NFTの特徴、一体何が革新的なのか
暗号資産業界では2021年1月に紹介した分散型金融(DeFi)に続いてNFT(Non-Fungible Token)という分野が盛り上がっている。NFTとはトークン規格の一つであり、日本語で「ノンファンジブルトークン=代替不可能なトークン」という意味をもつ。今回初めてNFTという言葉を知る人も多いだろう。簡単にその特徴を紹介する。
1:代替不可能性
あるモノの代替ができないということは、たとえそれが同一のものであっても、それ同士を等価交換することができないということである。例えば、不動産やアート作品、これら以外でも私たちの身の回りにあるものはほとんどがノンファンジブルである。逆に代替ができるものの例としてお金が挙げられることが多いが、厳密にはお金もシリアルナンバーなどで区別されており、個別で捉えればノンファンジブルといえる。ファンジブルなものでは複製可能なデジタルデータが何よりの象徴であったが、NFTによってあらゆるデータに対しても唯一性を付与することが可能となった。
2:取引検証性とプログラマブル
NFTはブロックチェーン上で発行される。現在はイーサリアム上で発行されることがほとんどである。ビットコインなどと同様に全ての取引が改ざん不能な形で台帳に記録され、誰であってもその履歴を閲覧・検証することができる。例えば、あるアート作品について、そもそもそれは本物なのか、どのような人たちによってこれまで保有されてきたのか、といったことを確かめることができる。
また、NFTはスマートコントラクトによって保有者に対する様々な権利を規定することができる。例えば、ある音楽作品(の権利)をNFT化する場合、クリエイターをはじめとするNFT保有者に対して、再生回数に応じた報酬を受け取る権利などを設定することができる。
このようにNFTの誕生によってお金以外にも、様々なデータの真贋をインターネット上で表現することができるようになり、市場原理のもとそれぞれのデータを価値付けすることができるようになった。
また、これまで紙面でのやり取りが中心であった様々な権利関係についても交換および検証可能なデータとして表現することができるようになり、権利の契約から執行、移転に至るまでの流れを効率化することもできるようになった。
NFTはなぜ今になって流行しているのか
NFTはゲーム業界を中心に数年前からたびたびその活用が検討されてきた。2017年には、「CryptoKitties」と呼ばれる、可愛らしい猫を模したNFTとしてのキャラクターを育成するゲームが話題となり、あるキャラクターは当時のレートにして2000万円超で取引された。
日本でもダブルジャンプトーキョーが早期からNFTに注目し、2018年には同様のヒーロー対戦ゲーム「My Crypto Heroes」をリリースした。しかしながら、これまでNFTはブームになるといわれながらなかなか日の目を見ることはなく、コロナ禍が終焉に向かいつつある今になって突然話題の中心にのぼり始めた。一体なぜなのか。
1:金余り相場の影響
コロナ禍における金余り相場のなかでは、無制限に刷られる法定通貨の価値が下がり、株式やビットコインをはじめとする供給量の限られた資産の価値が相対的に高まっている。何もそれは金融資産に限った話ではない。東洋経済誌のアート特集では、現代アート作品が都内オークション会場で事前予想を超える高値で次々に取引されていると述べられている。(※1)
アートの他にも、高級時計や限定スニーカーといった有限の現物資産にキャピタルゲイン目的の資金が集中している。このような動きがあるなか、現物資産やデジタルアセットと紐づくNFTもまた有限かつ市場においてオープンに取引されるものとして値上がり益を期待する投資家の関心を集めている。
2:デジタルアートの概念変化
これまでデジタルアートは複製が可能であるため価値を担保することが難しかった。しかし、NFTによってデジタルアートのオリジナル性を証明できるようになり、ようやく従来のアートと同様に、唯一無二なアートとしての価値やコレクション性を認められるものとなってきている。
単に過去のツイート画像をNFT化するものもあり、果たしてそれがアートと呼べるのかと疑いたくなるところではあるが、こうした懸念に反して、ツイッター社のCEOであるジャック・ドーシー氏の初ツイート画像は2億円を超える金額で取引がされた。
この現象をみたときにスマホで撮ったコピー画像と何が違うのかと考える人もいるだろうが、それは違うと思う人にとっては精度の高い偽ブランド品を手に持つようなもので、市場で取引することもできなければ、収集家としての欲も満たされないのである。
3:世界的なオークションハウスの参入
今年に入りクリスティーズやサザビーズといった世界的なオークションハウスが、NFTで所有権が管理されるデジタルアートの取り扱いを始めた。クリスティーズは今年2月に初めてイーサリアム決済を受け入れたことで注目を集め、そこで競売にかけられたビープルというデジタルアーティストの作品「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」はNFT史上最高額となる約75億円で取引された。
現存するアーティストのオークション記録としても3番目となる歴史的な金額である。これに追随する形でクリスティーズもNFTアートの取り扱いを表明した。この他にもグライムスやエイフェックス・ツインといった著名アーティストがNFT作品を販売する動きなどがあり、いずれも高額で取引がされている。このようにオークションにおいて高値を付けるNFT作品が批評の対象となることで、次なるNFT作品へと連鎖的に投資家を惹きつけている。
