価値に基づく西側諸国の団結

米中対立の先鋭化やロシアの拡張主義的な行動が国際社会を揺さぶる中、日米欧等の西側諸国は自由や民主主義といった共通の価値を掲げ、団結を図っている。

バイデン米大統領は、トランプ前政権下で傷ついた同盟国・友好国との関係を修復しつつ、中国との戦略的競争に対抗するとして、価値を共有する同志国との連携を強化してきた。また、ロシアのウクライナ侵攻に対しては、先進7ヶ国(G7)を中心とする国々が協調して経済制裁を発動し、ウクライナを支援している。

西側諸国の姿勢に通底するのは、価値を共有しない国との経済関係がもたらすリスクに対する警戒である。

イエレン米財務長官は、「自由だが安全な貿易」を実現するため、経済統合は信頼できる国との間で進めるべきであり、サプライチェーンの「フレンドショアリング(friend-shoring)」(友好国への生産拠点等の設置・移転)の促進が必要だと指摘した。

また、トラス英外相は、長年多くの人々が「経済の地政学的なパワー」についてナイーブであったとしつつ、ルールに従わない者にはグローバル経済へのアクセスは認められないと述べた。

近年、中国を巡っては、経済力を利用した政治的圧力や貿易・投資を通じた技術流出等に対する懸念が高まり、各国は経済安全保障の確保に向けた規制やサプライチェーンの強靭化を進めている。

また、ロシアのウクライナ侵攻に対しては、ロシアの中央銀行や主要金融機関が国際金融システムから排除される一方、ロシア産エネルギーへの過度な依存が問題視され、その脱却に向けた方策が議論されている。

変化するパラダイム

第2次世界大戦後に西側諸国の間で形成された自由主義的な経済秩序は、冷戦終結後には世界規模に拡大し、様々な政治体制の国々を包摂しながら発展してきた。

グローバル化の時代においては、政治体制が異なり必ずしも価値を共有しない国とも互恵的な経済関係を発展させることができるという「政経分離」的な発想や、経済統合の深化がいずれは権威主義国の政治改革につながるという期待が強かった(図表A参照)。

しかし、近年、地政学的な対立における経済的な要素の役割を重視する地経学(geo-economics)的な観点から、こうしたパラダイムは変化している。具体的には、

1. 価値を共有しない現状変更勢力は、既存の国際秩序から利益を得つつ、権威主義的な体制を維持し、西側諸国への挑戦を続けている
2. 現状変更勢力は経済関係を政治的に利用するため、これらの国々との経済関係を深化させることはリスクを伴う
3. それゆえ、現状変更勢力との経済関係は見直す必要があり、場合によっては国際秩序から排除しなくてはならない

という考え方が広まりつつあると言えよう(図表B参照)。

【図表】国際経済秩序のイメージ
出所:丸紅経済研究所作成

一方、中国は「開かれた世界経済の構築にコミットし続けるべき」(習近平国家主席)と主張し、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)加入を申請するなど、経済統合に対する肯定的態度を誇示している。こうした中国の動きは、西側諸国に対抗し、国際経済秩序を巡るアジェンダ設定を主導する試みと捉えることもできるだろう。

今後の秩序のあり方とは

特にロシアのウクライナ侵攻以降、脱グローバル化(deglobalization)やグローバル化の終焉といった議論が活発化している。一方、貿易量や越境データ流通等の指標を踏まえれば、グローバル化が後退しているとの指摘は当たらないとする声もある。

グローバルな相互依存関係の解消は容易ではなく、国境を越えた経済統合という「現象」としてのグローバル化は、変化を伴いながらも当面続いていくのかもしれない。

しかし、国際経済秩序に関するパラダイム、すなわちグローバル化を支えてきた西側諸国の「信念」は転換を迫られており、それが実際の経済関係に及ぼす影響は決して無視できない。

同時に、世界経済を特定の価値のみによって規律することは現実的ではない。新興国や途上国の多くは、必ずしも西側諸国と価値を共有しているわけではないが、もはやこれらの国々を無視して国際経済秩序を語ることはできない。

価値に基づく高い凝集性と多様な国々を包摂できる開放性という要請を、どのような形で両立するのか。「自由で開かれたインド太平洋」を掲げる日本も難しい問いを突き付けられている。

 

コラム執筆:玉置 浩平/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 アナリスト