熱気高まるeスポーツ産業。多額の投資を進めるサウジアラビア

自他ともに認めるアラブ世界の盟主で石油輸出国機構(OPEC)の要であるサウジアラビアは王室が極めて保守的と言われています。現在のサルマン国王は近代サウジアラビアの第7代国王ですが、アブドゥルアジズ初代国王(在位は1932-1953年)の25番目の男子とされています。今も高齢の第2世代が王位に就いているのです。

報道によると、第3世代の王子の数は数百人規模と言われており、王位継承順位が最も高いのがムハンマド皇太子です。ムハンマド皇太子は強硬手段で物議を醸すケースもありますが、保守的なサウジアラビアの社会や経済体制の岩盤に風穴を開ける改革の旗手として期待されているようです。

特に2016年に発表した包括的な経済・社会改革構想「ビジョン2030」は世界を驚かせました。国営石油会社サウジアラムコが生み出すオイルマネーを生かし、医療やITといった分野への投資を通じて継続的に利益を生み出す循環を構築するのが骨子です。

ムハンマド皇太子が2023年10月に発表した「eスポーツワールドカップ(W杯)」の創設も「ビジョン2030」の一環で、ゲーム産業の振興が狙いです。サウジアラビアでは毎年、コンピューターゲームなどの腕を競うeスポーツの祭典「Gamers8」が開催されており、これが2024年からは「eスポーツワールドカップ」にアップグレードされるのです。

サウジアラビアは2034年のサッカーW杯の最有力候補で、ほぼ確定したとも伝わっており、「eスポーツワールドカップ」はそれよりも10年早く始まります。ちなみに2024年夏に開催される予定の「eスポーツワールドカップ」は賞金総額が4500万ドル(約67億7300万円)で、eスポーツの大会としては破格の規模です。費用に見合う効果が得られるのかどうかは不明ですが、サウジアラビアだけに「eスポーツのメッカ」を目指しているのかもしれません。

世界のゲーム人口は現在約37億人。今後は五輪採用への期待も

調査会社のDFCインテリジェンスによると、世界のゲーム人口は約37億人に達しています。スマートフォンの普及に伴いモバイルゲームで遊ぶ人が増えたようで、スマホを入口に本格的なゲーマーになる人も増えると予想されます。

eスポーツは2023年9-10月に開催された杭州アジア大会で正式種目に採用され、五輪への採用も取り沙汰されています。eスポーツはゲーム市場の多様化やファン層の拡大に不可欠な上、ゲームソフトからゲーム専用機器などのハードウエアまで産業のすそ野は広く、ゲーム人口増加の恩恵も受けています。ビジネスでは特に日中韓の東アジアと米国に有力企業が多いようです。そこで、今回は米国市場に上場する関連銘柄をご紹介します。

積極的な投資により、今後の業績拡大が期待される5銘柄

マイクロソフト[MSFT]、アクティビジョンを10兆円で買収

マイクロソフトはゲーム事業を重視しているようです。2023年6月期の売上高に占めるゲーム部門の割合は7.3%にすぎませんが、相対的に手薄な消費者向け事業の成長を促すには不可欠なビジネスとの位置付けだと思います。

実際、2023年10月にはゲーム大手の米アクティビジョン・ブリザードの買収を完了させました。英国の独占禁止当局が当初、買収計画を承認しないといった曲折もありましたが、最終的に問題をクリアし、アクティビジョン・ブリザードはナスダック市場への上場を廃止しています。

2022年1月に、この計画を発表した際の買収額は690億ドル(約10兆3000億円)です。アクティビジョン・ブリザードの2022年12月期の純利益は15億1300万ドルですが、マイクロソフトは10兆円という大枚をはたいて傘下に組み込んだのです。

アクティビジョン・ブリザードは米国を代表するゲーム開発企業です。数多くのヒット作を生み出しており、シリーズ化するケースも多いようです。また、eスポーツの種目に採用される人気ゲームも取り揃えています。

eスポーツの種目に採用される条件として競技性は大切ですが、人気も極めて重要です。プレーヤーの数が多く、底辺が広ければ、プロゲーマー同士の頂上対決に注目が集まりますし、チケットを購入して会場で観戦する人やゲーム内のアイテムを購入する人も増えます。

eスポーツの主なジャンルには、シューティングゲーム、対戦型格闘ゲーム、スポーツゲーム、レースゲーム、リアルタイムストラテジー(RTS)ゲーム、マルチプレイオンラインバトルアリーナ(MOBA)、デジタルカードゲームなどがあります。

