円安ではなく円高で確認できる長期の変化
日本の貿易・サービス収支は、2022年に過去最大の赤字を記録した。かつて世界一の貿易黒字大国だった日本において、貿易・サービス収支の赤字化が顕著になっているが、そうしたことが記録的な円安となった主因だろうか(図表1参照)。ただし、円相場の中長期的な変化に注目すると、違ったイメージが浮かんでくる。
米ドル/円には、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を中心に±3割の範囲を循環する習性がある。これを見ると、大きく米ドル高・円安となったケースでは、1990年代も2000年以降も、5年MAを3割上回る動きとなっており、それはこの2024年の円安局面においても同じだった(図表2参照)。
一方で、大きく米ドル安・円高となったケースを見ると、1980年代には5年MAを4割も下回ったが、1990年代には3割下回るにとどまり、2000年以降は2割下回るのが精一杯となっていた。以上のように見ると、5年MAとの関係で確認できる米ドル/円における中長期的な変化とは、円安サイドではなく円高サイドで起こってきたということになるだろう。
これは、円の総合力を示す実質実効レートで見ても基本的には同じ結論になる。円の実質実効レートは、円安が大きく進んだケースでは5年MAを2割程度下回る習性があり、それは今回も同じだった(図表3参照)。一方で、大きく円高が進んだケースでは、1980年代なら円の実質実効レートは5年MAを3割以上も上回ったのに対し、その後は徐々に上回る程度が小幅になり、2020年に米ドル/円が100円割れに迫った円高局面でも、実質実効レートは5年MAをかろうじて上回った程度にとどまっていた。
以上のように、円相場に起こっている中長期の変化に注目すると、それは急に円安が止まらなくなったのではなく、20~30年という長い時間をかけて円高になりにくくなっているということになるのではないか。
改めて、図表1の貿易・サービス収支を見ると、2000年代には黒字だったが、2010年代には赤字になるケースが増え、そして2022年には過去最大の赤字を記録した。こうした貿易・サービス収支の中長期的な変化などを受けて、為替相場ではかつてほど円高になりにくいという変化が進んできたのだろう。
図表2を見ると、米ドル/円はこの先円高局面が到来しても、もはや5年MAを大きく下回らない程度にとどまる可能性がありそうだ。足下の5年MAは126円程度なので、その意味ではこの先の円高局面では120円を大きく割れない、それこそが日本経済の構造変化の影響ということではないか。(後編に続く)