安定したキャッシュフローを生み出すチャブ[CB]はバフェット好みの銘柄か?

損害保険会社チャブの株式を約67億ドル相当保有していると判明

著名投資家ウォーレン・バフェット率いる米バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]が2024年1-3月期に損害保険会社チャブ[CB]の株式を67億1700万ドル相当保有していることが5月15日、SEC(米証券取引委員会)に提出された報告書「フォーム13F」で明らかになった。

バークシャーは2023年7-9月期からチャブの株式を取得し始めたが、2023年9月末時点、2023年12月末時点においては、特例制度を用いて一部の保有状況を非公開としていた。SECの規則によると、投資戦略を他者に知られないようにするなどの目的で、報告者は保有銘柄の一部秘匿をSECに3カ月単位、最長1年要請することができる。また、必要と認められれば延長を申請することも可能だ。

2月末に公開されたバークシャーの2023年末の年次報告書に記載されている保有株式の取得原価(簿価)欄からの推測で、以前より、バフェットが秘密裏に購入している対象は金融株である可能性が指摘されていた。バロンズ誌はいくつかの記事において、モルガン・スタンレー[MS]、ブラックロック[BLK]、あるいはチャブがターゲットではないかと報じていた。

スイスに本拠地を構えるチャブは世界最大級の損害保険会社で、ニューヨーク証券取引所に上場している。日本経済新聞の5月16日付けの記事「バフェット氏投資会社、保険大手チャブの株取得 1兆円」によると、バークシャーが保有するチャブの株式数は約2600万株で、チャブの発行済み株式数の約6%に相当するという。

バフェットの投資の神髄「調達コスト・ゼロ」のビジネスモデル

バークシャーは傘下に損害保険会社や鉄道、エネルギー、家具や日用品に至るまで多岐にわたる企業群を持ち、グループ全体で40万人近い従業員を抱えるコングロマリット(複合企業)だ。なかでも自動車保険のガイコや再保険のジェネラル・リーなど保険事業を主力としており、これらの保険契約者から受け取った保険料を原資に投資を行ってきた。

バフェットの投資の神髄は、保険会社で徴収したゼロ・コストの長期資金を投資に回す「調達コスト・ゼロ」のビジネスモデルを展開していることだ。保険業で保険料を徴収し、払い戻しが生じるまでコストがゼロの資金を運用し、利益につなげるというビジネスモデルである。

バフェットは2月末に公開された「株主への手紙」の中で、「バークシャーの目標はシンプルだ:私たちは、基本的かつ永続的で、優れた経済性を享受している事業のすべて、または一部を所有したいと考えている」と記している。

基本的かつ永続的で、優れた経済性を読み解く鍵は「キャッシュフロー」にある。このコラムにおいて度々取り上げている「キャッシュフローマトリックス」を見てみよう。

キャッシュフローマトリックスから分かるチャブの「安定期」

キャッシュフローマトリックスは縦軸に投資キャッシュフロー、横軸に営業キャッシュフローをとったものである。投資キャッシュフローは将来のキャッシュを生み出すために使われる先行投資である。

企業が成長している時期にはキャッシュが設備投資等に使われるためキャッシュが出ていき、基本的にはマイナスとなる。投資が進み、キャッシュが稼げるようになると、リターンが生み出され営業キャッシュフローがプラスとなる。

多くの企業は営業キャッシュフローがプラスで投資キャッシュフローがマイナスであることから、以下の図の右下の領域に入る。その中でも、稼ぎよりも投資の方が多い場合には「投資期①」に入り、稼ぎのほうが投資よりも大きければ「安定期②」 となる。

企業に投資先がなく、それまでに投資してきたものを売却するようになると、投資キャッシュフローはプラスに転じ「停滞期③」となる。投資をしなければ自ずと稼ぎも減ってくるため、営業キャッシュフローが減少する「低迷期④」に入り、さらに稼ぎが減少すると「後退期⑤」となる。そして営業キャッシュフローがマイナスとなると「破たん期⑥」となる。

【図表1】キャッシュフローマトリックス
出所:筆者作成
【図表2】チャブのキャッシュフローマトリックス
出所:決算資料より筆者作成

キャッシュフローマトリックスから、チャブは投資を行いつつもしっかりとキャッシュを生み出す「安定期」 にある企業であることが分かるだろう。

「株主への手紙」の中でバフェット氏は、「損害保険は、バークシャーのウェルビーイング(幸福)と成長の中核をなす。損害保険事業を始めて57年になるが、取扱高は1,700万ドルから830億ドルへと約5,000倍に増加したにもかかわらず、まだまだ伸びしろがある」と述べていた。

保険によるゼロ・コストの長期資金調達というビジネスモデルのおかげで、バフェットの持ち株投資会社バークシャー・ハサウェイのパフォーマンスが下がっても、バフェットは破綻することがない。これから金利が上昇していくインフレ局面で、投資家はバフェット(バークシャー・ハサウェイ)の凄さを知ることになるだろう。

