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ヘルスケアセクターの注目銘柄

岡元:ファイザー(PFE)とバイオンテック(BNTX)のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンと新薬の可能性について、ご意見をお聞かせください。2年前にインタビューした際、気に入っている銘柄としてインビテ(NVTA)を挙げていましたが、考えに変化はありますか?

ウッド氏:mRNA技術を用いてコロナワクチンが開発されました。ファイザー・バイオンテック製のコロナワクチンが最も売れ、モデルナ(MRNA)もコロナワクチンを提供しました。それらが効果的なものであったことは分かっています。しかし、問題は効果の持続性です。これらのワクチンは数ヶ月間有効ですが、その後効果が減衰します。そのため、「どれだけ頻繁に追加接種が必要なのか」という疑問があります。また、人々がそれだけ頻繁に追加接種を望むかどうかも疑問です。特に米国では、その点が疑問視されています。

最近、モデルナがmRNA技術を用いてがん治療の開発を進めました。そこでも効果の持続性が疑問視されています。私たちのアナリストはデータに目を通し、非常に注意深く分析しています。がん治療において効果の持続性は最も重要な基準の1つだからです。

インビテも私たちのポートフォリオに組み入れている銘柄です。私たちはインビテ(NVTA)、イグザクト・サイエンシズ(EXAS)、さらに非公開企業のフリーノーム(Freenome)が、シーケンスデータと人工知能を最も効果的に融合させた3大プレイヤーになると考えています。ゲノムの中で何が変異しているのか、それがどのように病気の原因になっているのか、一人一人解明するだけでなく、その人に合った治療法を選択することにも役立つと思うからです。

こういった技術が大きく役立つのが個別化治療、精密治療と呼ばれるものです。1990年代後半のハイテク・通信バブルの中で個別化医療、精密治療の夢が大きく膨らみました。その夢が今、ようやく現実のものとなりつつあります。実現によってこれら3社は恩恵を受けると思います。特にインビテは3社の中でおそらく最も積極的にこの分野に投資していました。しかし、市場が同社のキャッシュとキャッシュフローに懸念を抱くようになったことで、同社の株価は大きな打撃を受けました。

その結果、共同創業者であるショーンE・ジョージ氏はCEOを退き、後任にはアマゾンに何年もいて、ビッグデータを真に理解している人物を選びました。彼は精密治療と個別化医療における最大のアイデアに着目したのだと思います。ですから、私たちは同社がこの分野で大きな勝者になると考えています。

岡元:バイオ分野における成長株の選び方を教えてください。

ウッド氏:バイオテクノロジー分野の銘柄については、私たちのリサーチ担当が選んでいます。私たちが探しているのは、技術的に有効なイノベーター、つまり、DNA配列の解読による突然変異の把握など、科学的知識を用いてヘルスケアへの対処法を変えようとしている企業です。また、1つの技術だけでなく、複数の技術を求めています。シーケンシングは非常に重要な技術ですが、人工知能も同じくらい重要です。実際、人工知能はヘルスケア分野では他のどの分野よりも重要かもしれません。

というのも、人間は年齢を重ねるにつれて、ゲノムのどこに突然変異やプログラミング・エラーが起こるのかを初めて特定することができるようになったからです。高齢になるほど、プログラミング・エラーが増え、突然変異も多くなります。私たちのゲノムの60億ビットのコードから、それらを分離することができるようになったのです。そこで、私たちはゲノム編集だけでなく、シーケンサーと人工知能の融合に着目している企業を探しています。ですから、私たちのポートフォリオにはゲノム編集関連の銘柄がたくさんありますし、分子診断検査関連の企業も含まれています。もちろん、治療分野の企業もあります。そして言うまでもなく、ゲノム編集は単なる技術ではなく、最近では治療法として注目されています。

ポートフォリオのもう1つの大きなポジションはテラドック・ヘルス(TDOC)です。同社は、米国や他の国々で医療情報のバックボーンを構築しようとしています。同社は何百万人、何千万人という人々のゲノムデータにアクセスすることができるのです。プライバシーは保護され、すべて匿名ですが、そのデータを人工知能と組み合わせて、治療法の推奨や病気の診断に利用することができます。多くの人は、同社をコロナ禍においてのみ活躍する遠隔医療関連銘柄と考えていますが、私たちは全く違う見方をしています。同社は、個別化医療を可能にする世界で最も重要なゲノムデータベースを構築しているのです。

今後イノベーションに最も貢献するのはAI技術

岡元:10年、20年の投資視野で、TAM(獲得可能な最大市場規模)の観点から最も成長するイノベーションの領域は何だとお考えですか?

