マイクロソフトは第3四半期増収増益、AI分野への投資を継続
マイクロソフト(MSFT)が4月25日に発表した2023年1-3月期(第3四半期)の決算は、売上高が前年同期比7.1%増の528億ドル、純利益は9%増の182億ドルと、いずれも市場予想を上回る着地となった。
ただし、企業のIT(情報技術)投資の手控えによって主力のクラウドサービス事業の鈍化が続いており、クラウド基盤「Azure」などの売上高は前年同期比27%増にとどまった。また米ドル高の影響も少なからず続いており、全体の売上高の伸び率は2四半期連続で10%を下回った。
決算会見においてサティア・ナデラCEOは、マイクロソフトが出資する米新興企業オープンAIの対話型AIサービス「ChatGPT」と連携するなどしたAI関連サービスに対する自信を次のように表明し、この分野への投資を継続することを強調した。
「世界で最も先進的なAIモデルが、世界で最も普遍的なユーザーインターフェースである自然言語と一緒になって、コンピューティングの新時代を作り出そうとしている」
「マイクロソフトクラウド全体で、お客様がデジタル支出から最大の価値を引き出し、この次世代のAIのためにイノベーションを起こすためのプラットフォームとして選ばれている」
マイクロソフト、潤沢なキャッシュで収益構造の転換を図る
4月24日付の日本経済新聞に掲載された米CBインサイツの記事『GPT革命に乗るMicrosoft 検索に続くAI活用3分野』によると、マイクロソフトは生成AI が今後数十年間、自社の競争力を優位にすると考えているため、オープンAIの最大の出資者の1つになる一方で、大量のリソースを消費するオープンAIの業務に必要なコンピューティングインフラも提供しているという。
既にBingやソフトウェア開発支援ツール「GitHub」、クラウド基盤「Azure」といった自社の様々な製品にオープンAIの技術を搭載している他、コンピューティング、マッピング、ゲームなど、いくつかの生成AIスタートアップにも投資しており、これらの投資がもたらす生成AIの生態系はマイクロソフトにとってカンフル剤になる可能性があると指摘している。
2022年度末時点の手元キャッシュは減少しているものの、日本円で13兆円を超え潤沢だ。マイクロソフトはこれまでにも多数の事業買収を重ね、成長、拡大してきた。オープンAIへの巨額投資は、マイクロソフトが従来のOSやオフィスアプリがメインだった収益構造を、AIおよびクラウドサービス中心のものへとシフトさせていくという姿勢を表したものであろう。
一方、急速に進化するAIに対しては不安を感じている人々もいる。イタリア当局は3月末、ChatGPTへのアクセスを一時停止し、膨大なデータ収集が個人情報保護法に違反する可能性があるとして調査を開始したと発表した。欧米諸国でChatGPTの使用を禁止するのはイタリアが初めではあるが、この流れが加速する可能性はゼロではない。
4月26日付の日本経済新聞の記事『規律あるAI開発は幻か Microsoft「道外れず」の本気度』によると、米マイクロソフトのブラッド・スミス社長が2023年のテクノロジー産業が掲げるべきスローガンとして「ゴーファー・アンド・ステイオンザロード(遠くへ進もう。道を踏み外さずに)」と述べたとしている。テクノロジーの暴走を防ぐ「ガードレール」を築いてこそAI社会は遠くまで行ける、そうした考え方がこのスローガンには込められているという。
莫大な資源を要するAI、持続的な開発は米大手IT企業に限られるか
AIが注目されるのは今回が初めてではない。1月31日付のMITテクノロジーレビューの記事『GAFAレイオフでも「AI冬の時代」が再来しない理由』によると、1950年代に1つの分野として確立されて以来、AI研究は流行と衰退の激しい波を繰り返してきた。景気後退によってAI研究の資金源が閉ざされた「AIの冬の時代」と呼ばれた時代はこれまでに2度あった。1970年代と、1980年代後半から1990年代前半だ。
しかし、今回はまったく異なることが起きていると論じている。テック企業の経営が厳しくなっている中でもAI研究は依然として活発で大きく前進している。また、当時は、コンピューターがソフトウェアを動かすのに十分な性能を持っていなかったが、今では、大量のデータと非常に強力なコンピューターによって、この技術を実行することができるとしている。それを実現させているのは半導体の計算能力の飛躍的な向上だ。
4月19日付のロイターの記事は、テクノロジー情報サイトのジ・インフォメーションが関係者の話として、マイクロソフトがAIに使われる独自の専用チップ「Athena」を開発していると報じたことを紹介している。同記事によると、マイクロソフトは2019年からこのチップの開発に取り組んでおり、マイクロソフトおよびChatGPTを開発する新興企業オープンAIの少数の従業員によってテストされているという。
現段階では、AI用チップの主要なサプライヤーとしてはエヌビディア(NVDA)が先行しており、AIに取り組む企業はエヌビディア製のGPUを買い取ろうと躍起になっている。調査会社トレンドフォースの調べによると、オープンAIがChatGPTを商用化するために必要とするエヌビディア製のGPUは3万個以上になると指摘されている。
また、AIは電力や水といった資源を大量に浪費する。これらを少しでも低減させるためにも専用のチップ開発は急務となっている。4月18日付のギズモードの記事『AIと水資源:ChatGPTの冷却に必要な水の量は原子炉レベル?』によると、GPT-3のトレーニングに必要な水の量は、原子炉の冷却水タンクを満たせる量とほぼ同等だったようである。
オープンAIのChatGPTやGoogleのBardなど、大規模言語モデルはエネルギー消費量が莫大で、パワフルなプログラムのトレーニングには、十分なデータを提供する大規模なサーバーファームが必要となる。そしてそれを行うデータセンターには強力な冷却装置が必要となる。
米カリフォルニア大学リバーサイド校とテキサス大学アーリントン校の研究チームが、AIによる水資源消費について調査したレポートによると、GPT-3(最新版はGPT-4)をトレーニングするのに必要だった冷却水の量は、70万リットルにも上ったという。これはどの程度の消費量なのか。例えば、ChatGPT(GPT-3)を1人のユーザーが使うとして、25から50個の基本的な質問のやりとりを行うのに、500ミリリットルの水を使っている計算になるのだという。
莫大に消費されている資源は水だけではない。大規模言語モデルは、そもそも大量の電力を消費する。GPT-3のトレーニング全体にかかった電力は、平均的な米国一般家庭の数百年分だったとの計算もあるという。資源の大量消費に関しては、今後、各社による対応が必要となる。
結果、これだけの開発に向けた体力と資力を捻出できるのは米大手IT企業に限られることになる。2月10日付のウォール・ストリート・ジャーナルの記事『巨大ITの市場支配は続く 成長鈍化でもAIあり』は、米国の巨大IT企業について、「AIがいかなるインパクトを与えるかを、われわれはまだ正確に予測できる段階にはない。だが恐らくこれだけは言える。AIによって巨大IT企業はビッグであり続けるだろう」と、ビックテックの優位性を指摘している。
新たな分野に莫大な研究開発資金を投入することができるということ、ビジネスに半導体の計算能力の飛躍的な向上を最大限活用することができること、この2つを掛け合わしたビジネスを展開しているのは米ハイテク大手だ。指数関数的に成長する半導体の進化は先行者をさらに強者にすることになると思われる。