法人営業の自動化ツールの開発など、経営者として10年以上新規サービスの企画、開発に携わり続ける小島舞子さん。2022年7月には、自身が立ち上げた株式会社クラフターがマネックスグループに加わりました。数々の自治体に生成AIの実証実験を広めて注目を集める小島さんに、起業のきっかけ、ここの数年のVCの資金調達状況、ご自身の投資・資産運用やキャリアとの向き合い方などについてお話をうかがいました。
 

●小島舞子さんプロフィール●

株式会社クラフター(旧:チャットブック)創業者代表取締役社長。iU情報経営イノベーション専門職大学 客員教授。一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)協議員。

2022年7月マネックスグループに同社を売却。10年以上新規サービスの企画立ち上げに関わる。創業直後に資金調達を発表しTechCrunch DisruptとTech in Asiaに登壇。テクノロジーに境界はないと海外中心の優秀なエンジニア組織を構成する。Salesforce、East Ventures、YJCapitalなどから投資を受け、Facebook認定Messengerパートナー、AIアクセラレーターに採択。日経AIサミット、東京都開催APT Womenなどでの登壇実績がある。現在Newspicksのプロピッカーとして活動中。2023年8⽉、⼀般社団法⼈⽣成AI活⽤普及協会(GUGA)協議員に就任。

企業も消費者も使いやすいオンラインマーケティングツールを作りたい

――小島さんは、2016年にチャットブック(現・クラフター)を起業されたそうですが、きっかけを教えてください。

最初に起業したのは大学生の時です。その後、リクルートにウェブディレクターとして入社しました。所属した部署で消費者向けの新規サービスをリリースしたのですが、PV(ページビュー)は伸びているのに、なかなか顧客の獲得にはつながらないということがありました。「リクルートのような知名度のある大きな企業でもオンラインマーケティングは難しいものなんだ」と驚き、同じように感じている企業さんが多いのではないかと考えました。

ちょうどその頃、FacebookのMessengerやLINEのようなメッセンジャーアプリの利用者数が、SNSの利用者数を超えたことがニュースになりました。「普段から使い慣れたチャットなら消費者も簡単に申込みができるのではないか。そのサービスをどの企業でも利用できるようにしたい」と考えて、起業することにしました。

 

――大学生の時に既に事業を始めていらっしゃるのですね。小島さんの「note」を拝見しましたが、外交官になろうと考えた時期もおありになったのですか?

中学生の時に両親の仕事の都合もあり海外で暮らしていたのですが、当時でもまだ、「日本では日常的に着物を着ている」とか、「毎日、寿司を食べているのか」と思われていた節があり、現代の日本をPRできていないのではないかと感じました。中学生なりにいろいろ考え、「外交官になればいまの日本をPRできるのではないか」と考えました。

その後、大学時代に、Facebook(現:メタ・プラットフォームズ[META])の創業者であるマーク・ザッカーバーグが、自社のカルチャーを発信している様子を見て、「こういうかたちで国境を越えて文化を発信するやり方があるんだ」と思い、20代でも世界を変えることはできるという思いから、消費者向けサービスやアプリを企画開発する会社を立ち上げました。

「勝手に顧客を捕まえるチャットボット」を開発、提供

――現在の会社(クラフター)について教えてください。

クラフターで提供しているサービスは2つあり、1つは顧客対応を自動化するチャットボットによる顧客獲得支援サービス「CraftChat(クラフトチャット)」。もう1つは、ChatGPTをビジネスで安全に活用する業務効率化ツール「Crew」です。

「CraftChat」は、InstagramやMessenger、LINE、Webサイトなどで作動するチャットボットに顧客を誘導し、顧客対応を自動化する「勝手に顧客を捕まえるチャットボット」です。

「Crew」は、自治体や企業が職場で利用する書類や社内規定などをアップロードしておき、質問するとAIが書類を読み込んで必要な内容を簡単に要約して回答してくれるツールです。多くの書類やファイルが混在していると、全職員がその内容をすべて把握することは難しいでしょう。ですが、Crewを活用することで、新人の職員からベテランの職員まで均質なナレッジを、膨大な書類に目を通す負担なく得ることができます。

 
――CrewはChatGPTなど生成AIを利用したツールということでしょうか?

そうです。ただし、ChatGPTなどの生成AIを活用する際、登録している従業員の管理や外部への情報漏洩などのセキュリティ対策に課題があるとされます。Crewでは、個人情報などのセンシティブ情報を検知して非表示にすることや、登録している従業員の権限を設定すること、ログ監視などの機能によって、ビジネスでもChatGPTを安全に使えるような環境を提供しています。また、フィルタリングするNGワードを追加することによって、その企業独自の秘密情報を追加することもできます。

2022年後半からVCの資金調達が減少

――小島さんは2回の起業を経験され、資金調達についてのご苦労もおありかと思いますが、近年のVC(ベンチャーキャピタル)の資金調達の状況について教えていただけますか?

