アーク・インベストメント・マネジメントの創業者キャシー・ウッド氏が12月19日に来日された際、インタビューを行ないました。ウッド氏は、「女性版ウォーレン・バフェット」とも称され、業界で最も注目される女性のひとりです。ウッド氏に、2023年の相場展望やテスラ、ズームなどイノベーション関連銘柄の見通しなどをお聞きしました。
※本記事は2022年12月19日に実施したインタビューを後日、編集・記事化したものです。
同インタビューの特別編集版は2023年1月26日開催の「ハッチの米国株マーケットセミナー」で放送しました。
FRBの金融政策が緩和に向かえばイノベーション戦略は実を結ぶ
岡元:前回、オンラインでインタビューさせていただいてから2ヶ月が経ちましたが、現在のマーケットの状況をどのように見てらっしゃいますか。
ウッド氏:ここ数ヶ月間、FRB(米連邦準備制度理事会)は引き続き深刻なインフレの問題を抱えているかのような対応をとってきました。インフレ率は低下していますが、FRBは確実にインフレが続かないようにしたいのだと思います。そのため、政策金利を4.5%まで引き上げました。1年足らずで18倍もの金利上昇です。この金融政策は功を奏すでしょう。実際、インフレ率を2%以上下げる効果があるでしょう。インフレ率が2%を下回り、マイナスになる可能性も考えられます。
今後1年間、FRBは急落しているコモディティ価格に対応することにもなるでしょう。消費者レベルでは、在庫が多すぎるために価格がディスカウントされています。もう1つのデフレ要因はイノベーションです。イノベーションは価格の低下と関連しています。サプライチェーンの問題が解消してきているので、電気自動車(EV)のような革新的な製品の価格は下がり始めると思います。FRBの金融政策が緩和に向かえば、イノベーション戦略は大きく実を結ぶと考えています。
岡元:米国債10年利回りは(2022年)10月の高値からだいぶ下がってきましたが、イノベーション関連銘柄は金利の低下にポジティブに反応していないようです。これらの銘柄を上昇させるカタリスト(相場を動かすきっかけとなる材料やイベント)は何だと思いますか。
ウッド氏:米国債10年利回りが4.25%から3.5%に低下したことには驚かされました。また、原油価格がほぼ半値になったのに、市場が反応しないことに驚いています。このことは、FRBが行なっていることが流動性の問題と恐怖を引き起こしていることを物語っています。FRBが発信している言葉の表現を変え、「よし、私たちはもうここまで来た」と言うのを市場は待っていると思います。なぜなら、FRBはこれまで非常に厳しい対応をとっており、多くの人はここまでやるとは思っていなかったからです。市場は、FRBが実際に何か違うことを言い、金利が下がることを冷めた目で待ち続けているのではないでしょうか。
景気後退局面においてもテスラのシェア拡大に期待
岡元:テスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOをめぐる最近の報道やテスラの株価動向を、どのように見ていますか。同社の競争環境やロボタクシーの展開についての考えもお聞かせください。
ウッド氏:テスラの株価はここ数年間で劇的に上昇してきただけに、大きな打撃を受けています。マスク氏のツイッター買収によってテスラを心配する声も聞かれますが、私は彼がツイッターのCEOに長く留まらないと考えています。彼はツイッターを経営する新たな人材を迎え入れたいのだと思います。彼が今やりたいことは、ただの悪者になることです。彼は従業員の75%を解雇しましたよね。つまり、彼は変化を求めていて、それを早く実現したいのです。新しいリーダーを迎えたら、彼が日常的にツイッターにいることはなくなるだろうと見ています。
スペースX、ザ・ボーリング・カンパニー、ニューラリンク、そして現在のテスラのように、マスク氏は、それぞれの銘柄の参入障壁に焦点を当てているのです。その点では、テスラは何も変わっていません。私たちは同社の製造に注視しており、同社が近々、メキシコに新工場を立ち上げることを発表すると考えています。そして、その工場を1年以内に稼動させるでしょう。同社は、どの自動車メーカーよりも早くEVの事業規模を拡大しようとしています。同社はそのためのノウハウを既に持っているので、マスク氏がそこにいる必要はありません。EVの生産規模を拡大するための適切な人材が揃っているからです。
テスラでマスク氏が焦点を当てているのはロボタクシーです。私たちは2024年末までに同社がロボタクシーをリリースすると考えています。彼は2023年に出すことを考えているようです。彼は、早くに実現できるよう皆のモチベーションを高めているのです。
否定的な意見も飛び交っていますが、私たちはテスラを生産規模で見ています。2年以内に同社のロボタクシーも誕生すると考えています。競争相手が既に存在していることも分かっています。しかし、競合他社のバッテリー技術を見てみると、テスラは他社の3年先を行っています。ですから、もし競合他社がテスラと同じ航続距離と性能を同じ価格で提供しようとすれば、赤字にならざるを得ないと思います。もし競合他社がプレミアム価格を設定すれば、自社のブランドに依存せざるを得ないでしょう。この場合、消費者は最高の性能と最高の航続距離を持つ車でなく、ブランド力を求めることになるのです。
もう1つ考慮すべきことは、世界的な景気後退の局面では、景気循環型の商品に打撃が及びます。自動車は景気循環型です。しかし私たちは、景気後退期にこそイノベーションがシェアを拡大し、市場を牽引すると信じています。テスラのEVは、ガソリン車よりも相対的にシェアを拡大すると考えています。自動車全体の需要自体は少し弱いかもしれません。しかし、同社はそのような環境下でもシェアを拡大できると考えています。
ズーム、株価上昇に向けた2つの注目ポイント
岡元:ズーム(ZM)株については、どのようにお考えでしょうか。
ウッド氏:ズームは誤解されている銘柄だと思います。コロナ禍の影響から、多くの人が同社は消費者向けサービスの企業だと考えているようです。しかし、実際に同社はもっと企業向けに進化しています。コロナ禍において同社は、消費者や教育関係者にサービスを提供しました。そして今、そのうちの一部が離れていきましたが、その代わりに費用を払ってサービスを使用する企業が顧客になっています。
では、今後何をきっかけにズーム株は上昇するでしょうか。1つは、収益成長が再加速した場合です。私たちは今後数四半期以内に収益成長が再加速し、成長率が1桁台から2桁台に戻ると予想しています。多くの人がそれを待ち望んでいます。もう1つは、セールスフォース・ドットコム(CRM)との連携です。先日、セールスフォース・ドットコムは新しいAIチャットボットを発表しました。これは、ズームが持っている営業電話中の人々の反応についての動画情報をもとにしたものです。このAIチャットボットは、営業マンの販売効率を向上させるのに役立つと思います。ズームは、企業向けサービスにおいて本当に良い仕事をしていると考えています。
ズームが企業向けビジネスでシェアを伸ばしていることが理解されれば、株価は回復し始めると思います。 EBITDAの11倍で取引されており、今や多くの人が同社を市場のバリエーションより安いと考えているのではないでしょうか。グロース株投資家が短期的に同社株を購入しなければ、バリュー投資家が買い、その後グロース投資家がついてくるだろうと私は思っています。
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