モトリーフール米国本社、2023年11月7日 投稿記事より

主なポイント

・「ダウの犬」戦略は、市場の出遅れ銘柄の中から優良企業の復活ストーリーに賭ける投資戦略である
・シェブロン[CVX]は再生可能エネルギーに向かう時代に石油に大きく賭けようとし、3M[MMM]は複数の法的和解に直面していることから、これら企業への投資には慎重な目が必要である
・ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス[WBA]の2023年の株価下落は、新経営陣の下で買いの好機を示唆している可能性がある

NYダウの出遅れ銘柄は注目なのか。2023年のアンダーパフォーム銘柄に注目する

「ダウの犬」は人気の投資戦略で、ダウ工業株30種平均(NYダウ)の構成銘柄のうち、その年に投資家から最も嫌われている銘柄に投資する方法です。

考え方はシンプルです。市場で常に厳しい目にさらされている米国のエリート企業の中から、特に打撃を受けている銘柄を絞り込みます、そして、足元で株価が下落している理由が何であれ、業界内の大手企業は必ず立ち直るであろうという信念に基づいて投資するのです。1年の初めに、NYダウ構成銘柄の中で配当利回りが最も高い10銘柄を特定し、それぞれに均等に投資します。

配当利回りが高いということは、利益を株主へ還元する意欲が高いというだけでなく、配当利回りの計算式により、株価のパフォーマンスが低いことを示します。

1年後、「ダウの犬」と呼ばれる低パフォーマンス銘柄の最新リストに基づいてポートフォリオをリバランスします。これを毎年繰り返して行くというわけです。

これは単なる理屈ではありません。2022年にNYダウが8.3%下落した一方で、ダウの犬は1.6%の下落にとどまり、市場をアウトパフォームしました。株式市場をより広く代表するS&P500指数は、この年にさらに大幅な19.4%下落でした。

とはいえ、これも完璧な戦略ではありません。2023年1-10月を見ると、NYダウは0.3%下落、S&P500指数は9.2%上昇していますが、年初に選んだダウの犬10銘柄に均等投資したポートフォリオは5%下落しています。致命的な下落ではありませんが、市場をアンダーパフォームしています。

なお、NYダウのエリートの中で2022年のパフォーマンスが特に低かった銘柄の一部は、2023年に力強く上昇しています。インテル[INTC]、セールスフォース・ドットコム[CRM]、ウォルト・ディズニー[DIS]の株価は、2022年に40%超下落しました。ウォルト・ディズニーは2023年も年初来でさらに2%下落していますが、インテルは44%上昇、セールスフォース・ドットコムは56%上昇しています。

では、そうした過去の変動を踏まえた上で、2023年に大きく値を下げているNYダウ銘柄を見てみましょう。シェブロン[CVX]、3M[MMM]、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス[WBA]は、足元の安値から株価が上向く保証はありませんが、注目する価値はあるかもしれません。これらのベテラン企業は、低迷する現状からすぐに立ち直ることができるでしょうか。

シェブロン[CVX]:年初来14.5%下落

石油・天然ガス大手のシェブロンは、エネルギーセクターを取り巻く大変革に苦しんでいます。従来の炭素燃料はもはや時代遅れであり、太陽光発電、炭素回収システムによって生成される水素、風力タービンといった、環境に優しい代替エネルギーに押されています。

市場の転換のきっかけとなったのは、電気自動車(EV)メーカーのテスラ[TSLA]です。同社は、フルEVはクールであるという考え方を浸透させ、そうした消費者心理をうまく利用して太陽光エネルギーに注目を集めることに成功しました。今では、自動車業界全体がガソリンで動く自動車やトラックから離れつつあります。これは、シェブロンのような老舗のエネルギー企業にとって悪材料です。

現在、シェブロンは58億ドルの現金同等物と2,640億ドルの総資産を持ち、資金力は十分です。保有する油田の価値を考えれば当然です。今は、石油に特化した事業から、環境に優しい戦略へとシフトするのに良いタイミングかもしれません。同社は既に、太陽光事業や水素事業を手掛けていますが、業績に貢献するほどではなく、先日行われた第3四半期決算発表でも言及されませんでした。それどころか、シェブロンは530億ドル相当の新株を発行し、小規模な石油会社ヘス[HES]を買収すると発表しました。

つまり、シェブロンは昨今のトレンドと反するアイデアに大きく賭けようとしているようです。市場関係者の中には、エネルギー業界がいきなり方向転換することはなく、シェブロンは現時点で確実なインカム投資であると見る向きもあるようです。しかし、2023年の株価下落は当然の流れとみられ、今は買い時ではないと思われます。

3M[MMM]:年初来23.8%下落

産業用素材のスペシャリストである3Mは近年、インフレによる経済的圧力に加え、複数の法的な問題に直面しています。

同社は先日、軍需用耳栓の素材の適合性をめぐって、60億ドルで和解することで合意しました。また、3Mからの廃水に含まれる化学物質汚染への対応で暫定合意したことで、さらに多額の法的な補償が必要になる可能性があります。

3Mは過去2年にわたり、売上高とフリーキャッシュフローが減少しており、莫大な費用を要する数々の法的対応への備えは十分とは言えません。耳栓をめぐる和解には罪を認める内容は含まれませんが、投資家は、3Mにはもっと多くの問題が隠されているのではないかと疑っていると思われます。これらの問題により、3Mの経営陣にも厳しい目が向けられています。

同社は、ヘルスケア事業を切り離すことでバランスシートの強化を図っていますが、ヘルスケア事業は同社にとって最も成功している事業の1つです。業績が低迷し、莫大な金のかかる法的課題を抱えている時に、スタープレーヤーをメンバーから外すのは良い作戦とは思えません。

つまり、3Mの株価下落も必然と思われます。では、最後の銘柄も同じなのでしょうか。

ウォルグリーン・ブーツ・アライアンス[WBA]:年初来40.8%下落

ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスは、コンビニエンスストアとドラッグストアを展開するグローバル企業です。特に重要なCEOやCFOなど、経営陣には就任したばかりの顔ぶれが並んでいます。新たな経営陣が、この大規模で複雑な事業を把握するには時間がかかるとみられ、不安定な経済状況の下で予想外の課題に直面する可能性もあります。

現在、事業は必ずしも順調とは言えません。売上高は、ここ数四半期は前年同期比でわずかながらプラス成長を回復しましたが、フリーキャッシュフローは過去3年で減少しています。同社は大幅な赤字であり、現在進行中のコスト削減プログラムも、損益分岐点を超えるには不十分とみられます。

そのため、株価売上高倍率(PSR)は驚きの0.1倍、予想株価収益率(PER)は6倍となっています。このようなバリュエーションは通常、破綻寸前の企業に見られるものです。ということは、これはマーケットメーカーの明らかなミスなのでしょうか。しかし、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスの株価チャートは、過剰反応をしているという可能性もあります。就任したばかりのティム・ウェントワースCEOは、薬局事業の経営で豊富な経験を持ち、ウォルグリーン・ブーツ・アライアンスの経営でも手腕を発揮する可能性があります。

2023年のダウの犬になりそうなウォルグリーン・ブーツ・アライアンスへ多額を投資するのはリスクがありますが、少額であればウェントワースCEOの可能性に賭けることで、いずれ報われるかもしれません。