◆先週末の土曜日は「マネックスカップ」、会社のゴルフコンペだった。台風18号の接近に伴い、翌日の日曜日は終日雨で、週明け月曜日は大荒れの天候となっているが、幸運なことに土曜日までは天気がもった。天気は大丈夫だったが、肝心のスコアのほうはOB連発で「大荒れ」となってしまった。次回春の「マネックスカップ」に雪辱を誓ったのだった。

◆それでもゴルフコンペは楽しい。秋の爽やかな空気のなか、気の置けない仲間とプレーしたあと表彰式&パーティーでまた盛り上がる。参加者全員で競い合えるのはハンディキャップのおかげだ。俗にいう「ハンデ」は上手なひとほど少なく、下手なひとには多く与えられる。グロス(もとのスコア)から、ハンデを引いたネットのスコアで順位を決めるから、うまくないひとも「自分なりに」頑張れば優勝だってできるのだ。だから表彰式のあとに行われるハンディキャップ委員会は侃侃諤諤。次回のハンデを決めるのだが、もっと減らせ、いや今回はたまたまだからこのままで、などと - 冗談が飛び交う楽しいイベントだ。

◆債券は額面とクーポン(表面利率)と満期が決められている。クーポンが5%の1年債なら、100で発行されたものが1年後に105で償還される。利回りは年率5%ということになる。もしも、市場というものがなかったら、クーポン5%の1年債の利回りは、発行体にかかわらずすべて5%となる。債券というのは借金の借用証書だから、そこに書かれている返済条件を守ることができるか、発行体の信用力が重要になる。ちゃんと約束通りに返済されるか不安な先には誰もカネを貸そうとは思わない。信用力の高い国(企業)の債券利回りが5%、信用力の低い国(企業)の債券も同じ5%なら、みんな信用力の高い債券を求めようとするだろう。

◆これを調整するのが市場の役割だ。市場が信用力を評価して債券に価格をつける。低い価格なら利回りは高くなる。信用力に不安はあるけど、リスクに見合うだけの利回りが期待できるなら取引は成立する。言ってみれば「市場」というものは「ハンディキャプ委員会」のようなものだ。信用力の高低でハンデ(利回り)を調整して、誰もがゴルフコンペに参加できるのと同様、どんな債券も市場取引に参加することを可能にしている。

◆日本の国債市場で短期債の利回りがマイナスとなっている。これはその債券を買って満期まで保有すると投資額が戻らない - つまり損をするような利回りとなっていることを意味する。市場が信用力に応じてハンデをつけるといったが、その価格調整機能が歪んでいる。日銀による国債購入のせいである。債券の利回りを決めるのは信用力に加えて、もうひとつ、流動性である。日本の短期国債の場合、市場の流動性が歪められている結果、おかしなことが起きているのである。

◆ゴルフの正式なハンデはパー72を基準に決められるが、マネックスのコンペでは80台半ばを基準にしている。一番、上手なひとのハンデはこれまで0だった。先日のコンペのあとのハンデ委員会ではそのひとのハンデをマイナスにしよう(正式にはプラスハンデという)という意見が出た。「冗談じゃない!そんなの聞いたことがないよ、ハンデはゼロ以下はないだろう?」と抵抗する彼。全員が異口同音に言った。「債券の利回りだってマイナスになる。それが『市場原理』だよ」。実力に応じたマイナスのハンデなら、日本国債のマイナス金利よりずっと公正な値だろう。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