アクティビストの注目点は「経営面の課題」、「魅力的なポテンシャル」

アクティビストが投資先に選ぶ企業は「経営面で問題はあるが、魅力的なポテンシャルをもった企業」である場合が多いです。アクティビストはその名の通り、経営に働きかけることで経営をより良くし、投資先の価値を向上させるような投資を行います。それでいうと、経営面に問題のない魅力的な企業は伸びしろが小さいですし、一方で、魅力的なポテンシャルがない企業は経営を改善してもどうにもならないということでしょう。

例えば、この連載でよく取り上げている東芝(6502)は会計不祥事や投資の失敗など経営面の課題が多い一方で、世界的にも存在感のあるメモリ子会社や、自社の技術力・販売網など魅力的な資産も少なくなかったと言えます。かつ、企業規模も大きかったため、それだけアップサイドがあると考えられたのだろうと思われます。

つまり、「経営面の課題」、「魅力的なポテンシャル」を持った企業はアクティビストの狙い目ということになります。11月19日に国内のアクティビストであるアルファレオがクックパッド(2193)に投資したのはその典型と言えそうです。

アルファレオがクックパッドに投資した背景とは

アルファレオは海運会社の乾汽船(9308)にも投資し、株主提案などを行っています。基本は同社に対し、買収防衛策の撤廃、経営陣の刷新、増配などを求めており、まさに典型的な「魅力的なポテンシャル」を持った企業の価値を高めるための活動を行っていると言えそうです。

乾汽船は明治創業の歴史ある海運会社です。同社は以前、関東土地と称した不動産会社イヌイ倉庫をグループに抱えていました。一時は東証に上場していたイヌイ倉庫は2014年に乾汽船と統合しました(存続会社はイヌイ倉庫側ですが、社名は乾汽船となりました)。

海運会社は業績の上下動が激しいことから相対的に業績の安定している不動産賃貸業を併営することが少なくありません。商船三井(9104)は上場不動産会社であるダイビル(8806)を傘下にしています。ダイビルは東証上場不動産会社で時価総額15位、1700億円に達しているのでちょっとした副業というレベルではありません。飯野海運(9119)は東京都心に大型ビル「飯野ビル」を有しており、収益の柱です。明治海運(9115)も複数のホテルを有しています。乾汽船にとってのイヌイ倉庫もそのような存在であったと言えます。

イヌイ倉庫の物件の中で特に注目されるのは同社の地盤と言える東京勝どきエリアの保有物件です。同社は勝どきに約500戸のマンションを2棟、オフィスビル、シェアハウスを保有しており、土地も少なくありません。それ以外にも不動産を有しています。勝どきエリアは都心にも近く、これだけの大きな不動産物件だと価値があるので、イヌイ倉庫はもともと含み資産株としても注目されていました。実際、乾汽船のここ5年ほどのセグメント業績は海運業が赤字を続ける一方、不動産業がその赤字を賄うという構図が続いています。

まさに、うまく経営すれば大きなポテンシャルがあるように見えたということでしょう。実際、乾汽船の株価はアルファレオが投資を開始した2017年頃は低迷が続いていました。その後、海運市況が大幅に上昇したことで株価は改善しています。しかし、アルファレオはアクティビストとしての成果を出し切ったというところではなさそうです。一方、同社はひとまず乾汽船の株価も上がり、余力が出たこともあってか、新たにクックパッド(2193)に投資を開始しています。

クックパッドは業績が頭打ちになっており、2016年12月期の売上高168億円が2020年12月期には111億円、営業利益に至っては、2015年12月期65億円、2016年12月期50億円から2020年12月期には2億円まで落ち込んでいます。2021年に入っても減速基調が続いており、2021年の四半期決算はすべて営業赤字に沈んでいます。株価は2015年に高値2,880円だったものが、2021年は215円の安値を見ています。実に93%もの下落なのです。

企業の「魅力的なポテンシャル」の見極め方

このように見ていくと、「経営面の課題」は業績や株価を見ると比較的わかりやすいように思います。一方、クックパッドの「魅力的なポテンシャル」はどこにあるのでしょうか。クックパッド自体の詳細な分析は次回にまわすとして、一般的にどのようなところを魅力的なポテンシャルと見るのでしょうか。

多くの場合は決算書に現れてこない資産です。例えば、優良子会社・優良資産・優良不動産などは決算上では見えにくいことがあります。そのような優良資産を切り出すことで、企業の価値が上がるということは投資アイディアとしてよく用いられるように思います。様々な事業を行っており、その価値がその企業の価値より低いことをコングロマリットディスカウントと言います。これは子会社などの事業に関わらず、資産や不動産でもしばしば見られることです。

それ以上に決算書上で確認できないような資産もあります。例えば、技術力というのは直接決算上に現れません。同様に営業力もそうでしょう。これは従業員の価値と言い換えても良いように思います。

加えて、顧客基盤も直接は決算書上で読み解けません。最近のビジネスは定期的に課金を行う形式のサブスクリプション型が主流になっています。サブスクリプション型の場合、中長期的な売上高が見込めることから、短期的には販促費をかけてでも顧客基盤を構築したほうが良い・・・ということになります。例えば、平均的に5年間は収益をあげてくれる見込みがあるのであれば、顧客獲得に当初1年は大きなコストをかけても良いという判断がなされます。その場合、顧客獲得が首尾よく進むと短期の決算はむしろ赤字が大きくなるものの、中長期の業績はより前向きに見込めるということがあり得ます。

また、顧客基盤の裏表になりますが、商品のブランド価値も通常決算書には現れません。

簡単にまとめると、人材・顧客基盤・ブランドは「魅力的なポテンシャル」と言えるでしょう。

このような観点で見ると、クックパッドはどのように位置づけられるでしょうか。アクティビストはどのような判断から投資を決定したと考えられるでしょうか。また、他にどのような「経営面で問題があるが、魅力的なポテンシャルを持った企業」があるかも含め、次回以降見ていきたいと思います。