>> >>特別インタビュー【1】米農業機械大手ディア(DE)の技術革新、農業イノベーションによる変化とは?

農業の効率化を高めるドローン、5G技術の活用

岡元:ディア・アンド・カンパニー社(以下、ディア)(DE)は数年前にボロコプター(Volocopter)社とジョイントベンチャーを立ち上げましたね。その背景を教えてください。また、ドローンの技術で顧客をどのようにサポートしていくのでしょうか。

ジェプセン氏:私たちは、ドローンを1つのセンサーとして捉えています。ドローンを使ってデータの蓄積や、作物の状態に関するデータの取得が可能です。ドローンが畑を偵察し、水分不足や害虫などの問題がないかどうかを確認します。そして、その情報をデジタルデータのプラットフォームにフィードバックし、次の作業や作物の保護方法に反映させることができます。

人手を使って畑の一部を歩き回ってメモを取り、「ここが被害を受けている」、「ここに害虫がいるかもしれない」などの情報を伝えることもできます。しかし、それをドローンで効率的に行うことができれば、まんべんなくデータの蓄積をすることが可能です。このようにドローンは農業生産システムに組み込まれています。

岡元:既存の通信技術で十分でしょうか。5G技術によるメリットはありますか。

ジェプセン氏:ネットワークの接続性の向上は、特に遠隔地では間違いなく有益です。多くの農家がいる農村地帯を考えると、接続性の向上は非常にメリットがあるでしょう。

大きな利点の1つとして、遅延が減るためネットワークに接続された機械が、デジタルデータのプラットフォームにリアルタイムでデータ送信するスピードが向上します。そうすると、どこにコンピューティングが必要なのか考えが及ぶようになります。クラウドコンピューティングできるのか。それとも、現場にあるマシン上で計算する必要があるのか…など。このように、クラウドでできることと機械でできることの間で、いくつかの可能性が出てきます。

また、工場に5Gを導入することで、工場内の配線を少なくできるというメリットもあります。つまり、工場内の「IoT(モノのインターネット)」のようなものを考えています。現在、多くの機器が接続されていますが、その多くは全体的に接続が不安定なため、有線で接続される傾向にあります。そのため5G技術により遅延や配線が減れば、工場での使用がより快適になると思います。

業界分析で注視しているポイントとは

岡元:業界の見通しを図るために、経営陣が参考にしている指標はありますか。

ジェプセン氏:私たちはフリートダイナミクスを考慮に入れています。フリートダイナミクスとは、例えば、北米のフリートのマシンの経年数はどのくらいか、市場では新品と中古の在庫レベルはどのように推移しているか、中古価格はどのように推移しているか、などを示すものです。

農家のファンダメンタルズも当然ながら非常に重要です。土地の価値だけでなく、現金収入や農家の収入、そしてそれらの傾向を注視しています。

そのほか、特にテクノロジーについて考える際には、ある生産システムの獲得可能な市場規模(TAM)はどうなっているのかを考慮しています。例えばコーンや大豆などの生産システムは、まだ問題点や課題があります。それらに対して私たちがいかに価値をもたらすことができるか、獲得可能な市場規模(TAM)はどこにあるだろうか、ということを検討するようにしています。

このように私たちは業界全体を分析するだけでなく、顧客のために価値を創造するには、どこにどのように投資するべきかを考えています。

ポテンシャルが高い北米外でのビジネスチャンス

岡元:御社の売上の60%は北米で占められていますね。北米以外でビジネスチャンスがあると思われる地域はありますか。おそらく新興国市場は長期的なチャンスがあるのではないかと推察しますが、いかがでしょうか。

ジェプセン氏:そうですね、10年前に想像していたよりも急速に発展・成長している市場は、南米でしょう。特にブラジルには大規模な農場があり、1年に複数の作物を栽培する能力を有しています。

それと同時に、熟練労働者の不足など、農業分野ではどこでも同じような課題に直面しています。そのため、これらの地域でも北米と同様、より効率的・正確に、そしてより持続的に農業を営む必要があります。そのためのインプット情報の活用方法についても考えています。

