◆日本の政治が「劇場型」と言われて久しい。投開票日の夜にはテレビ局はどこも「選挙特番」を組む。第135回「新潮流」で書いたように、その舞台裏では周到な準備がなされているが各局とも差別化に苦労している。そんななか、ある番組で流された池上彰さんによる「"政界"悪魔の辞典」が好評だった。【希望】失望までのつかの間の喜び。【リベラル】左翼と呼ばれたくない人たちの自称。こんな具合である。

◆「劇場型」を盛り上げるのはテレビや週刊誌などのメディアである。今回の衆院選で隠れた注目選挙区が愛媛3区だった。希望・白石洋氏と自民・白石寛氏の「白石対決」という面白さに加えて寛氏に女性問題が発覚。これをマスコミが放っておくわけがなかった。対立候補が「私が真面目な方の『白石』です」とアピールするなど、もはやお笑いレベルの選挙戦となったが、結果は寛氏の敗北。やはり、スキャンダルは政治家にとって命取りか。そこで誰もが気になるのが、あのひと、山尾志桜里氏の当否だが、ご案内の通り見事当選を果たした。

◆勝因は、地元日本最大の自動車メーカーを中心とする全〇〇〇労働組合連合会の力、「労組票」であると言われている。山尾氏は全〇〇〇政策推進議員連絡会のメンバーに名を連ねている。そう言えば、希望の党の小池代表をはじめ野党の動きに絡んで連合会長の名前がいたるところで報じられていた。当たり前かもしれないが、日本では労働組合が政治に関与する度合いがまだまだ大きいということだろう。

◆米国の経済学者、ロバート・ライシュは著書『暴走する資本主義』で、米国の民主主義が行き詰まり格差・分断が進んだ要因として、かつては格差を抑える「頼みの綱」であった次の3つが衰退してしまったからだと指摘している。それは、(1)累進所得課税制度、(2)良質な公立学校、そして(3)労働組合、である。なるほど、組合の力が衰退した米国で格差が広がったなら、組合の力が依然として残る日本では格差がそれほど広がっていないのも頷けるというものか。

◆先週開かれた政府の経済財政諮問会議で安倍首相は3%の賃上げを事実上、経済界に要請した。某テレビ番組の楽屋で政財界の裏事情に通じたジャーナリストは、この「3%の賃上げ要請」を「恫喝」だと語った。解雇規制の緩和と抱き合わせであると言う。できない社員はクビにしていいから、残った者の給料をあげろと首相が企業に「要請」する。こういう状況は、「左」なのか「右」なのか、いずれにせよ自由な市場経済でないことは明らかであり、どこかの国を笑えないだろう。経済版「悪魔の辞典」にこう書かれないことを祈ろう。【計画経済】旧くはソ連で、現代では中国と日本で採用されている経済システム。破綻するのが必定である。