このうちシューティングゲームは、画像上に自身を投影したキャラクターが登場せず、プレーヤー目線(1人称視点)でプレーするファーストパーソン・シューター(FPS)と画像上でキャラクターを後ろから操作するサードパーソン・シューター(TPS)に分かれます。

アクティビジョン・ブリザードが提供するFPSの代表格はチーム対戦型のシューティングゲーム「オーバーウォッチ」です。米国を中心に中国や韓国、英国などの都市を代表するかたちで計19チームが参加するeスポーツの「オーバーウォッチ・リーグ」が行われており、優勝賞金はなんと100万ドル(約1億4800万ドル)。世界のeスポーツの中でも注目度の高い大会です。

「コールオブデューティ」シリーズも人気のFPSです。こちらも「オーバーウォッチ・リーグ」と同様のフォーマットで「コールオブデューティ・リーグ」が行われ、北米の12チームが参加しています。野球の大リーグのように都市を代表するチームが参加するフランチャイズ制を採用しています。優勝賞金はこちらも100万ドルです。

アクティビジョン・ブリザードはリアルタイムストラテジー(RTS)ゲームも得意分野です。RTSゲームは戦況に応じて兵士や部隊の動きといった戦略を変えていくシミュレーションゲームです。このジャンルでは「ワールドオブウォークラフト」の人気が高く、世界大会も行われています。

デジタルカードゲームではアクティビジョン・ブリザードが開発したハースストーンが知られています。シューティングやバトルゲームのような派手さはありませんが、人気は根強いようでこちらも世界大会が開催されています。

【図表1】マイクロソフト[MSFT]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は6月
【図表2】マイクロソフト[MSFT]:株価チャート
出所:トレードステーション

エレクトロニック・アーツ[EA]、サッカーゲーム「FIFA」でW杯

エレクトロニック・アーツは米カリフォルニア州レッドウッドシティに本社を置くゲーム販売企業です。家庭用ゲーム機、パソコン、モバイルフォン、タブレットなどのプラットフォームに向けたゲームの開発や配信を手掛けています。

シューティングゲームやスポーツゲームなどを中心に人気ゲームを取り揃え、家庭用ゲーム機向けのゲームではソニーの「PlayStation」とマイクロソフトの「Xbox」に提供しています。

eスポーツでは一人称視点(FPS)のバトルロイヤルシューティングゲーム「エーペックスレジェンズ」が人気です。地域ごとの予選を勝ち抜いたチームが戦うグローバルシリーズも開催されており、2023年の「エーペックスレジェンズ・グローバルシリーズ(ALGS)選手権」の賞金総額は500万ドルと伝わっています。

レースゲームでは「F1」がeスポーツでも人気があります。リアルな世界の自動車レースの最高峰「F1世界選手権」を主催する国際自動車連盟(FIA)の公認のレースゲームで、新型コロナウイルスの影響で2020年にリアルな世界のFI世界選手権が相次いで中止に追い込まれた際には現役ドライバーがeスポーツの「F1」に参戦しました。エレクトロニック・アーツは開発企業の英コードマスターズを2021年に買収し、eスポーツの「F1」を傘下に組み入れています。

一方、スポーツゲームの本命とも言えるサッカーゲームでは国際サッカー連盟(FIFA)と提携し、その名も「FIFA」というタイトルのゲームを開発しました。eスポーツでは、やはりFIFAとエレクトロニック・アーツが共同で「FIFA eワールドカップ」を開催しており、2023年9-10月の杭州アジア大会でも正式種目に採用されています。

ただ、FIFAとエレクトロニック・アーツの関係は悪化し、「FIFA2023」を最後に提携は解消されました。エレクトロニック・アーツは「FIFA」の後継ゲームとして「EA SPORTS FC24」をリリースしています。内容面では「FIFA」から大きな変化はないようで、eスポーツでも世界各地の予選を勝ち抜いたプレーヤーによる世界選手権が行われる予定です。