不動の1位はアップル[AAPL]、新規投資のチャブは上場ポートフォリオのトップ10内に

1-3月期は保有する株式の売却をより進め約173億ドルの売越だった。アップル株[AAPL]の保有株数を13%程度減らした他、米メディア大手パラマウント・グローバル株[PARA]については損失が出る状態ですべて売却した。また、米IT(情報技術)大手のHP[HPQ]については、残っていた保有分全てを1-3月期に手放した。

【図表3】バークシャーの株式売買の推移
出所:決算資料より筆者作成

バフェットは5月4日に米ネブラスカ州オマハで開かれたバークシャーの年次株主総会で、パラマウント・グローバル株を見切ったことについて、「100%私が決めたことで、すべて売却しかなりの損失を出した」と語った。そして、この経験から、人々が自由な時間にどのような活動を優先させるかについてより深く考えるようになったと付け加えた。

【図表4】バークシャーの2024年3月末時点の保有上場株式
(緑:新規ポジション オレンジ:売却)
出所:フォーム13Fより筆者作成

一方、アップルについては、今回の売却にもかかわらず、バークシャーが長年にわたり保有するアメリカン・エキスプレス[AXP]とコカコーラ[KO]の2社よりも「さらに優れた」企業だと評価。アップルは年末まで最大の保有株であり続けるだろうと述べた。売却後も、バークシャーは3月末時点で1354億ドル相当の株式を保有している。なお、新規投資のチャブはバークシャーの上場株式投資ポートフォリオのトップ10に入った。

【図表5】バークシャーが持つ上場株式の保有割合(2024年3月末時点)
出所:フォーム13Fより筆者作成

「気に入った球しか振らない」バフェットの手元資金が再び過去最高を更新

5月4日に開催されたバークシャーの年次株主総会で、「なぜ現金を使わないのか?」という投資家からの質問にバフェットは次のように答えている。

「今日このテーブルに座っているわれわれの中で1890億ドルの効果的な使い方を知っている人は誰もいないと思う。(米短期債の金利が)5.4%の現状では手を付けない。1%だったら話は別だが。FRB(米連邦準備理事会)には内緒だよ。われわれは気に入った球しか振らないんだ」

バークシャーの2024年1-3月(第1四半期)末時点の現金保有残高(現預金と米短期債の保有額を合計した額)は1890億ドルと前期(2023年第4四半期末は1676億ドル)から13%増え、再び過去最高を更新した。

5月5日付けの日本経済新聞の記事「バフェット氏、高金利で鈍る株式投資 手元資金30兆円へ」によると、その額は米ウォルト・ディズニー(約2080億ドル)や米マクドナルド(約1950億ドル)の時価総額に相当する額だと言う。

【図表6】バークシャー・ハサウェイの手元現金残高とNYダウの推移
出所:各種データより筆者作成

さらにバフェットは「今四半期末には2000億ドル程度になるだろうというのは、妥当な推測だと思う」と述べ、6月末には大台を超える見通しを語った。そして、「使いたいのはやまやまだが、リスクがほとんどなく、私たちに大きな利益をもたらしてくれると思わなければ、使うことはないだろう」と付け加えた。

バフェット氏は以前から目を見張るようなリターンを達成できる有意義な案件が不足していると述べていた。直近で米国の3ヶ月物短期債の利回りが約5.4%で推移する中、米短期債の保有を積み増している。短期債から得る金利収入は昨年の第3四半期以降、3四半期連続で保有株からの配当収入を上回っている。

【図表7】バークシャー・ハサウェイの手元現金残高の内訳
出所:決算資料より筆者作成

バークシャーの手元キャッシュが積み上がっているという事実が発するメッセージは2つあると考える。1つはバフェットが言及しているように「妥当な価格」の買収対象が見つからないということだ。1890億ドルの資金があれば、バークシャーが完全に買収するか、支配権を取得できる企業はいくらでもあろう。

しかし、過去10年以上にわたる金融緩和を受けた株価とバリュエーションの上昇を考えると、バークシャーが直面している「妥当な価格」の買収先を見つけるのが難しいという課題は、単にバークシャーが機会を選びすぎているという類のものではないことが分かるだろう。

2つ目は、将来起こりうる市場の混乱に備えている可能性だ。バークシャーは巨額の資金と確実なパフォーマンスで、市場の混乱や発作に即座に対応する手段を完備している。バフェットは米国市場について「重大な失敗を避けさえすれば、これまでも、そしてこれからも報われる」と述べている。

2008年から2009年にかけての世界金融危機において、破たんの危機に直面したゴールドマン・サックス[GS]はバークシャーに援助を依頼した。バフェットは「有利な条件」で「大量の資本注入」を行った。将来、そのような機会は訪れるのか。答えは「イエス」である可能性が高い。いつの時代もそうであるように、行き過ぎた株価の戻りは起こるものだ。そのような混乱が起きたとき、バフェットには現金を利用する準備が整っている。

石原順の注目5銘柄

チャブ[CB]
出所:トレードステーション
アップル[AAPL]
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス[AXP]
出所:トレードステーション
コカコーラ[KO]
出所:トレードステーション
シェブロン[CVX]
出所:トレードステーション