的な評価からは労働市場が軟化していることが示されました。しかし、定量的なデータである同日に公表された雇用動態調査(JOLTS)でも確認する必要があります。JOLTSは米労働省が毎月公表している指標で、求人件数をはじめ、採用率や解雇率、離職率など雇用情勢を示す多様な定量的なデータが公表されます。

JOLTSにおいて7月の求人件数は、4万6,000件減の818万4,000件となりました。市場予想に比べて減少幅がわずかであり、前月分も上方修正されたことから、労働市場は底堅さを保っていることが示されました。ただし、内訳を見ると政府の求人が全体を押し上げており、民間の求人件数は2021年1月以来の低水準です。また、図表4の通り基調としては下落傾向にあり、データで見ても労働市場は軟化傾向にあることが分かります。

【図表4】JOLTS求人件数の推移
出所:米労働省、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【3】所感:消費者マインドは問題なし、労働市場は需給の均衡に向け「緩和」しているのか

今回の結果は、米国の消費者マインドが依然として健全であり、経済に過度なダメージを与えずにインフレを抑えるというソフトランディングが期待される中で、程よい結果だったといえます。

一方で、労働市場に対する評価は低下しており、実際にJOLTS求人件数からも低下基調にあることが確認できます。8月2日には7月の雇用統計が発表されますが、失業率が4.2%に上昇した場合、サーム・ルール(※)が示す景気後退サインが点灯することから、市場では一部で労働市場の冷え込みすぎを懸念する声が上がっています。

市場では7月の失業率は4.1%と予想されていますが、予想に反して4.2%に悪化した場合には、短期的には景気後退懸念による景気敏感株の売りなどの動きに警戒が必要でしょう。

ただし、失業率は悪化しつつあるものの、過去の水準と比べれば依然として低い水準にあります。また、解雇率は1%程度の低水準で安定しており、これを根拠に米連邦準備制度理事会(FRB)のウォラー理事は、労働市場が弱体化しているのではなく緩和しながら需給が均衡しているのだと主張しています。こうしたことを踏まえると、仮にサーム・ルールが点灯したとしても、それだけでは直ちに景気後退に陥るとは判断できず、過度な警戒には及ばないと考えます。

※「サーム・ルール」とは、元FRBエコノミストのクラウディア・サーム氏が考案したもので、失業率の3ヶ月移動平均が、過去12ヶ月の最低値から0.5%上昇した時に景気後退が始まるとされる。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