【図表3】エレクトロニック・アーツ[EA]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は3月
【図表4】エレクトロニック・アーツ[EA]:株価チャート
出所:トレードステーション

テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエア[TTWO]、NBAと提携

テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエアは米ニューヨークに本社を置くゲーム開発企業です。ソニーの「PlayStation」とマイクロソフトの「Xbox」、任天堂の「Switch」といった家庭用ゲーム機向けのゲームをはじめ、パソコンやモバイル端末用のゲームを開発しています。

米国を中心にオーストラリア、カナダ、中国、ドイツ、インド、スペイン、韓国、トルコ、英国など世界各地にゲームの開発スタジオを持ち、世界的に事業を展開しています。2023年7-9月期の売上高に占める米国外事業の割合は39%に上ります。

ブランドも多様で「ロックスター・ゲームズ」「2K」「プライベート・ディビジョン」「ジンガ」などを展開しています。このうちソーシャルゲームの「ジンガ」ブランドは2022年5月に約127億ドルでジンガ社を買収し、手に入れたものです。

eスポーツでは、NBA(全米バスケットボール協会)と提携して開発したバスケットボールゲーム「NBA 2K」を元にNBAと共同で「NBA 2Kリーグ」を運営しています。通信大手のAT&T[T]や食品のモンデリーズ・インターナショナル[MDLZ]、暗号資産取引所のコインベース[COIN]などスポンサーも多く、スポンサーの名を冠したシリーズも行われています。

【図表5】テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエア[TTWO]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は3月
【図表6】テイクツー・インタラクティブ・ソフトウエア[TTWO]:株価チャート
出所:トレードステーション

コルセア・ゲーミング[CRSR]、ゲーム用機器を提供

eスポーツではパソコンのキーボードやマウスといった道具も重要です。力を発揮するには使い慣れた野球のグローブやスパイクが必要なのと同じ感覚なのだと思います。

コルセア・ゲーミングは、本格的にゲームをプレーするゲーマーに加え、ゲーム実況・ゲーム解説動画を配信するストリーマーやコンテンツを制作するクリエイターなどに向けてハードウエアとソフトウエアを提供しています。もちろんeスポーツでもコルセア・ゲーミングの製品を使うプレーヤーは多いようです。

主な製品は高性能ゲーミングキーボード、マウス、ヘッドセット、ゲーミングコントローラー、マイク、ウェブカメラ、ゲーミングパソコン、モニター、冷却製品、電源ユニット、DRAMモジュールなどで、「Corsair」「Elgato」「Origin」「SCUF」といったブランドで製品を販売しています。

このうちDRAMモジュールについては、ほぼすべてを台湾の拠点で組み立て、テスト、パッケージを手掛けています。高速DRAMモジュールは台湾の桃園市にある自社の設備でテストやパッケージングを行い、汎用品はサブコントラクターから調達します。

また、顧客の要望に基づく仕様のゲーミングPCやゲーミングコントローラーは、組み立てやテスト、パッケージを米ジョージア州アトランタにある自社工場で手掛けています。この他の製品の大部分はアジアの下請け企業に発注し、調達しています。

【図表7】コルセア・ゲーミング[CRSR]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表8】コルセア・ゲーミング[CRSR]:株価チャート
出所:トレードステーション

タートル・ビーチ[HEAR]、ヘッドセットに強み

タートル・ビーチはゲーム用のヘッドセットの世界的な大手です。ヘッドセットとはマイク付きのヘッドフォンのことで、両手をフリーにしなければならないゲームでは必需品です。特にオンラインで遊ぶゲームが増えるにつれて、ヘッドセットも一般的なアイテムになっています。

eスポーツの世界でのゲーマー向けはもちろん、ゲーム実況・ゲーム解説動画を配信するストリーマー向けでも高品質なヘッドセットが求められます。タートル・ビーチは多様な製品でゲーム初心者からプロまでの需要に対応しています。

また、2019年にはゲーム用の周辺機器の開発を手掛ける独ロキャット(ROCCAT)を買収しました。「ROCCAT」ブランドでゲーム用のキーボード、マウス、マウスパッド、ヘッドセットなどを提供しています。

【図表9】タートル・ビーチ[HEAR]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表10】タートル・ビーチ[HEAR]:株価チャート
出所:トレードステーション