ゲノム革命に注目する理由
岡元:キャシーさんの調査は、エネルギー貯蔵、ロボティックス、DNAシークエンシング(ゲノム革命)とブロックチェーン技術といった5つのイノベーションにフォーカスされていると思います。このうちどれが、投資家によってまだ十分に理解されておらず、今後最も大きな投資機会がある分野とお考えでしょうか?
キャシー氏、以下キャシー:私にとってその質問は、私の「子供たち」の中から誰が一番良い子か選ばなければならないという質問を受けているのと同じで、お答えするのは余り好きではありません。私たちの質問に対する各企業の反論から判断しますと、病気を治してくれる能力を持つゲノム革命が答えではないかと思います。
このテーマは、日本人の方が理解をしているのではないかと思います。京都大学の山中教授が非常に重要な幹細胞の研究でノーベル賞を受賞しましたし、ゲノム革命を理解したいという欲求が、米国や他の国と比べると日本では強いのではないかと思っているからです。
ヘルスケアセクターのアナリストはテクノロジーをちょっと恐れていることがあります。具体的には、調査の設定方法が違う点です。ヘルスケアセクターのアナリスト達はゲノム技術の動きが速すぎるため、規制上の障壁に直面するリスクがあると考えており、彼らは私たちが思っているようにゲノム革命が早く起きるとは信じていません。
私達のチームの考えがおそらく正しいと思っている理由は、過去6ヶ月の間に初めて、(ゲノム技術を用いた)病気の治療を見てきたからです。米国では、ちょっとした有名人なのですが鎌状赤血球症を患っていたビクトリア・グレースという人がいます。彼女は今まで、少なくとも年に6回病院へ、緊急治療室に行かなければなりませんでした。それが、ゲノム技術を用いた治療で治り、1年間の間通院が不要となったのです。
ベータサラセミアが治った別の男性は、今まで毎年17回輸血のために病院に行かなければならなかったのですが、過去12~14ヶ月間で輸血のために1回も病院に行っていないと言っています。
現状は、私は転換点だと考えています。その理由は、ゲノム革命関連銘柄の時価総額はまだまだとても小さく、例えば、CAS9(ゲノム編集技術)をより鮮明にするための基本的な特許を持つ3つの会社の時価総額は200億ドルから250億ドル位です。3社でたった250億ドル、一方、アップル株は1.5兆ドルです。確かにアップルは私たちの生活を変えたことで時価総額が急激に大きくなりました。ただ、アップルは病気の治療をしている訳ではありません。そういった意味で、ゲノム革命関連銘柄は、時価総額の大きな拡大が期待されると思います。
ブロックチェーン技術に注目すべき理由
もう1つは、金融サービス業界への影響として、ブロックチェーン技術を挙げておきます。DeFiまたは分散型金融と呼ばれるものが、金融サービス業界から多くの中間業者を排除することになるでしょう。それにより一時的な効果として既存の銀行や他の金融機関が劇的にコストを削減できるようになります。そして次に起こることは、DeFiで行われていることの多くがスマートコントラクトを中心としたものなので、今日の金融サービスに付加価値をつけている機会の多くがブロックチェーン技術に置き換わることになるでしょう。その辺りに注目をしてください。
宇宙領域の今後の展望
岡元:2020年11月のスペースX社の宇宙船打ち上げの成功もあり、宇宙領域への興味関心は日本でも高まっていると思います。宇宙領域の今後の展望について、ご意見をお聞かせください。
キャシー:はい、非常にエキサイティングな「スペース(=領域)」だと考えています。私たちは、日本で米国よりも先行して宇宙ファンドを立ち上げました。(日興アセットマネジメントを通じて日本で販売(グローバル・スペース・ファンド))
過去に、フィンテック・ファンドを最初に日本で立ち上げた際は、米国におけるフィンテックに対する関心度合いを図るための先行指標として役に立ちました。
しかし宇宙ファンドについては、その「テイクオフ(=離陸)」はゆっくりとしたものでした。私たちが今得ているもののいくつかは私たちが当時必要としていたものだと思います。
スペースX社のロケットは宇宙ステーションに到達し、人を送り込み、ロケットは壊れることなく無事に地球に戻ってきて着陸するという、信じがたいような成功を収めています。ではなぜそれが興味深いのでしょうか?それはイーロン・マスクにとっての関心事だからです。なぜなら火星に行くためには、再利用可能なロケットが必要だからです。
再利用可能なロケットが必要なもう1つの理由は、宇宙のどこにでも行けるためのコストを削減したり、世界の最も遠隔地にいる人々がインターネットサービスを受けられるようにするために世界中に衛星を配備するコストを削減したりするためです。現在、世界の半数少々の人しかインターネットサービスを利用していなく、ブロードバンドインターネットサービスを利用している人はもっと少ないというのは信じられないことです。
宇宙と衛星、宇宙計画と衛星技術は、世界の一部の地域で、これまでアクセスできるとは思ってもいなかったアクセスを可能にします。今、ここでは2つのダイナミクスが起こっています。
1つ目がロケット、衛星、アンテナ、発射台等、これらの技術に関連したコストが劇的に下がること。再利用可能なロケットはその大きな例です。2つ目がサービスの必要性です。そのサービスによって地球の最も遠隔地の隅々に現代世界をもたらすことができるという考えは、人々にとって非常にエキサイティングです。
また、月ではなく火星を目指しているという考えも、人々にとっても非常に刺激的だと思います。現在のイーロン・マスクがテスラで収めた大成功を見るとにわかには信じられないかもしれませんが、テスラがモデル3の生産規模を拡大できるかどうか心配されていた時、私はよく言っていました。
「イーロン・マスクがロケットを海の中の「はしけ船」に無傷で着陸させることができれば、彼はおそらく自動車を生産することができるだろう」と。今度は、彼は誰も想像もしなかったやり方で自動車事業を拡大しているのだから宇宙事業においても成功するだろうという信頼感が高まりました。その成功がより多くの人々の宇宙事業への関心を高めたと思います。
宇宙開発競争も理由の1つだと思います。イーロン・マスクのスペースX、ジェフ・ベゾスのブルー・オリジン、そしてアマゾンでさえ衛星の増加に関与しています。ジェフ・ベゾスは個人的にブルー・オリジンに投資しています。そしてもちろん、宇宙ファンドのトップ株の1つであるヴァージン・ギャラクティックのリチャード・ブランソンもいます。
リチャード・ブランソン自身が、数日前に、数ヶ月内の初の宇宙飛行を楽しみにしていると発言しました。会社側はテストでちょっとした失敗があったので、数ヶ月よりは後になるかもしれないと訂正していますが、私たちは、次の半年以内に、彼が宇宙に行くと信じています。これもまた宇宙と宇宙戦略にとっての強力な後ろ盾となることでしょう。この宇宙関連投資は今始まったばかりで、とてもエキサイティングなテーマです。
岡元:現在、スペースXは上場していないため、この「宇宙」というテーマで投資対象として検討できる企業は非常に限られています。これらの企業が今後数年間で上場企業になると思いますか?
キャシー:はい、間違いないと思います。各企業は上場するために列をなしていると思います。
次回は、2030年、テスラとビットコインの未来予想についてお届けします。