先週金曜日、ついに第94代首相として菅総理が誕生しましたね。

よくいただく質問に「首相の辞任で市場はどう反応するか?」「政権交代は市場にどんな影響を及ぼすか」といったものがあります。
いつも「日本の政治が市場のメイン・テーマになることはほとんどないので、大きなインパクトになることは考えにくい」とお答えしています。

一言で「市場」といっても、ご存じのとおり、株式市場、為替市場、金利市場、商品市場と様々な市場があります。通常、どの市場も密接に関連していますから、市場参加者にとって市場のテーマ、注目する経済指標はたいていの場合一致しています。
ご存じのように、ここ最近はギリシャ発の欧州不安一色で、ユーロがどう動くのか、欧米がどういう対策に出るのか、というのがメイン・テーマと言えるでしょう。(中国元の切り上げの話題はかなり影をひそめています。)

ところが、先週興味深い話を聞きました。

「株のディーラーはほとんど日本の政治は見ていない。株のディーラーは為替、今だと特にユーロ円の動きだけに注目している。ただし、為替のディーラーは政治動向を気にして見ている人もけっこう多いらしい。」

まず、最近の日本株の動向は為替が円高になれば下落、円安に向かえば上昇というパターンが出来上がっています。つまり直近に限れば、為替市場⇒日本株市場への影響であり、その逆はありません。以前は米国株市場⇒日本株市場で、もちろん今もこの流れはありますが、場中は為替に連動しているといえます。したがって、日本株市場の参加者は直接的には、ほとんど政治動向には注目していないのです。

「菅氏=円安論者」、その菅氏が首相になることで円安誘導期待からドル高円安に振れているという説明を皆さんもニュースなどで目にされたことでしょう。政治そのものというより、市場から影響力があると認識された人物に限って、その人物の言動、行動が市場変動の要因になることがあります。
逆に、過去において、信認のない首相が何を発言しても市場が微動だにしなかったり、日銀の総裁ですら、その発言が市場で無視されたこともありました。
そういう意味では、菅氏については為替市場に影響を及ぼす実質的な力量があると、国内外の市場参加者に認められているのかもしれません。
ただ個人的には、円安に振れたのが、菅氏の首相候補、就任ということだけが理由ではなく、ドル高期待(米雇用統計の改善期待 ⇒結果としては予想より悪化し、米国株下落・ドル下落)という別の要因が重なったことが大きいと考えています。

市場参加者に認められ、期待されることがあれば、日本の政治関連のニュースも市場変動の要因の一角となりえるかもしれません。ですが、現状の日本の市場(株式も為替も)動向は欧米の動きに追随しているのが中心であることに変わりなく、今も日本の政治はメイン・テーマにはなりえない、そこまでのインパクトはないという認識は変わっていません。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員