2021年、強さを見せているカナダドル

為替市場では「カナダの次はどこ?」がテーマとなっています。2021年、圧倒的な強さを見せているカナダドル。強さの背景には、カナダが豊富な資源を有する国であることと、カナダ中央銀行が「テーパリング」を決定したことにあります。

木材先物の高騰

木材先物価格は年初から2倍近くまで急騰しています。カナダは木材の輸出大国ですが、最大の輸出国である米国では今、戸建て住宅建設ブームが起きています。

コロナ禍の中で、米連邦準備制度理事会(FRB)が景気刺激策として金利を一気に0%に引き下げたことで住宅ローンも安くなったことに加え、リモートワークが広がったことから住宅の郊外シフトが起きているのですが、これに目をつけた年金基金やアジア、中東系ファンドなどが米住宅会社と組んで郊外型戸建て住宅への投資に乗り出していることから木材需要が一気に高まっているのです。

日本の木材輸入の最大の相手国もカナダですが、日本でも住宅建設に影響が出始めており「ウッドショック」と呼ばれるまでに木材不足は深刻となっています。そのため、カナダの輸出品目である木材の価格高騰はカナダドルの強気材料となっています。

テーパリングを決めたカナダ

中央銀行が市中の銀行から債権などの資産を購入するのが量的緩和政策ですが、テーパリングとはこの量的緩和を縮小する政策です。カナダ中央銀行(BOC)が4月の会合で国債の買い入れ目標額をこれまでの40億カナダドルから30億カナダドルへと減額することを発表しました。

簡単に説明すると、カナダは市場へ「バラ撒く金額を小さくした」、ということです。BOCは同時に「経済のスラックが吸収されるまで」金利を下限に維持する、とする時期を2023年から2022年下半期へと前倒ししました。カナダの利上げ開始は2022年の下半期がメドとなったのです。

次のテーパリングはどこか?米国の動向

このコロナ禍において、各主要国の中央銀行があっという間に政策金利をゼロ金利に引き下げ、市中銀行から資産を買い上げる量的緩和策を導入しています。

そうした中で、真っ先に政策の転換を表明したのがカナダであることからカナダドルが上昇基調を強めているわけですが、これによって、為替市場のテーマが再び世界の中央銀行の金融政策に移ってきています。「米国のテーパリングと利上げはいつなのか?」「カナダの次にテーパリングをするのはどこか?」といったところです。

米国は2023年末までゼロ金利の維持を示唆していますが、イエレン米財務長官が「米経済が過熱しないよう確実を期するには、金利はやや上昇せざるを得ないかもしれない」と発言したことが報じられことに市場が驚き、金利が急騰、米ドル高になる局面がありました。

イエレン米財務長官はその後、利上げを予想推奨するものではないと釈明していますが、ダラス米連銀総裁が5月に入って「テーパリングに関する議論は早いほうがいい、一番早い機会に」と発言したことも注目されています。

一部の市場関係者の間で米国は金融政策の引き締めに向けて「地ならし」を始めたとの見方も出始めています。しかしながら、そのような中で出てきた米国の4月の雇用時計が予想を大きく下回ったことで、市場のテーパリング観測が一気に後退し、米ドルが大きく売られています。テーパリング時期を模索する値動きとなっています。

英国の動向にも注目

新型コロナワクチンのスピード接種で評価されている英国ですが、5月に英中央銀行(BOE)は、資産買い入れペースを週44億ポンドから34億ポンドに引き下げることを決定しました。

ただし、資産買い入れ枠を維持したことから「テーパリングではない」としています。購入金額を減額したことはテーパリングになりますが、何かあれば買い入れ金額を増やすことができるという柔軟性を持たせたということかと思われます。

しかし資産買い入れ金額の減額は明らかにバラ撒き量を絞ることですので英国ポンドはその後、上昇基調を強める結果となっています。

ここからの為替市場はテーパリングと利上げ時期の観測が通貨の強弱を決定する大きな材料となってくると考えられます。その点から、インフレターゲット到達が困難である円は上がりにくく、売られやすい通貨となっていくものと思います。

ただし、コロナ禍の緩和マネーによって上昇してきた株式市場が大きな調整に入る局面が訪れた場合、リスク回避から資金のキャッシュ化が起こり、米ドル高が来ることも考えられますので、その時々で今何が市場のテーマとなっているのかを見極めることが大切です。