米国の株主提案、今年の主要テーマトップ5は?
2024年も年末に近づき、株主アクティビズムの今年度の傾向と来年度のテーマに関する議論が行われている。フォーチュン誌が選定する、米国の主要企業250社の株主提案議案をまとめた情報データベースProxy Monitor(米国のシンクタンク、マンハッタン政策研究所が運営)によると、2024年にこれら主要企業に提出された株主提案の数は619であった。
これらの議案のうち、米国で目立った主要テーマは役員報酬(議案数の合計267)、社会政策(議案数の合計262)、コーポレート・ガバナンス(議案数の合計72)、気候変動リスク(議案数の合計42)、人権(議案数の合計40)の5つであった。ここから主要トピックごとに事例を振り返りたい。
役員報酬・ガバナンスに関連する株主提案は注目トピックに
まず、最も人気のテーマであった役員報酬に関する議案について見ていきたい。目を引くのは「Say On Pay」と呼ばれる経営陣の役員報酬に対して株主の賛否を問うタイプの議案数の多さだ。「Say On Pay」とは、米国で主流の形式の議案で、株主総会の場で上場企業の役員報酬方針やその額に関して株主に妥当性を問い、株主が賛否を表明するタイプのものになる。その多くは決議結果に拘束力を認めない勧告的決議の形式を取る。つまり、仮に議案が株主の反対多数となったとしても、企業側は議案で提案された額の報酬を支払うことできるが、企業には大きな圧力がかかる。
次にコーポレート・ガバナンスの項目を見てみると、臨時株主総会を招集する株主の権利の採択を求める議案数の多さが目立つ。実際、鉄道大手のノーフォーク・サザン[NSC]に対してAncora Holdings Group LLCから提出された株主提案は、61.31%の賛成比率を獲得している。過去に同社に気候変動問題について提出した米国の投資家は、「同社は株主の声を十分に尊重するようなガバナンス体制になっていない」と筆者に語っており、同社には長期間にわたって投資家からの圧力がかかっている。
「アンチESG」ムードの中、気候変動や人権に関する議案の動向は?
2025年より米国の舵取りを行うトランプ次期政権は、気候変動に対して消極的になる見込みで、気候変動リスクの議論の進展は弱気シナリオを想定する投資家も少なくない。それでも企業への株主提案の提出や働きかけについては、今後も継続する意思を示す投資家も続々と現れている。
著名人をプロモーションビデオ等に起用し、石油大手シェブロン[CVX]に対して気候変動対策を求めるキャンペーンを展開してきた投資家のNewground Social Investmentは
“私たちは選挙結果が真の脅威をもたらすことを認めます。気候変動対策と労働者保護に関する最近の進歩と同様に、主要な環境保護、公民権の進歩、および公衆衛生政策はすべて課題に直面するでしょう。生殖に関する権利はさらなる攻撃にさらされ、対立する政治情勢は私たちの国の社会構造をさらに緊張させる可能性があります。それでも我々は影響力のある投資への献身と、公正かつ公平な体系的変化の擁護において、不動のままです。”
とオープンレターを公開している。2024年はゼネラル・ミルズ[GIS]に提出され、40%以上の賛成確率を獲得したプラスチック包装に関する議案など、株主の賛成比率が比較的高い事例も誕生した。
そのほか人権に関する議案については、非営利団体のSHARE(Sharehldr Assoc for Research & Education)からアマゾン・ドットコム[AMZN]に対して、結社の自由に関する報告書を策定することを求める議案が出ており、3割以上の賛成比率を獲得している。株主擁護団体のAs You Sowは12月10日に実施されたマイクロソフト[MSFT]の年次総会に向けて「石油・ガス開発・生産が気候変動に与えるAI・機械学習ツールに関するレポート」を提出していており、世相を反映させた議案も誕生している。