S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。米国株式市場の時価総額の約80%をカバーしています。

S&P500構成銘柄に採用されるには米国企業であることが前提で、それは米国内での売上高や固定資産、本社所在地などで判断されますが、その他に、以下の要件などがあります。
◇過去4四半期の純損益の合計が黒字で、直近の四半期の純損益が黒字
◇流動性比率の高さ(過去6ヶ月間の月間売買高が最低25万株)
◇浮動株比率が50%以上
◇時価総額が145億ドル以上
◇新規株式公開(IPO)から12ヶ月以上経過
◇グローバル産業分類標準(GICS)の分類に基づく産業バランスが適切

将来への期待で一時的に株価が高騰し、時価総額が急増した赤字のテック企業は利益規定をクリアしなければ採用されません。収益化できるビジネスモデルを持つ企業が対象になるため、採用されれば名実ともに米国の大企業の仲間入りを果たします。

基準をクリアし、晴れて採用されたのは2023年通年で18銘柄に上ります。今回は2023年9月以降に採用された銘柄のうち注目度の高いウーバー・テクノロジーズ[UBER]、ルルレモン・アスレティカ[LULU]、エアビーアンドビー[ABNB]、ブラックストーン[BX]、ヴェラルト[VLTO]の5銘柄をご紹介します。

ウーバー・テクノロジーズ[UBER]、シェアリング経済の旗手

時価総額70位前後の大型株

新興のテック銘柄にとって、S&P500への採用は持続的な大企業に進化する重要な登竜門といえるのかもしれません。革新的な技術やビジネスモデルへの期待で時価総額が増えても収益モデルを確立しない限り、S&P500に採用されることは難しいからです。

シェアリングエコノミーの旗手として2019年5月にウーバー・テクノロジーズがニューヨーク証券取引所に上場して約4年半。2023年12月についにS&P500の採用銘柄となりました。

ウーバー・テクノロジーズは2024年1月26日の時点で時価総額が1300億ドルを超え、米国株の中でも70位前後にランクされる大型株です。時価総額などではS&P500の採用基準に達していましたが、ネックになったのはやはり収益性です。

売上高は伸びているが、通期では以前として赤字

新興の有望テック企業らしく売上高は順調に伸びています。通期ベースでは新型コロナの流行で外出の機会が急減した2020年12月期に売上高は前年比14.3%減の111億3900万ドルに縮小しましたが、2021年12月期に56.7%増、2022年12月期に82.6%増と成長軌道に戻っています。

損益では2022年12月期の純損失が91億4100万ドルと通期では依然として赤字です。ただ、四半期ベースでは2022年10-12月期に5億9500万ドルの黒字を計上。2023年1-3月期には1億5700万ドルの赤字になりましたが、4-6月期に3億9400万ドルの黒字に復帰し、7-9月期に2億2100万ドルの純利益を計上しました。

この結果、4四半期の純損益の合計は10億5300万ドルの黒字となり、直近の7-9月期も黒字でした。S&P500の構成銘柄の基準をクリアし、2023年12月の採用につながっています。

業績は2023年に売上高の伸びが鈍化しましたが、前述のように収益性は改善しています。2023年7-9月期は売上高が前年同期比11.4%増の92億9200万ドル、純利益が2億2100万ドル(前年同期は12億600万ドルの純損失)でした。

中国配車アプリ最大手の滴滴出行への出資に対する評価損などで、2022年7-9月期にその他損失5億3500万ドルを計上していましたが、2023年7-9月期にはその他損失が大幅に縮小し、最終損益ベースで黒字転換につながっています。

主力の配車サービス部門が堅調

事業別では主力の配車サービス部門が堅調で、売上高が32.7%増の50億7100万ドル、調整後EBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)が43.3%増の12億8700万ドルに達しました。保険費用などの増加でコストは膨らみましたが、増収効果で利益が伸びています。

ウーバーイーツなどの出前や日用品の配送を含むデリバリー部門は売上高が6.0%増の29億3500万ドル、調整後EBITDAが128.2%増の4億1300万ドルでした。一部の国・地域で売上計上の仕組みが変わり、売上高は伸び悩みましたが、広告などを含む収入の拡大などで大幅な増益となっています。

一方で、荷主や運送会社とトラック運転手をつなぐトラック配車サービスのフレイト部門は売上高が26.6%減の12億8600万ドル、調整後EBITDAが1300万ドルの赤字(前年同期は100万ドルの黒字)と苦戦しました。貨物輸送市場の周期的な苦境を背景に輸送量や輸送単価が落ち込み、業績の悪化につながっています。

【図表1】ウーバー・テクノロジーズ[UBER]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月

ルルレモン・アスレティカ[LULU]、健康志向で機能性ウェア需要拡大

通期決算の売上高は20年にわたり2桁超の増加

ルルレモン・アスレティカは、ヨガやランニング、トレーニングなどに使う高機能ウェアの開発、生産を手掛けています。カナダのバンクーバーで創業し、今も本社を置いています。

同社は2022年10月にS&P500に採用されています。マイクロソフト[MSFT]の買収でゲーム大手のアクティビジョン・ブリザードがS&P500の構成銘柄から除外され、代わりにルルレモン・アスレティカが採用されました。本社はバンクーバーにありますが、売上高の約70%(2023年1月期)を米国市場で稼ぎ出しており、「米国企業」という条件をクリアしたとみられます。

主力商品はヨガやランニングなどで使用するレギンスやタイツ、ジョガーパンツ、トレーナー、タンクトップ、アンダーウェア、ソックス、キャップ、バッグ、ヨガマットなどです。健康志向を背景に機能性ウェアの需要は拡大し、通期決算の売上高は20年にわたり2桁超の増加を続けています。

