先週(3月3日週)の米国株市場は、年初来でみると最悪のパフォーマンスの週となりました。S&P500は3.1%下落し、ナスダック100も3.27%の下げとなりました。3月7日(金)の市場は朝方に下落していましたが、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が、2025年米国金融政策フォーラムで「高いレベルの不確実性が存在しているにもかかわらず、米国経済は依然として良好な状態にあり、労働市場は安定し、インフレ率は長期目標である2%に近づいている」とのコメントを発表。これがきっかけでマーケットは上昇に転じ、7日(金)のS&P500は0.55%上げて終わりました。
最大の懸念材料はトランプ関税の引き上げが起こす不確実性
現在世界の株式市場での最大の懸念材料は、トランプ関税の引き上げであり、予測不可能な状況が続いています。トランプ政権によって関税引き上げの期間が設定されるものの、交渉による土壇場での変更が一時的な猶予につながるだけとなっています。
先週3月3日(月)には、メキシコとカナダからの輸入品に対して25%の関税が4日(火)から発動されることが確定し、投資家心理は悪化。しかし、メキシコとカナダに対する25%の関税が発動を効した翌5日、トランプ大統領はこの課税措置を一部撤回することを発表しました。
トランプ氏は自身のSNSに、「メキシコのシェインバウム大統領と協議した結果、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の適用範囲にある製品については、メキシコに関税を課さないことに合意した」と投稿。「ただ、この合意は4月2日まで有効だ」とし、その後、ホワイトハウスはカナダに対する関税についても同様の変更を適用しました。
これまでのマーケットでは、このような関税の延期を受け株式市場は反発していました。しかし、今回は関税の引き上げが実施されると株価が寄り付きで下落し、その後関税引き上げの一部撤回後に株価は一時的に回復したものの、その後再び下落しました。関税の猶予が発表されても市場は回復することなく、再度下落したのです。
これは投資家が貿易政策に関する不確実性に疲れ始めていることを示唆しています。その不確実性を懸念しているのは市場だけではありません。FRBのパウエル議長も、「トランプ政権の政策変更が経済に与える影響を慎重に監視しており、その影響は非常に大きくなる可能性がある」と述べています。
先週発表されたFRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)には「不確実性」という言葉が45回も登場しており、この不確実性が市場に及ぼす影響は無視できません。
2月の雇用統計と今後のFRB政策
3月7日(金)に発表された2月の雇用統計では、米国経済は15万1000人の雇用を創出しました。これは市場予想の16万人をやや下回る結果となりましたが、失業率は1月の4.0%から4.1%に上昇しました。予想よりもやや弱い結果となったものの、雇用の増加ペースは安定しており、労働市場は依然として健全であることを投資家に示しています。
特に重要なのは、賃金の伸びがインフレ率とほぼ同じペースで推移しており、価格上昇圧力を加速させることなく堅調に推移している点です。賃金は前年同月比で4%増加し、前月比では0.3%の伸びを記録しました。
また、業種別に見ると、医療、金融、倉庫・運輸業での雇用は回復傾向にある一方、その他の業種では鈍化が見られました。特に、連邦政府の雇用は政府効率化省(DOGE)の人員削減の影響で減少し、レジャー・ホスピタリティ業界の雇用も減少しています。このようなデータが発表される中で、FRBによる利下げは今すぐに実行される可能性は低いと見られています。
ディフェンシブ銘柄は好調
株式市場では、マーケット全体が下落する中、引き続きディフェンシブ銘柄(経済の景気変動に関わらず安定した業績を維持しやすい企業)が好調です。ナスダック100が2025年2月19日にピークをつけてから、生活必需品や医薬品の株は堅調に推移しています。例えば、ハーシー[HSY]、ゼネラル・ミルズ[GIS]、ジョンソン・エンド・ジョンソン[JNJ]などは先週(3月3日週)それぞれ7.15%、6.4%、1%ほど上昇しています。
住宅大手に投資妙味があるか
一方、テクノロジーセクター以外では、住宅市場のパフォーマンスが不調です。住宅市場は多くの地域で冷え込んでおり、特に春の販売シーズンを前に、テキサスやフロリダのサンベルト地域では需要が弱く、北東部では強い動きが見られます。また、新築住宅の供給不足や建設の難しさも影響しています。ここ数ヶ月で株は大きく下落し、25~35%~程度の修正がありました。
関税引き上げがカナダの木材に与える影響で、新築住宅の価格が5,000~1万ドル上昇する可能性もありますが、株価はその影響を十分に織り込んでいると考えられます。レナー[LEN]やテイラー・モリソン・ホーム[TMHC]などの大手株は、いずれも低い評価となっており、住宅ローン金利も下落基調にあるため、投資妙味が出てきていると言えるでしょう。
マーケットの調整と関税引き上げの影響
S&P500は1928年から平均して1年に1回は10%以上の調整を行っており、5%程度の下げは平均3回ほど発生しています。そういった意味ではこのところの株価の下落は別に特別なことではないのです。下落する原因は毎回違いますが、買われ過ぎのマーケットが一時的に下がるのは長い米国株の歴史でこれまで常に起きてきたことです。
今回の下落の理由となっている関税引き上げ政策も、最終的には米国経済を良くする為に行われているということを忘れてはなりません。関税引き上げは、世界的な景気悪化を招くリスクがあるものの、米国にとっての短期的な「痛み(ペイン)」は、長期的には「利益(ゲイン)」につながるはずです。トランプ大統領がやっていることは、まさにそれを目的としている訳ですから。