老舗のアクティビストとして知られる米国の投資運用会社「ダルトン・インベストメンツ」の共同創業者ジェイミー・ローゼンワルド氏が英国で2020年に設立した「ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド」(以下、NAVF)は、日本企業に対しても積極的に株主提案を行っています。

この記事では、NAVFの投資対象企業や株主提案の内容について解説します。

ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンドとは

日本株の投資家として知られるジェイミー・ローゼンワルド氏が2020年1月に、英国で運用規模2億ポンド(約290億円)の新ファンド「ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド」を立ち上げました。

同ファンドは日本の中堅企業20社程度に投資し、自社株買いや配当の増加による資本効率の向上を目指します。ローゼンワルド氏は世界金融危機以前から日本企業に対して積極的に株主提案を行ってきました。

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増える日本企業への株主提案

大和総研のまとめによると、6月8日時点で株主提案を受けた会社数は75社(取り下げを含む)となり、2021年の48社を上回ったとのことです。また、議案数は297議案(6月8日現在)で、2021年の156議案からほぼ倍増しているそうです。

NAVFも投資先企業9社に自社株買いを求め、株主提案数を増やしています。かつてのアクティビストといえば、無理難題な株主提案を投げかけて、強引に企業から株主還元策を引き出すというイメージが強かったと思います。しかし最近のアクティビストは投資先の事業を丁寧に調べ、建設的な提案をするケースが増えています。

アクティビストからの株主提案が投資先企業に受け入れられない場合、その内容が公表され、表面化します。一方で、対話が水面下でうまくいき、提案が株主還元に結びつく事例も多くあります。

アクティビストは1社あたりに数十億~数百億円の資金を投じるため、失敗すると損失が巨額にのぼります。ですから、1社に1億円以上の調査費をかけるなど、投資先の企業価値を確実に向上させるための株主提案を練り上げます。

ニッポン・アクティブ・バリューの投資先企業

NAVFが投資している日本企業の中から、次の3社をご紹介します。

インテージホールディングス(4326)

インテージHDは、マーケティングリサーチ会社です。各種市場調査を行い、その調査結果をもとにマーケティング活動の支援やソリューションの提案を行っています。

2021年12月末時点で、NAVFはインテージHDの株式を約213万株、5.28%保有。第4位の大株主となっています。

NAVFは、2022年2月にインテージHDに対して買収提案を行いました。買収総額は767億円になる見込みで、買い取り価格は2月9日の終値より10%高い1株あたり1,900円。NAVFはインテージHD側に対し、MBOの準備を急ぐよう要求しました。しかし、インテージHDはMBOや株式の非公開化は検討していないと発表。NAVFは2021年にサカイオーベックスのMBOを成功させましたが、インテージHDのMBOを成立させることは難しいように思います。

三ツ星ベルト(5192)

2022年3月時点で、NAVFは産業用ベルト大手の三ツ星ベルトの株式を130万株3.98%保有。第4位の大株主です。

NAVFは最大年間5億4千万円とする三ツ星ベルトの役員報酬を、譲渡制限付株式報酬を含めて計7億2000万円以内とし、最大58億円の自社株買いをするよう株主提案したことが報じられています。

これにより三ツ星ベルトの株価は5月13日に急騰。3年半ぶりの高値まで上昇しました。この株主提案は取り下げられましたが、三ツ星ベルトは連結配当性向を100%にするなど、株主への利益配分を大幅に強化した中期経営計画の見直しを発表。その後も株価は堅調に推移しています。

千代田インテグレ(6915)

千代田インテグレは、通信機器や自動車の機構部品や機能部品を製造・販売している会社です。2021年12月時点で、NAVFは同社の株式を50万株、3.69%保有し、第4位の大株主となっています。

千代田インテグレは、6月9日に自己株式取得を発表し、株式需給の改善と実質的な1株利益の増加を見込んだ積極的な買いが入りました。

自己株式を除く発行済み株式総数の3.35%にあたる40万株、取得金額10億円を上限に取得するとのことです。この取得は、株主還元の向上と経営環境の変化に対応した機動的な資本政策の遂行を目的としていると報じられています。