アメリカでは2022年Q1では18社しかIPOせず、過去6年内で最もゆっくりとしたIPOマーケットと言われました。2022年秋には、メタ・プラットフォームズが人員削減を発表していますし、2023年に入ってからもアルファベット[GOOGL]などが人員削減を行っています。パブリックマーケットの影響を受けて、2022年の後半あたりからプライベートマーケットではVCの資金調達が減少し、2022年10-12月期は資金調達額が2018年ぶりの低水準になりました。プライベートマーケット環境がVCからの資金調達にも影響を与えているようです。

注目企業であるオンライン決済・決済代行プラットフォーム「Stripe(ストライプ)」オンラインのグラフィックデザインツール「Canva(キャンバ)」のようなユニコーン(企業評価額が10億ドル以上で、設立10年以内の非上場企業)も、マーケット環境が良くなるのを待って上場しようと考えているようです。

また、生成AIに関連するスタートアップについては資金調達が順調です。2022年は過去最高の資金額が流入しています(図表1参照)。それも、独自の差別化ポイントがあって自分たちで開発できる生成AIが資金を集めています。

【図表1】Generative AIの市場
出所:株式会社クラフター作成

――VCの資金調達は減っているものの、AIに関連するスタートアップは資金調達できているのですね。小島さんが注目しているAIサービスや企業があれば教えてください。

私は、開発者を支援するサービスに興味があり、注目しています。例えば、ChatGPTの開発元であるOpenAIが提供するAPIの競合品を開発するスタートアップ企業のHugging Face(ハギング・フェイス)は、そのひとつです。Amazon[AMZN]の(AWS)と連携している開発者向けのプラットフォームが知られています(図表2参照)。

AIネイティブSaaSアプリも非常に注目を集めています。企業でいうと、マーケティングのテキストをAIが自動生成する高性能ライティングツールを提供するJasperという企業などが該当します。

【図表2】AIサービスマップ

出所:株式会社クラフター作成

――このなかから、遠からずIPOする企業も出てきそうですね。

AI関連のIPOはまだ先だと思います。スタートアップの分け方には「成長フェーズ」と「投資ラウンド」があり、成長フェーズは「シード期、アーリー期、ミドル期、レイター期」に分かれ、投資ラウンドは主に「シードラウンドと、シリーズA~E」(メディアなどで分け方が異なる場合もある)などがあります。

いま、注目されているAIサービスは、基本的にはシードラウンドとシリーズA。起業段階から徐々に拡大している段階に入っているものがほとんどです。ただ、爆発的に人気が出ていますし、消費者も集めやすくなっているので、資金調達をしやすいタイミングだと言えるのではないでしょうか。

「推し活」で始めた米国株投資

――話は変わりますが、小島さんご自身の投資やお金との向き合い方について教えてください。

以前から一般NISAのほか課税口座での資産運用を行っています。個別株への投資もしていますが、こちらは米国株が中心です。米国にTechCrunchというスタートアップとテクノロジーに関するオンラインのメディアがあるのですが、「面白いサービスを提供している会社だな」と創業期から注目している会社が、いざ上場するとなると「あの会社がついに!」というような感じでとても嬉しい。私にとっての「推し活」とでも言いましょうか。このような気持ちで投資することも多いですね。資産構成は、6割が米国株、3割が日本、残りが債券やREITです。

 
資産運用とは別に、個人でエンジェル投資もしています。例えば、ドリームフレンドという、ChatGPTとLINEで好きなAIキャラクターを作成、育成して会話ができるアプリを提供している会社もそのひとつです。エンジェル投資は、女性起業家を中心にしています。私自身が資金調達で苦労しましたし、スタートアップ業界はまだまだ男性中心の社会だと感じる部分もあります。だからこそ、女性起業家をサポートしていきたいと思っています。また、投資ではありませんが、国内外の女性支援、教育支援などを行う団体への寄附もしています。

女性起業家や女性のAI技術者を支援したい

――小島さんご自身のキャリアとの向き合い方について教えてください。

常に多くの選択肢を持てる状態をつくれるようにしています。何かを始める際に、自分の能力や周囲の環境で諦めずに済む状況にしていたいと考えています。

――今後は、どのようなことをやっていきたいですか?

情報関連やAI関連の技術は日々進化し、どんどん新しい技術が出てきています。ただ、難しく、複雑なものも多い。それを一般消費者や企業、自治体などが簡単に使えるものとして提供して行きたいと思っています。

先ほどお話したことにも関連しますが、女性起業家のサポートも続けていきたいですね。例えば、AI関連の技術者などが参加するAIコミュニティがあるのですが、こちらの女性率を増やしたいと考えています。企業のDXやAIの活用部署には、女性の担当者もいるのですが、AIコミュニティの理事や参加者は男性が中心で、女性が他社のAI担当者と交流し、情報共有する機会がないという課題があります。新しい技術やサービスの作り手も男性が占めることが多い。

クラフターは、生成AI活用普及協会に加入していますが、かつては理事もほとんどが男性でした。ようやく女性の比率を25%(2023年8月9日時点)まで引き上げることができましたが、まだ半数には達していません。

前述の通り、企業などのAI活用部署には女性の担当者もいるのですが、表に出てくることが少ない。女性がAIを学んで自身のキャリア形成にもっと活かして欲しいとも思っています。そのためにも、女性の技術者たちをつなぐ橋渡しの役割をしていきたい。女性のAIコミュニティと生成AI活用普及協会の両輪で、その活動をしていきたいと考えています。

 
――最後に、次世代の方へのメッセージをお願いします。

ここまでAIの話をしてきましたが、AIを活用することで商談が効率的に進んだとしても、最終的に意志決定するのは人間です。また、日常生活でAIが必要な場面は限られます。例えば、ご飯を食べる時にはAIは必要ありませんし、人と人との会話でAIがお手伝いをしてくれる場面もあまりないでしょう。自分たちを取り巻く環境を良くしていくのも人間だと思います。そう考えると、やはり人とのご縁は非常に大切です。学校や職場など、身近なところから、いまあるご縁も大切にして欲しいと思います。また、感度高く様々なことに興味・関心をもっていただき、失敗を恐れずに挑戦していって欲しいです。

写真:竹井 俊晴