私は仕事柄、海外の株式の運用を行なっているファンドマネージャーと呼ばれる職種の方々とお会いする機会が数多くあります。彼らの投資哲学や、投資手法などプロの投資家という視点だけでなく、私が好奇心旺盛ということもあり彼らがどういう人なのかから始まり、質問し始めると会話が止まらなくなります。

そんなやりとりの中で彼らの会社の歴史も含めて、彼らの本社がなぜその街にあるのかについても聞いてみることがあります。そこで最近改めて気づいたのが、一流の運用会社の運用拠点が必ずしも金融の中心地と言われる大都市にある訳ではないということです。 

ニューヨークやロンドンと言った金融の中心地の方が、様々な投資に役立つ情報が入手しやすいといった先入観があります。その方が、運用の成果も高くなると思われがちです。

ところが、実はそうでもないという典型的な例が、投資の天才と呼ばれているウォーレン・バフェットでしょう。地理的にも比喩的にも、アメリカの真ん中にぽつんと位置し、ウォール街から2000km離れた地方都市オマハから投資の判断を行っています。バフェットが言うには、むしろ騒がしいニューヨークから離れているオマハの街の静けさのお陰で、「座り、考える」ことができたと言います。短期的な動きに煩わされず、大切な視点を失うことなく、より良い投資の判断ができていると語っています。

先月お会いした英国の老舗の運用会社のファンドマネージャーも、ロンドンのシティの中心地ではなく、ロンドン郊外の電車で1時間程度の小さな街に会社があると教えてくれました。通勤ラッシュもなく、自然があり、生活環境もよく、不必要なストレスもなく、頭がスッキリした状態で運用ができるのだと語っていました。

また、年初に訪れたバリュー投資で有名な運用会社は、ニューヨークマンハッタンのグランドセントラル駅から1時間ほど電車に乗った駅から車で5分くらいの郊外の静かなところにオフィスがありました。周りには緑も多く、常に人で溢れているマンハッタンの独特のストレスの世界からは程遠い理想的な環境です。多くのスタッフも会社の近くに住んでいるのでマンハッタンへ向かう通勤ラッシュも経験しません。マンハッタンで働いていると投資に不必要な情報のノイズが入りやすく、本質的なものが見えにくくなると言うのです。

確かに投資の世界には企業のファンダメンタルズには影響はしないものの、メディアで報道され気になってしまう「ノイズ」は沢山あるのです。

私も株式関連の仕事は東京の自宅の部屋に閉じこもって考え、執筆するのですが、彼らの話を聞いていると、むしろ人口の少ない緑で囲まれたような地方で仕事をした方が、ノイズがカットされた頭はクリアでより良いアイデアが出るのだろうなと思っています。

日本でもリモートで地方にて仕事をすることを認めている会社も出始めているようですが、私も周りに人がいない地方の山奥での勤務を会社へ申請してみようかなと考えを巡らせています。(終わり)