ウッド氏:私たちが毎年発行しているレポートの2022版では、世界の株式市場において、破壊的イノベーションがどのように大きな存在になるかについて、構成要素を積み上げるかたちで示しました。この2年間で、6-7兆米ドルの時価総額まで半減した破壊的イノベーションがどうなっていくかという話です。それは、現在の6-7兆米ドルが(2030年に)210兆米ドルになるという予測です。つまり、世界の株式時価総額の10%以下から60%以上になると私たちは考えているわけです。

そして、最も貢献するのはAIです。成長の半分以上はAIによるものです。2022年、私たちは今後5年から10年の間に予想されるよりも多くのAIの進化を目の当たりにしました。ですから、私たちは210兆米ドル以上に拡大すると考えています。AIのトレーニングコストは年率60%で低下しており、業界のクリエイティビティも向上しています。例えば、ユーザーは「DALL-E 2」(AI企業の「オープンAI」が提供する画像生成プログラム)を使って、世界中のあらゆるスポーツのユニフォームを着た自分を描きたいなどといった指示出すことができるようになりました。DALL-E 2はそれを数分でできますし、一見、アーティストが描いたように見えます。もしアーティストがそれをやったら、少なくとも150ドルから300ドルはかかるでしょうし、何時間もかかるでしょう。DALL-E 2なら、それを数秒、数分でやってくれて、しかも数セントでできるのです。

多くの人が、デザイナーの仕事やクリエイターの仕事はどうなるのだろうと心配しています。しかし、私たちは、コストが下がり、ベースラインができて、その上に人間の専門知識を取り入れて、より良いものを作ることができると考えています。

例えば、オープンAIが開発する自然言語処理モデル「GPT-3」のサブセットである「Chat GPT-3」を使って、「宇宙探査の歴史を書いてください」と指示すると数秒後には、歴史を綴った美しいエッセイができあがります。興味深いのは、多くの人が「これからどうなるのだろう。Chat GPTに向かって『エッセイを書いてください』と言うだけでいいなら、私たちはどうやって学生を教育すればいいのだろう」と言っていることです。そう言う方々に伝えたいのは、「インターネットには宇宙開発に関するさまざまな事実や数字が載っているから、気をつけなければならない」ということです。ネット上には間違った情報もたくさんあるからです。

また、創造的なコンテンツ、フィクション、人々の空想による宇宙開発についての話も数多くあります。このエッセイは、そういったものを組み合わせたものになっているのです。ですから事実に基づかない内容も含まれています。それに引用文献もありません。このChat GPTに宿題の作文を書かせようと思えば、学生はその内容の事実確認をしなければならないわけです。そして、おそらく最初に作文を書くよりも、事実確認により多くの時間を費やすことになるでしょうね。

AIが関連するあらゆるものが、他のイノベーション・プラットフォーム、シーケンシングやロボティクス、エネルギー貯蔵などとつながってきています。私たちはAIがブロックチェーン技術にも融合していくと考えています。したがって、AIの成長率は今後ますます高まり、加速していくでしょう。すでに30〜50%台と非常に高い成長率でしたが、さらに高くなりつつあります。このことは、私たちの戦略を批判するほとんどの人が信じていないことです。

私たちはAIの進化を追いかけています。そして、AIの進化がいつ起こるかについての見解を持っていました。5~10年で考えていたことが、半年で起こっているのです。驚くべきことです。しかし、マクロ的な背景から、リスクオフの時期にある市場は、1四半期だけを見ているのです。将来を見据えていないのです。だから、このような成長率を予想できないのです。

自社独自のデータが企業の成功の鍵となる

岡元:アップル(AAPL)、マイクロソフト(MSFT)、アルファベット(GOOGL)、メタ・プラットフォームズ(META)、テスラの時価総額を超える可能性のある成長株の候補はありますか。米国以外の国の企業からも出てくる可能性はあるのでしょうか?

ウッド氏:新たな1兆ドル規模の時価総額になる企業はどこでしょうか。その1つとしてテスラが挙げられます。テスラは一時、時価総額1兆ドルを超えましたが、今は下がってきています。テスラはロボタクシーのプラットフォーム実現において最も優位に立っており、今後8年から10年の間に、8兆から10兆ドルの収益を生み出すと私たちは考えています。そして、その利幅は非常に高くなると予想しています。

テスラは競争力において2つの優位な点があります。テスラは独自のAIチップを持っているので、世界の他の自動車会社を合わせたものより、数桁多いデータを持っています。これは大きな競争上の優位性です。私たちの組み入れトップ10のすべての銘柄が1兆米ドルの可能性を持っていると思います。その理由の1つは、データがかつての産業における石油のようなものになるということです。テスラ独自のデータです。今お話したAIプロジェクトは、すべてオープンソースです。つまり、無償で提供されていますが、それらの成功の鍵を握るのは、自社独自のデータです。彼らは、他の誰も持っていない重要なデータを大量に保有しています。

AIがもたらすビジネスチャンスは、その大部分が勝者に独占的に与えられるだろうと考えています。最も多くのデータ、AIの専門知識を持つ企業が、市場で圧倒的なシェアを獲得することになるでしょう。

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※本記事は2022年12月19日に実施したインタビューを後日、編集・記事化したものです。
同インタビューの特別編集版は2023年1月26日開催の「ハッチの米国株マーケットセミナー」で放送しました。