前回から約1年8ヶ月ぶりにアーク・インベストメント・マネジメントの創業者キャシー・ウッド氏にインタビューを行ないました。ウッド氏は、「女性版ウォーレン・バフェット」とも称され、業界で最も注目される女性のひとりです。ウッド氏に、インフレや米金利上昇の行方、イノベーション関連銘柄の今後の見通しなどをお聞きしました。
岡元:御社は本社をニューヨークからフロリダに移転されましたね。フロリダでの生活はいかがですか。
ウッド氏:新型コロナウイルスのパンデミックでは非常に困難を強いられました。しかし、パンデミックがあったからこそ、ハイブリッドな働き方ができることがわかりました。そして、ブロックチェーン技術のように、世界が分散型に移行していくと考えるようになりました。ですから移転を決めたとき、私たちがより大きな変化を起こせる場所に行きたいと思ったのです。
フロリダ州セントピーターズバーグ市は、私たちがこの街にもたらすイノベーションにとても期待してくれています。同市は、サウス・バイ・サウスウエスト(毎年行われる世界最大級の複合フェスティバル)を開催するテキサス州オースティンのような存在になるのではないかと思っています。将来的には、サウス・バイ・サウスウエストをここに誘致して、世界中の人々に新しいテクノロジーを紹介し、彼らの生活や子どもたち、孫たちの生活を変えることができれば…と願っています。
より大きなリスクはインフレではなくデフレである
岡元:御社はコロナ以前からイノベーション関連銘柄に投資されていますが、コロナ禍におけるイノベーション関連銘柄の急騰とその後の大幅な下落をどのように評価していますか。
ウッド氏:コロナ禍でマーケットはイノベーションの重要性を認識し始めました。2020年の4月から2021年の2月にかけて、私たちの旗艦戦略は360%上昇しました。投資家がここで何かが起こっていると気づいたのです。そして人々がワクチンを接種して職場に戻り、需要と供給のアンバランスが生じ、サプライチェーンの問題が深刻化し、インフレと金利上昇の懸念が広がり、5年後に焦点を当てた長期投資銘柄に打撃を与えました。
しかし現在、デフレの兆候が見られます。鉄鉱石は60%下落、木材は60%下落、輸送コストを追跡するバルチック海運指数は79%下落、銅は35%下落、原油も35%下落しました。私はデフレが進行していると見ています。ですから、インフレを懸念していた投資家たちは、「ちょっと待てよ、インフレが問題ないなら、金利も問題ないだろう」と言わなければならないでしょう。そして、この1年半の間に大きな打撃を受けたイノベーション関連銘柄は、好転すると思います。
コロナ禍での大きな上昇は、今後インフレ懸念が払拭された後に起こるシグナル、サインなのです。私たちは2020年に起こったことは、今後5年間に起こることの予兆だと考えています。もし私たちの考えが正しければ、インフレは劇的に低下し、金利もそれに追随することになるでしょう。
岡元:では、そのインフレ率が下がり、金利が下がるのは、いつ頃とお考えですか?
ウッド氏:FRB(米連邦準備制度理事会)が重視しているPCEデフレーターと呼ばれる物価指数を見ると、食品とエネルギーを除いたPCEデフレーターは、米国では2022年2月に5.3%でピークに達し、現在は4.6%まで低下しています。今後1年間で、3%を下回る可能性があり、それよりも早くにそうなるかもしれません。デフレのパイプラインが埋まりつつあるのは明らかですから、FRBは注意を払うと思います。FRBが金利を上げ続ければ、物価はさらに早いタイミングで下がります。なので、今後3ヶ月から6ヶ月の間に、投資家はインフレが問題ではないことを確信し、FRBは金利を上げ続けるべきではないと考えるようになると思います。そして実際、金利を下げるでしょう。
岡元:PCEデフレーターは2月にピークを付けたと仰いましたが、なぜ投資家はその事実に注意を払わないのでしょうか。
ウッド氏:FRBが言うことを信じているからだと思います。パウエルFRB議長はジャクソンホール会合における8分間の講演の中で、ボルカー元FRB議長について4回言及しました。ボルカー元FRB議長は、80年代前半にインフレを克服したことで知られています。ボルカー元FRB議長の名前を出したのが2回、間接的に出したのが2回です。彼は「keeping at it」あるいは「keep at it」というフレーズを使いました。これは70年代後半と80年代前半を描いたボルカー元FRB議長の著書のタイトルです。つまり、FRBは今回のインフレが70年代や80年代前半の時と同じように深刻だと考えているのです。
