モトリーフール米国本社、2023年11月5日 投稿記事より

主なポイント

・ホワイトハウスは10月30日、AIの開発を規制する初の大統領令を発表した
・大統領令には包括的な指令が盛り込まれ、8つの重点項目に分類される
・このうち2つの重点項目は、主力AI企業であるアマゾン・ドットコム[AMZN]、マイクロソフト[MSFT]、アルファベット[GOOGL]に影響を及ぼす可能性がある

バイデン政権は、AI開発の規制に向けた具体的な一歩を踏み出した

ホワイトハウスは10月30日、人工知能(AI)の開発の規制につながる初の大統領令を発表しました。大統領令は、以下の8つの項目で構成されます。

1.AIをめぐる安全性とセキュリティに関する新基準
2.米国民のプライバシー保護
3.公平性と公民権の推進
4.消費者、患者、学生の権利保護
5.労働者の支援
6.イノベーションと競争の促進
7.海外における米国のリーダーシップの促進
8.政府による責任ある効果的なAI利用の保証

この大統領令は多くの分野をカバーしていますが、最終的な目的は、国家存亡の脅威や情報漏洩を防ぎ、消費者と労働者の権利を守ることで、AIモデルが一般に公開される前に、その安全性を確保することを目的としています。

大統領令発表に先立ち、バイデン大統領は数ヶ月にわたり世界各国のリーダー、専門家、業界のリーダーらとAIについて議論を重ね、AI技術について自ら試してきました。また、今回の大統領令は、ホワイトハウスがこれまでにAI開発者向けに発表したガイダンスや、米国の大手ハイテク企業数社が自社のモデルを安全に展開することにコミットした自主的な公約をベースとしています。

以下では、大統領令の8つの項目のうち最初の2つが、アマゾン・ドットコム[AMZN]、マイクロソフト[MSFT]、アルファベット[GOOGL]というAIのリーダー企業らに及ぼすと思われる直接的影響について検討します。

AI業界のリーダーたちは、AIに莫大な投資をしている

アマゾン・ドットコム、マイクロソフト、アルファベットは、企業向けにクラウドコンピューティング・サービスを提供する上位3社です。クラウドは、企業が貴重なデータを保存したり、販売チャネルとなる自社ウェブサイトのサーバープラットフォームとして利用できたりします。また、グローバルに展開する企業がオンライン上で業務できるように環境構築を行うこともできます。AIの開発、訓練、展開は膨大なデータに依存するため、AIもクラウド上に存在します。

上記のハイテク大手3社はいずれも、物理的なデータセンターのインフラに莫大な投資をしてきました。エヌビディア[NVDA]から高性能のAI半導体を購入し、独自のハードウェアを自社で設計することで、互いに優位に立とうとしのぎを削っています。しかし、半導体チップは重要ですが、構成要素の1つにすぎません。

企業はまた、自社のAI開発を促進するために、基盤となるAIモデルを求めており、それを提供できるのはクラウドプロバイダーに他なりません。

マイクロソフトは2023年初め、ChatGPTを開発したオープンAIに100億ドルを投資すると発表しました。最新のGPT-4モデルは、同社のクラウドサービスであるMicrosoft Azureの顧客が利用できます。アマゾン・ドットコムは、スタートアップ企業のアンスロピックに40億ドルを投資し、アンスロピックが開発するAIモデルはアマゾン・ドットコムのクラウドサービスAmazon Web Service(AWS)を通じて利用できるようになる予定です。アルファベットは2023年第3四半期に、グーグル・クラウドの顧客が利用できる100種類を超えるモデルを用意したことを明らかにしました。

今後、クラウドプロバイダーは顧客のニーズに対応し続けるため、サードパーティーやスタートアップ企業、あるいは社内チームによる、モデルの継続的な開発が不可欠になると思われます。

安全性とデータプライバシーに関する規則がAI開発を遅らせる可能性がある

AIをめぐる安全性とセキュリティに関する新基準を策定し、米国民のプライバシーを保護するというホワイトハウスの目標は、国民の耳に心地良く響くはずです。結局のところ、AI業界の有識者の間では、AI技術が進歩する速さと、歯止めの利かない開発の危険性を懸念する声が聞かれています。

テスラ[TSLA]のイーロン・マスクCEOは2023年初め、高性能AIモデルの開発を6ヶ月間中断し、各国政府に規制を導入する時間的猶予を与えるよう呼びかける取り組みを主導しました。同氏の呼びかけに対して、業界の専門家や学識経験者から3万3,000人を超える署名が集まりましたが、最終的には期待したような結果を得ることはできませんでした。

これまで、AI開発者は自らが定めるもの以外の規制が一切ないまま、新しいモデルをユーザーに提供することができました。しかし、今回の大統領令により、この状況は少なくともある程度は、変わるはずです。

大統領令は、米国国立標準技術研究所(NIST)が厳格なテスト体制を整備し、国土安全保障省がそれを適用することを求めています。国家安全保障、経済、あるいは国民の健康と安全を脅かすとみなされるAIモデルは、一般に公開される前に、これらのテストをクリアしなければなりません。

しかし実際には、業界をリードするモデルの大半は、これらのカテゴリーのいずれかに分類される可能性があります。前述の通り、オープンAIのGPT-4は、Microsoft Azureを通じて数十の業界、1万8,000社を超える企業が利用しています。つまり、経済のさまざまなセグメントに間違いなく影響を及ぼしているため、今後のモデル(いずれリリースされるであろうGPT-5など)は、大統領令が原因でリリースが大幅に遅れる恐れがあります。

さらに、AIモデルの性能は、訓練したデータに左右されます。政府は、消費者の個人データが守られることを望んでいますが、モデル間で精度を競い合い、取り込んだ情報の新しさで勝敗が決まる可能性があることを考えると、それは必ずしも簡単(または現実的)なことではありません。

大統領令は主に、政府が独自のモデルのために、どのようにデータを入手するかに焦点を当てており、国民を保護するための包括的な法案の可決を議会に求めています。開発者が利用できるデータの種類について制限されるようなことになれば、最終的にAIモデル自体に影響が及ぶと思われます。

ハイテク大手3社の株は、変わらず注目の価値があ

大統領令は、あるAIモデルが政府のテストに合格する一方で、競合する別のAIモデルは合格しないかもしれないというリスクをはらんでいます。合格しないAIモデルに過度に依存している場合、そのクラウドプロバイダーの収益が一時的に落ち込む可能性があります。

とはいえ、基本的なルールが平等に適用される限り、開発全般に遅れが生じたとしても、クラウドやAIにおけるアマゾン・ドットコム、マイクロソフト、アルファベットの市場シェアが低下することはないでしょう。長期的に見れば、これらの企業が受ける影響は同程度と予想されます。

そのため、ハイテク大手3社の株式を保有することは、AIのエクスポージャーを得るための最良の方法の1つであり続けると考えられ、大統領令は3社への投資を回避する理由にはならないでしょう。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。アルファベットの幹部であるSuzanne Freyは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。アマゾン・ドットコムの子会社であるホールフーズ・マーケット元CEOのJohn Mackeyは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。元記事の筆者Anthony Di Pizioは、記載されているどの企業の株式も保有していません。モトリーフール米国本社はアルファベット、アマゾン・ドットコム、マイクロソフト、エヌビディア、テスラの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。