北米を中心に、中国でもトップシェアを獲得

AOスミス[AOS]は、住宅用および業務用の給湯器、ボイラー、水処理製品(浄水器)を製造、販売する大手メーカーです。全米最大の給湯器メーカーで、住宅用で約35%、業務用では約50%のトップシェアを誇ります。営業拠点は北米が中心ですが、海外展開もしており、世界60ヶ国以上で商品を販売しています。中でも中国ではブランド認知度が高く、給湯器だけでなく、浄水器でもトップシェアを獲得しています。

展開する事業セグメントは地域で分けられており、「北米」セグメントと、中国を中心とする「その他地域」セグメントの2つで構成されています。主力は北米セグメントで売上の7割を稼ぎ出しています。

北米でのビジネスは、既存設備のリプレイメンスメントが中心で、製品需要の8割を占めています。この市場で同社は1936年に住居用給湯器の特許を取って以来、構築してきた販売チャネルがアドバンテージとなっているようです。成熟市場で確固たるポジションを確立しており、そこから安定した収益を得ることで長きにわたる成長を遂げてきたと言えるでしょう。

成長ポテンシャルが高い水処理事業に参入

成熟市場で安定収益を稼ぐ一方、成長ポテンシャルとして注力しているのが水処理事業です。同社は浄水器をはじめとする水処理事業のポテンシャルに着目し、2009年と2010年に事業構造を変えるようなM&Aを行いました。

具体的には、モーター事業を売却し、水処理事業会社を買収しました。買収したのは住宅や中小企業向けの浄水システムを製造するTianlong Holding(現在はAOスミス(Shanghai)Water Treatment Productsの名前で展開)。この買収によって、同社は本格的に水処理事業に参入を果たしました。

その後も2016年に水処理会社のAquasana(旧社名:Sun Water Systems)、2017年にHague、2019年にWater-Rightを買収するなど事業強化を継続しています。中国で水処理事業を開始した2010年から2020年までの10年間、売上規模はCAGR37%で拡大を続け、2000万ドル→4億5900万ドルに拡大しています。

また、2021年7月にもマスターウォーターコンディショニングコーポレーションを買収しており、今後、北米での水処理事業が拡大する見込みとなりました。買収により、2021年通年で北米の水処理事業売上は13%~14%の成長が予想されています。

派手さはないが成熟市場でトップポジションを確立

飲料水需要の拡大とペットボトルの削減というメガトレンドを背景に水処理市場は成長しています。水処理事業のアドレス可能な市場規模は26億ドルと推定されており、現在の売上規模(4億5900万ドル)から見ると成長余地は大きく残されていると言えます。

給湯器・ボイラー・浄水器の市場は「これから急拡大するぞ」、という派手さはありません。ただ、成熟市場だからこその良さもあります。これらの市場は新規参入がほとんどない成熟市場であり、さらに定期的に交換需要が発生するストックビジネス色の濃い事業分野です。同社はこの市場でNo.1ポジションを築き、何十年にもわたって着実に成長してきました。

過去10年間の業績推移は堅調です。成熟市場でトップポジションを確立しており、定期的に発生する交換需要を獲得することができるため、収益は安定的(同社によると、給湯器およびボイラー需要の85%が交換需要だと言います。そのようなことから、ストックビジネスといっても言い過ぎではないと思います)。安定した収益基盤と健全な財務基盤は株主還元の源泉となっています。

【図表1】AOスミス年間配当推移(1991年~2023年、2023年は予想値(直近四半期実績を通期換算))
出所:Bloombergより筆者作成
【図表2】1983年10月7日を1としたAOSとS&P500の株価推移比較
出所:Bloombergより筆者作成