売上高はバランス良く伸びる

2023年8-10月期決算は売上高が前年同期比18.7%増の22億400万ドルと伸びましたが、コスト増のあおりで純利益は2.6%減の2億4900万ドルにとどまりました。製品別の売上高は女性向け製品が前年同期比19.0%増の14億3400万ドル、男性向け製品が14.6%増の5億500万ドル、その他製品が25.5%増の2億6500万ドルとバランス良く伸びています。

ルルレモン・アスレティカは海外展開にも積極的で、2023年10月末時点で18カ国に686の直営店を展開しています。内訳は米国が361店、中国が133店、カナダが70店、オーストラリアが32店、英国が20店、韓国が18店、ドイツが9店、ニュージーランドが8店、日本が7店、シンガポールが7店です。

【図表2】ルルレモン・アスレティカ[LULU]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月

アビーアンドビー[ABNB]、注目銘柄が満を持して採用に


エアビーアンドビーは、宿泊場所を探す旅行者(ゲスト)と空き部屋を貸したい人(ホスト)をつなぐプラットフォーム「エアビーアンドビー」を運営しています。2008年に民泊仲介のウエブサイトを立ち上げて以来、ホストの数は2022年末時点で世界220ヶ国・地域の10万超の市区町村で400万人を超える水準にまで増えました。

ホストは旅行先での「体験」も提供することができます。プラットフォームに登録された宿泊場所・体験の数(2023年6月末)は700万件を上回っています。

S&P500の構成銘柄に採用されたのは2023年9月です。ウーバー・テクノロジーズと同様にシェアリングエコノミーの旗手として2020年の上場前から注目を集めていましたが、やはり収益化に手間取りました。

2022年12月期に18億9300万ドルの純利益を計上し、通期決算で初めて黒字転換を果たしています。また、四半期ベースでは北半球の夏に当たる7-9月期に純利益を計上するケースは多いのですが、閑散期の1-3月期は苦戦していました。ただ、2023年1-3月期に1億1700万ドルの純利益を計上し、初めて黒字に転換しています。

今後の見通しを考慮すると、2024年は7-8月にパリ夏季五輪が開催されるオリンピックイヤーです。エアビーアンドビーは、トヨタ自動車やコカコーラ[KO]などと並び世界でも14社に限られる最上位スポンサーの「ワールドワイドオリンピックパートナー」の1社です。ブランドの露出が増え、利用者の拡大に結びつくと期待されます。

【図表3】エアビーアンドビー[ABNB]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月

ブラックストーン[BX]、曲折の末にS&P500の採用銘柄に

ブラックストーンはオルタナティブ投資の運用会社として世界的な大手です。オルタナティブ投資は、上場株式や債券といった伝統的な投資対象とは異なる対象への投資を意味し、ブラックストーンは不動産やプライベート・エクィティ(未公開株)、ヘッジファンド関連の資産運用事業を手掛けています。

ブラックストーンの社名は共同創業者の名前に由来しており、世界最大級の資産運用会社であるブラックロック[BLK]ももともとはブラックストーンの一部門でした。1990年代半ばに売却を進める過程でブラックストーン・ファイナンシャル・マネジメントがブラックロック・ファイナンシャル・マネジメントに変更され、売却後にブラックロックという名称が残りました。黒い石が黒い岩になったのです。

ブラックストーンの時価総額は2024年1月26日の時点で1500億ドルを超え、ブラックロックの時価総額を大きく上回っています。ただ、S&P500との縁は薄く、当初は事業形態がパートナーシップだったという理由で構成銘柄に採用されませんでした。

株式会社の事業形態になった後は種類株の問題で対象銘柄にはなりませんでしたが、2023年4月にS&P500を算出するS&Pダウ・ジョーンズ・インデックス社が種類株の構造を持つあらゆる企業を指数構成銘柄の対象にする方針に改めたことで、ブラックストーンは2023年9月に晴れてS&P500の構成銘柄に採用されたのです。

2022年末時点の運用資産額は9747億ドルに上っています。内訳は不動産投資部門が3261億ドルで最も多く、未上場企業投資部門の2889億ドル、企業の債権や証券に投資するクレジット&保険部門の2799億ドル、ヘッジファンド・ソリューション部門の797億ドルが続いています。

【図表4】ブラックストーン[BX]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月

ェラルト[VLTO]、ダナハーからスピンオフ


ヴェラルトは多角経営のダナハー[DHR]からスピンオフし、ニューヨーク証券取引所に上場しました。ダナハーの環境・産業ソリューション部門として十分な実績を積み上げており、2023年10月にS&P500の採用銘柄として、通常の株式売買をスタートさせています。

スピンオフ後の主力事業は水質管理部門と製品品質管理・イノベーション部門

スピンオフ後の主力事業は水質管理部門と製品品質管理・イノベーション部門の二つに分かれています。水質管理部門は、一般家庭や商工業の現場などで使用する水の分析や処理、管理に必要な装置、消耗品、ソフトウエア、サービス、殺菌システムなどを提供します。主要顧客は地方自治体の水道局や民間企業などで、浄水処理場や下水処理場などに一連のソリューションを提供します。

製品品質管理・イノベーション部門では、産業用のプリンター、レーザーマーカー、印刷検査機などに加えて関連のソフトウエアを開発するほか、製品のパッケージやラベルのデザインワークを支援するソリューションを提供しています。対象となるのはコンシューマー製品や医薬品の開発・製造事業者です。

ダナハーは2002年に産業用プリンターの米ビデオジェットを買収し、この分野に参入しました。2011年に商品パッケージ関連のソリューションを提供するベルギーのエスコ・アートワーク、2012年には分光測色計の米エックスライトを買収し、業容を拡大させています。

【図表5】ヴェラルト[VLTO]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月