DeFiもそうであるが、NFTを一過性の投機ブームとして捉えてはならない。ルネッサンスに始まるこれまでのアート史が社会変化のなかにおけるムーブメントとして発展してきたように、コロナ禍における社会変化のなかでNFTアート史なるものの端緒が見出されつつあるのである。
結果としてアート市場がNFTの火付け役となったが、これを受けて冒頭で述べたNFTゲームもまた活況になっており、国内ではゲーム大手であるスクウェア・エニックスがNFT市場への参入を発表した。このようにNFTは今後アートのみならずデジタルコンテンツ領域において広く消費者の手に届く形で活用が検討されていくだろう。
NFT市場の盛り上がりを受けて関連銘柄は強い値動き
NFT市場の盛り上がりを受けて、特に2021年3月に入ってからは関連するトークン銘柄のパフォーマンスが良好となっている。図表3はビットコインとNFT関連主要3銘柄であるChiliz(CHZ)、Decentraland(MANA)、EnjinCoin(ENJ)の2月以降の値上がり率を比較したチャート図である。
全体ではいずれのNFT関連銘柄も3月に強い値動きとなっていることがわかる。個別で見た時には、ビットコイン(BTC)が約70%であるのに対し、MANAとENJは約600%、CHZについては3000%近く高騰している。ビットコインですら株式や金をはじめとする他のアセットと比べたときには大きな上昇率となっているが、NFT関連銘柄はそれを遥かに上回っていることがわかる。
各々のプロジェクトの概要
1:Chiliz(CHZ)
Chilizはスポーツ業界におけるチーム、選手とファンとのコミュニティ経済圏の創造を目指すブロックチェーンプロジェクトである。各チームの選手らが発行するファントークンを介して選手とファンとの交流を深めることができ、例えば、ファントークンの保有者はファンイベントへの参加をはじめ様々な特典を受けることができる。
また、ファントークンとは別に、チームや選手に由来したNFTベースのコレクション用トークンも発行されている。既にFCバルセロナやユベントス、パリ・サンジェルマンなどの欧州サッカーチームや、eスポーツチームと提携を結び、「socios.com」という独自のプラットフォーム上でサービスが展開されている。CHZトークンは同サービス上の基軸通貨として機能し、各種トークンの売買などに利用される。
2:Decentraland(MANA)
Decentralandはブロックチェーンを活用したVRゲームを開発しているプロジェクトである。プレイヤーはメタバース内の土地であるLANDを購入し、アバターやアイテムなどを駆使することよって、LAND上に生活空間やライブ空間、ゲーム空間などあらゆる世界観を表現することができる。ゲーム上でやり取りされるこれらのLANDやアイテムはNFTとして管理されている。
つい最近、米国の老舗ゲーム会社であるAtariと提携し、Decentraland内に暗号資産カジノを開発していくとの発表で話題となった。MANAトークンはゲーム上の基軸通貨として機能し、LANDや各種アイテムの売買などに利用される。
3:EnjinCoin(ENJ)
EnjinCoinはもともと2009年に始まったゲームコミュニティであり、現在はブロックチェーンを活用したゲーム開発のインフラプロジェクトとして活動している。ゲーム開発のプラットフォームだけでなく、その上で発行されるトークン管理に必要なウォレットや、トークン売買に必要なマーケットプレイスなども提供している。
SamsungやMicrosoftといったグローバル企業と提携しており、人気ゲーム「Minecraft」においてもNFT実装の部分でEnjinCoinの技術が使われている。ブロックチェーンゲーム開発におけるトークン標準規格の一つである「ERC1155」を考案したことでも有名である。ENJトークンはエコシステム内の基軸通貨として機能し、開発やゲームアイテムの売買などに利用される。
ここで強調したいことは、暗号資産もまた株式と同様にセクターごとへの関心の高まりや個別銘柄の活動実績によって価格が変動しているということである。暗号資産はファンダメンタルがなく評価しづらいとの指摘は株式市場の常識で考えれば正しいだろうが、プロジェクト単位でみたときに、中心人物は誰なのか、開発はきちんと行われているのか、コミュニティの規模はどれくらいなのか、サービスの利用は進んでいるのかなど、基本的な評価軸は従来の企業評価と大きく変わりはない。
その上で現在はNFTセクターに熱い視線が注がれており、そのなかで活動実績のある銘柄が特に価格を伸ばしている。当然なかにはそれを無視して思惑的にパンプしているものもあるだろうが、そのような銘柄は短命であり、投機ではあっても投資ではない。
以上、NFTの特徴とNFTが今になって注目される背景、そしてNFT関連銘柄のパフォーマンスについて述べてきた。現状、国内で取引することができるNFT関連銘柄はコインチェックとGMOコインが取り扱うEnjinCoin(NFT)のみとなっているが、2021年3月にはコインチェックがNFTマーケットプレイスサービスを開始し、NFTで管理されるアートやゲームアイテムなどのアセットを取引する環境も整備されつつある。
おそらく読者の大半はNFTに馴染みがないだろうが、これを機にNFTの世界に触れてみることで、今後起こりうる消費体験や投資体験の変化を間近に感じることができるかもしれない。