しかし、その当時との違いについて考えてみましょう。70年代と80年代前半のインフレは15年前から進行していたものです。ベトナム戦争から始まっていたのです。今日のインフレ問題は、FRBが反応する15ヶ月前から進行していました。15年間醸成され続けてきたインフレと戦うのと大きな違いがあります。今回のインフレは、パンデミックとサプライチェーン問題によって引き起こされたものです。今後3ヶ月から6ヶ月の間にFRBは、今回のインフレは70年代のインフレと違うというシグナルを出すと思います。
ジャクソンホール会合にてパウエルFRB議長は、「我々はボルカー元FRB議長が戦っていたようなインフレと戦っていると考えている」と述べています。しかし私たちは、FRBは方針転換をして「我々は間違っていた。インフレは我々の予想よりずっと早く下がってきている」と言うでしょう。
先日、テスラ(TSLA)のイーロン・マスクCEOと世界で最も有名な債券投資家の1人であるジェフリー・ガンドラック氏の2人がツイッター上でデフレについて会話していて、私もその会話に加わりました。そこで、より大きなリスクはインフレではなく、デフレであることを皆さんに理解していただくために、先述の価格下落の話をしました。市場は好転し、株式投資は報われることになると思います。
FRBの方針転換によってマーケットは大きく変わる
岡元:御社では投資の時間軸を5年としていますね。今後5年間の展望をお聞かせください。今後5年間、御社が推奨しているイノベーションテーマ株はどのように推移すると思いますか。
ウッド氏:2020年4月から2021年2月にかけて私たちの旗艦戦略が360%上昇したのは興味深い展開でした。2021年2月の時点で、今後5年間の私たちのポートフォリオの期待収益率は年率15%でした。大幅に上昇していたので、万が一に備えねば…と思っていたのです。とは言え、その調整が1年半もかかるとは夢にも思いませんでした。
一方で、今後5年間の投資収益率予測を見ると、年率15%の何倍もの値になっています。つまり私たちが言いたいのは、市場は売られすぎていて、FRBの方針転換を待っているということです。そして、FRBが方針転換したとき、そのリターンは実現し始めると私たちは信じています。
岡元:今後12ヶ月ほどの株式市場全体の見通しについては、どのようにお考えですか。
ウッド氏:株式市場の投資家はこの1年半、インフレと金利の上昇を心配して過ごしてきたと思います。今後、その心理は変化していくと思います。ですから、これから1年、3年、5年の間、株式市場は非常に生産的な投資先となると思います。
もし私たちの想定通り、イノベーションが世の中の課題を解決し、昨今目の当たりにしたように困難な時期においても牽引力を増すならば、その意味するところは、従来のベンチマークの銘柄のいくつかは、おそらく「破壊的」な下落を見るか、その企業自体が「破壊」されることになるでしょう。イノベーションの進化により、あらゆる流通段階で中抜き現象が起こるでしょう。
パンデミックはグローバルなデジタル化、新しいハイブリッドな働き方へのシフトを加速させました。確かにここ米国でもそうなっています。このグローバルなデジタル化に貢献する企業は、今後も成長を続けるでしょう。そうした企業の株価はこの1年半で非常に大きな打撃を受けていましたが、この状況はかなり劇的に変化すると考えています。最近の株式市場の弱気心理は非常に高まっています。ここまで弱気心理が高まると、それが間違いである確率も高く、株式市場の回復が近いと思っています。
イノベーションは過小評価されている
岡元:キャシーさんがイノベーションに着目している理由を教えていただけますか。
ウッド氏:特に重要なことは、イノベーションが過小評価されていることです。顧客が私たちのところに来るのは、私たちがイノベーションに特化した投資をしていることを理解しているからです。他の運用会社はもっとジェネラリストであることを志向します。少しはイノベーション関連銘柄に投資しているものの、彼らはジェネラリストです。私たちが自身のリサーチを公開する理由は、投資家やアドバイザーに、私たちの足元が変わりつつあることを理解していただきたいからです。
今、ゲノム解読、適応型ロボット、エネルギー貯蔵、人工知能、ブロックチェーン技術などが変化しています。それらすべてが、あらゆる分野、あらゆる産業、あらゆる企業を変えていくのです。しかし、今市場にいるほとんどの人が、それを信じているとは思えません。ですから、驚きをもって迎えられるでしょう。イノベーションがポートフォリオに非常に大きなインパクトを及ぼすにつれて、より多くの人が私たちの調査に注目し、イノベーション分野でアイデアを探し始めると思います。
>> >>【中編】「キャシー・ウッド氏に聞く!テスラの将来性、下落局面でも依然強気な理由」
※本記事は2022年9月22日に放送した「ハッチの米国株マーケットセミナー」の特別インタビューを後日編集記事化したものです。
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