日経平均は一進一退が続いています。これを以て、「セルインメイ(Sell in May)」が到来したのではと不安に思う方もいるのではないでしょうか。

しかし、私はこれまでの急伸を考えると、これはむしろ底堅い動きと受け止めています。懸念材料となっていた急激な円安も、当局の介入効果もあってひとまず落ち着いた動きとなってきました。基本的に依然として日経平均は日柄調整の範囲内であり、強気相場のトレンドには変化がないとの見方を継続したいと考えています。

ただし、企業の本決算の発表が本格化する中、今期に対する企業側の見方でかなり株価に明暗が分かれるようになりました。このまま成長軌道を辿ることができるのか、市場は銘柄選別を進める段階に移行してきたと言えるのかもしれません。

これは非常に真っ当で健全な動きと位置付けます。アベノミクスから始まった超長期の「金融相場」でしたが、ここにきて遂に(過去30年なかった本格的な)「業績相場」へとバトンタッチされるのではないか、と私は期待しています。

改めて理解したい、IPO投資とは

さて、今回は「IPO投資」を採り上げてみましょう。なぜ採り上げようと思ったかというと、2023年のIPOは久々に「揮(ふる)わない年」であったからです。詳細は後ほど説明しますが、まずは言葉の整理をしておきましょう。

おさらいですが、IPOとはInitial Public Offeringの略で、IPO投資とは新規公開株を狙った投資スタイルのことを一般的には指します。公募株式を証券会社から取得し、その株式上場後に(多くは初値で)売却して値上がり益を確保するという手法です。これは、上場初値が公募価格を上回る可能性が高いという特性を利用したもので、読者の皆様の中にもそれを狙って新規公募株に応募された方も少なくないのではないでしょうか。

初値が公募価格を上回りやすいのは、そもそも公募時点では市場価格がないためにディスカウントされてしまうことに加え、証券会社がその株式を売り切るために比較的「割安」な水準に設定する場合が多いためです。ここでは公開株の事業内容や競争力はあまり重視されず、初値と公募との「値ざや取り」に徹する傾向が見て取れます。IPO投資にはこのような特性があることを覚えておきましょう。

2023年の例で見る、IPO投資の誤算とその理由

しかし、初値が公募価格を割り込んでしまうと、IPO投資戦略は機能しません。投資家にはそのまま保有し続けて上昇を待つか、損切するかの選択が迫られることになります。IPO投資に際して当該企業の事業内容に関心を払っていない状態で継続保有をすれば、今度は長期保有のリスクが各段に増すことにもなります。損切と併せ「進むも退くも地獄」的な選択を強いられることになるのです。2023年のIPOが「揮わなかった」とするのは、まさにそういった状況となったためです。

2023年は96社が新規上場を果たしました。しかし、このうち26社は初値が公募価格を割り込み、現在においても20社ほどは公募価格以下の水準に沈んでいます。初値の公募価格割れ比率は27%と、実に12年ぶりの高い水準でした(それ以前10年累積の初値公募価格割れ比率はおよそ16%です)。これはIPO4社に1社はIPO投資戦略が機能しなかったということです。

この理由は色々考えられますが、まず挙げられるのは、日経平均の急伸が示すように、大型株に投資家の関心が移ったことでしょう。

2023年を通して見ると、日本を代表する大企業で形成される日経平均は28%上昇した一方、高成長期待を本来担うはずの東証グロース市場は4%下落となりました。明らかに株式市場は新興企業の成長よりも大企業の変革に期待を寄せているように見えるのです。

しかし、それ以上に重要なことは、新興企業自身が市場の関心を惹き付けるほどの成長を示せていないということです。これには、新規公開社数が年間およそ100社程度となってもう10年になり(それ以前は年50社程度)、本当に実力のある新興企業の上場が一巡してしまったという厳しい指摘もあります。

確かに、(上場ゴール狙いでなければ)どうして上場するのだろうかと疑問に思う企業も少なくない上、上場企業として社会的責任や市場からの圧力に対応していこうとする認識や覚悟、知識に欠けるような経営者が体感ベースながら増えてきたようにも思えます。これでは成長を期待できないというのが率直なところでしょう。もちろん、そういった企業をも上場させてしまう証券会社の罪も重いと言わざるを得ないのですが。

2023年以降も公募価格以上の水準を維持、または回復している企業銘柄

そのような「揮わなかった」2023年のIPO事情の中で、しっかりと期待が株価に織り込まれていった企業ももちろんあります。現時点で公募価格はもちろん、初値も上回る水準を維持できている企業は、Arent(5254)、テクノロジーズ(5248)、KOKUSAI ELECTRIC(6525)、南海化学(4040)、アイビス(9343)、クオリプス(4894)、QPS研究所(5595)、楽天銀行(5838)、ノバシステム(5257)、オカムラ食品工業(2938)、魁力屋(5891)、笑美面(9237)、住信SBIネット銀行(7163)、DAIWA CYCLE(5888)、Laboro.AI(5586)、yutori(5892)、ファーストアカウンティング(5588)、QLSホールディングス(7075)の18社があります。

また、初値は公募価格を割り込んだものの、切り返して公募価格以上の水準を回復させている企業には、全保連(5845)、インテグラル(5842)、成友興業(9170)、ジェイ・イー・ティ(6228)、GENDA(9166)、売れるネット広告社(9235)、アスマーク(4197)、Japan Eyewear Holdings(5889)、GSIクレオス(8101)、AnyMind Group(5027)の10社があります(筆者調べ。5月12日原稿執筆時点)。

結局のところ、これらの企業は「IPO投資」の枠を越えて投資家には魅力的であったということになります。こういった企業群の何が投資家に期待を抱かせてくれたのかに思いを巡らせることが、玉石混交のIPO銘柄群から「玉」を拾い出す手段になると私は考えています。