今回は、アクティビストとして日本のメディアでも取り上げられることが多い米ヘッジファンド会社「バリューアクト・キャピタル・マネジメント(以下、バリューアクト)」について解説したいと思います。

バリューアクトは米国のサンフランシスコに本拠を置き、2000年にジェフリー・アッベン氏によって設立されました。運用資産は150億ドル(約1兆6,000億円)とアクティビストのなかでも有数の規模を誇っています。そして、前回の記事で取り上げたサード・ポイントなど他のアクティビストに比べて、バリューアクトは穏健派と見られています。

バリューアクトは投資先企業の発行済株式数の5~10%を握り、経営陣の合意を得た上で取締役を派遣し、内部から財務体質の改善や事業の立て直しを行ないながら企業価値向上を目指しています。バリューアクトの過去の投資先企業は、マイクロソフトやロールス・ロイスなど40社以上に及びます。

マイクロソフトの経営改革に一役

2021年2月時点で時価総額世界2位のマイクロソフトですが、2000年にビル・ゲイツ氏からバトンを引き継いだスティーブ・バルマーCEOの時代は、株価が低迷していました。モバイル・コンピューティングに消費者の志向が向かうなか、グーグルやアップルに主導権を奪われていたからです。

バリューアクトは、2013年4月にマイクロソフトの株式を約20億ドル(約2,000億円)保有していることを表明しました。その後バルマーCEOは辞任し、バリューアクトのメイソン・モーフィット氏を取締役に迎えて経営改革を進めました。

当時、マイクロソフトに同社が選んだのではない取締役が初めて誕生したのです。そして、現在のサティア・ナデラCEOの誕生にもバリューアクトは重要な役割を果たしたと報じられています。

ナデラCEOはクラウド化事業などを推進し、マイクロソフトの業績を伸ばしました。そして株価も2013年4月の30ドル前後から2020年末の222ドルまで大きく上昇しました。

オリンパスに取締役を送り込んだバリューアクト

バリューアクトは2018年から日本企業への投資を始めました。米国株に割高感が強まったことで、米国のアクティビストが日本株に対して関心を高めていた頃です。バリューアクトが最初の日本企業の投資先として選んだのはオリンパス(7733)でした。

2018年の秋、バリューアクトは粉飾決算事件で経営危機に陥ったオリンパスに取締役を派遣する提案をしました。当時、バリューアクトはオリンパス株の約5%の株式を保有し、2018年5月に大量保有報告書を提出していました。

当時オリンパスの副社長だった竹内康雄氏がバリューアクトと対話しました。竹内氏はダイヤモンドのインタビュー記事の中で、バリューアクトが投資した米国企業のCEOと会い、バリューアクトが経営にどう貢献したかを調べたと語っています。

そして対話を続けるなかでバリューアクトの企業経営に関する視野の広さや発想に魅せられ、バリューアクトのパートナーのデイビッド・ロバート・ヘイル氏と、同社のコンサルタントを務めたジミー・シー・ビーズリー氏を取締役に迎えることにしたとのことです。

そして、オリンパスは2019年1月にバリューアクトから取締役を招聘するなど企業改革プラン「Transform Olympus」を発表しました。2018年12月に758円の安値をつけていたオリンパスの株価は、2020年12月に2,380円をつけ、株価は約3倍に上昇しています。

オリンパスの竹内社長は日経新聞の取材に対し、「バリューアクトは経営の主役は執行陣だと深く理解している。短期的な利益を追うような口出しはせず、いわゆるアクティビストというイメージからは遠い存在だ」と語っています。

日本の経営者の中にはアクティビストを毛嫌いし、持合株主に守られようとする方が多いように思いますが、オリンパスへのバリューアクトの投資は、アクティビストが日本企業の変革に役立つことを示す事例と言えるのではないでしょうか。

バリューアクトはJSR、任天堂にも投資

バリューアクトは、2020年3月に国内化学メーカーのJSR(4185)の株式を6.2%保有していることを発表しました。2021年1月にはオリンパスで社外取締役をしているロバート・ヘイル氏を社外取締役に選任しました。

オリンパス再建に貢献したロバート・ヘイル氏を社外取締役にしたことにより、企業価値向上を見込んだ買いが入り、1月27日にはJSRの株価は3,545円と2020年来高値を更新しました。

さらに2020年4月には11億ドル(約1,200億円)に相当する任天堂(7974)の株式を保有していることを明らかにしました。バリューアクトは2019年4月に任天堂株を買い始め、コロナショックで株価が急落した2020年3月に保有株を増やしました。

任天堂に対して取締役を派遣する要求は出していませんが、任天堂の経営陣と複数回にわたり面談しているようです。任天堂の古川俊太郎CEOは、「バリューアクトが示したビジョンを信頼している」と述べており、任天堂の経営陣とも良好な関係を築いているように思います。

株価に影響を与えるバリューアクト

バリューアクトの任天堂への投資が報じられた翌日(2020年4月22日)、任天堂の株価は950円(2.1%)高の46,980円で取引を終了しています。バリューアクトが投資していることがわかると、企業価値の向上や株主還元強化への期待から買いが優勢になる傾向にあるようです。

ただし、バリューアクトがもたらす影響はよいものだけではありません。2021年1月12日にバリューアクトが関東財務局に提出した大量保有報告書で、オリンパスの株式比率が前回の5.04%から4.01%に低下していることがわかると、翌1月13日にはオリンパス株は一時7%安まで売られました。

良くも悪くもバリューアクトの投資動向は株価に影響を与えるようですので、今後もバリューアクトの投資動向に注目していきたいところです。