マスク氏、「言論の自由」主張し買収へ

米電気自動車大手のテスラ(TSLA)や宇宙開発企業「スペースX」の経営者として知られるイーロン・マスク氏が米国上場企業のツイッター(TWTR)を買収することが報道されています。マスク氏はもともとツイッターの愛好家として有名でした。一方、ツイッターについて「言論の自由が守られていない」などと批判していました。マスク氏は4月になって突如ツイッター株を約9.2%買い付けたことを発表。その後、マスク氏の取締役就任、買収提案や現経営陣の反対の見通しなどが語られていましたが、電光石火で5兆円強を投じて買収することになったということです。

上記のようにマスク氏はツイッターユーザーであり、ツイッターでの「言論の自由」を訴えていました。「言論の自由」は民主主義が機能するための社会的要請だとしています。ツイッターは同社のルールに従って、一定の投稿規制を行っています。これに対し、マスク氏はツイッターが事実上、町の広場になっているとした上で、法律の範囲内で自由に話すことができ、グレーの領域の投稿は存続させるべきだと訴えています。

マスク氏が「(米国)西海岸のハイテク企業が言論の自由を事実上支配すると、多くの人が不幸せになる」と指摘していることには賛同する向きもありそうです。ツイッター社は一部のアカウントの永久凍結も行っており、以前、トランプ前米大統領のアカウントが凍結されたことは大きな話題となりました。ちなみに、トランプ氏は仮にアカウントが復活してもツイッターに戻らないと発言したとのことです。

大義をビジネスとして成立させてきた実績

企業活動に対し、マスク氏が自身の主張のため株式を保有する行動に出た今回は買収に至ったわけですが、この動きはまさにアクティビストの動きそのものと言っても良さそうです。しかし、上記の「言論の自由」に関する発言を見る限り、利益を目指した動きというより、社会的な意義を考えての動きのようにも見えます。

ただ、これまでのマスク氏の動きを見ると、マスク氏の「大義」はちゃんとビジネスになっているというのも注目すべきことでしょう。マスク氏は大学生のときに人類にとって最も重要になるものとして、インターネット、持続可能エネルギー、そして地球外の惑星での生活を挙げていたと言われています。マスク氏はその人類にとって重要になるものとして、それらに関係する事業を興していきました。

【図表1】イーロン・マスク氏が創業・経営してきた企業
出所:マネックス証券

マスク氏が経営してきた企業はまさにマスク氏の大義であるインターネット(Zip2、Xドットコム)、持続可能エネルギー(テスラ)、惑星での生活(スペースX)であることが分かります。Zip2やXドットコムは売却で大きな金額を得ており、現在経営しているテスラやスペースXの企業価値はまさに途方もない水準です。ツイッターの買収も5.6兆円と報道されているので(日本の企業ですと三井住友(8316)や東京海上(8766)、セブン&アイ(3382)を上回る水準ですね・・・)、その買収にもこれらの企業の評価額が意味を持っていると言え、大義のための影響力になっていると言えます。また、それぞれの企業がビジネスとして成功していることも注目すべきポイントです。

そう考えると、マスク氏の「言論の自由」が意図としてあることは間違いないとしても、過去の実績からするとツイッターのビジネス上の価値を評価したという面もあるでしょう。確かにツイッターは世界中に圧倒的なユーザー数を抱えており、公共的な面はあるにしても、実際に米国のグローバルなIT企業が業績面でも株価面でもずば抜けているのと同様のポテンシャルがありそうです。

ポテンシャルがある日本のネットサービス企業は

日本においてもツイッターも含め、そのようなグローバル企業の存在感は大きいですが、ネットサービスを展開している企業で似たようなポテンシャルのある日本の企業はあるでしょうか。

2021年、クックパッド(2193)にアクティビストが投資を始めたことをもとに以下の記事で解説しています。

●クックパッドにアクティビストが投資!アクティビストのターゲットになる企業とは?(2021年11月30日)

●業績・株価が長期低迷中のクックパッド、魅力はどこにある?(2021年12月3日)

上記は2021年12月上旬の記事ですが、その後クックパッドの株価はやや堅調に推移しており、特に新興市場の指数と比べるとかなり好調な推移となっています。

【図表2】クックパッドの株価推移
出所:マネックス証券

これもクックパッドが持つユーザー数などの資産が評価されたからでしょう。クックパッドの分析の詳細は上記の記事をご覧いただくとして、国内の上場企業で似たような多くのユーザーを抱えるネットサービス企業はあるのでしょうか。

ヤフーとLINE、そしてZOZOを抱えるZホールディングス(4689)は代表的な企業ですし、ついに携帯電話サービスにも進出した楽天(4755)も同様です。もちろん、ドコモを子会社化したNTT(9432)やKDDI(9433)、携帯電話会社のソフトバンク(9434)などもそのようなプレイヤーとして代表的な企業と言えます。

これらの企業ほど大きくはないものの、一定のユーザー数を抱えているサービスを運営している企業は他にもあり、注目すべき動きも少なくありません。次回はそのような企業を見ていきましょう。