ブラジルの他に、欧州やCIS諸国も弊社にとって重要性を増しています。これらの地域では、かなり大規模な農業が行われています。私たちはより焦点を絞ったアプローチをとっており、大規模農業や精密農業をターゲットにしています。それらが最も差別化できる顧客層であると考えているからです。実際、この戦略を開始してから2年が経過し、成功を収めています。

他の新興国市場について考えてみると、インドが世界最大のトラクター市場であり、今年(2021年)は95万台のトラクターが販売されました。その結果、私たちはインドで確固たる地位を築き、利益を上げることができました。また、インドを小型トラクターのハブ拠点として活用し、100ヶ国以上に輸出しています。長期的にはアフリカの市場も発展していくと思います。

また、カンボジアをはじめとする東南アジアの市場では、商業的農業が盛んになってきています。このように、私たちは世界のどこにチャンスがあるかを常に考えています。

バイデン政権のインフラ投資計画による恩恵は?

岡元:御社の売上の約25%が建設・林業分野ですね。バイデン大統領が掲げるインフラ投資計画によって、どのようなメリットがあると考えていますか。

ジェプセン氏:インフラ投資法案が可決されても、実際にプロジェクトが始まるまでには長い時間がかかるでしょう。資金を調達し、承認や許可を得るまでに時間がかかるからです。しかし機械の需要という点では、複数年に渡って恩恵を受ける傾向があります。最も恩恵を受けるのは、土木機械や道路建設の分野だと思います。

4年前に、弊社は道路建設の世界的リーダーであるヴィルトゲングループ(Wirtgen Group)社を買収しました。これが弊社のインフラビジネスを担っており、実際にインフラ投資法案が可決され、プロジェクトが開始されれば、非常にプラスになるでしょう。

ディアの資本配分戦略を支える4つの要素

岡元:御社の資本政策についてお聞かせください。

ジェプセン氏:ここ数年、同じような資本配分戦略をとっています。実際には、4つの重要な要素で構成されています。1つ目は、シングルAの信用格付けの維持に注力していることです。弊社のグループ内にはジョンディア・ファイナンシャルという専属のファイナンス会社があり、魅力的なレートで資金を供給したいと考えているからです。

2つ目は内部・外部両方における成長のためのビジネス投資です。つまり、私たちが最も重要だと考える成長分野があるところでのM&A活動です。

3つ目は配当です。景気循環の中盤における利益の25~35%を目安にしています。現在はその下限に位置していますが、今後も成長が期待されます。

そして、最後は自社株買いです。7月末までの第3四半期には2件のM&Aを発表し、自動運転トラクター開発企業であるベア・フラッグ・ロボティクス(Bear Flag Robotics)社を買収しました。また、日立とのショベルカーの合弁事業解消も発表しました。これらの工場を買収した上で、当四半期に配当を17%引き上げ、約7億5,000万ドル相当の自社株買いを実施しました。

岡元:日本の個人投資家の皆さんにメッセージをいただけますか。

ジェプセン氏:弊社に関心を持っていただきありがとうございます。弊社は技術面での成長に伴い、今後も堅実な投資対象であり続けると考えています。私たちは、景気循環ビジネスの影響を低減できる存在であると信じています。

そして、より安定した業績を上げ、テクノロジーがもたらす恩恵により利益率を向上させ、それが強力なキャッシュフローにつながると考えています。今後は、さらなる企業の成長と株主還元に焦点を当てた現金の使い方に戻っていくでしょう。

私たちは他社と比べて非常にユニークな立場にあると考えています。弊社の戦略は、テクノロジーを通して顧客にどのような価値を創造するか、いかにして顧客の収益性と持続性を高めるかに焦点を当てています。

農業分野では明らかにリーダーシップを発揮していますし、建設分野ではアメリカ大陸でナンバーワンの道路建設用ブランド、ナンバーワンの林業用ブランド、ナンバー2の建設用ブランドを持っているので、さらなる成長を期待できるでしょう。

このように私たちは非常に良い体制を整え、今後の成長に向けて優位なポジションにいると感じています。

岡元:今回は、ご参加いただきありがとうございました。

ジェプセン氏:こちらこそありがとうございました。

本インタビューは2021年9月22日に実施しました。