2020年後半から高騰が続き、年が明けた2021年初旬には誕生以来初となる4万ドルを突破したビットコイン。
「今、なぜ多くの投資家が暗号資産に注目しているのか?そして、今後暗号資産市場はどのように推移していくのか?」
上記テーマのもと、今回はマネックス仮想通貨研究所 所長の大槻奈那、アナリストの松嶋真倫、そして2021年からマネクリで暗号資産コラムを担当していただいている、FX&BTCトレーダーのひろぴー(加藤宏幸)さんによる座談会を行いました。
昨今の市場活況をもたらしている要因や、決済手段としての暗号資産の可能性、2021年のビットコインの予想価格などについて語り尽くしました。(本座談会は、2021年1月22日に実施しました。)
ビットコイン価格高騰の理由は機関投資家の参入と過剰流動性
—— ビットコインの価格は2020年10月後半から高騰が始まり、年明け早々に4万ドルを超えました。急騰の理由について教えてください
大槻:米国を中心とする機関投資家や、PayPal(PYPL)、Square(SQ)などの決済大手が市場に参入してきたことにより、暗号資産に対する需要が急増したことが要因だと考えています。あとは、取引所のセキュリティが強化された点も大きいですね。日本ではもう1年半くらいハッキングのニュースがない。このようなセキュリティやレギュレーションの充実による安心感も、投資家の増加に繋がっていると思います。
加藤 宏幸氏(ひろぴー)以下、ひろぴー:海外では2020年の9月にKuCoinという海外取引所がハッキングに遭ったのですが、その時の取引所の連携が素晴らしかったです。BinanceやHuobiなどの取引所がと連絡を取り合って、流出した暗号資産を即時に凍結しました。暗号資産はブロックチェーンを使って送金するので、盗まれても追跡できます。本来は競合関係にあるはずの取引所を、他の取引所が一生懸命フォローしていたのですが、あのような連携は初めて見ました。
—— 2017年も「仮想通貨バブル」と呼ばれるほど暗号資産市場は活況を呈しました。2017年と2020年末から2021年1月上旬にかけての上昇で、価格高騰の原因に違いはありますか?
大槻:今の方がマネーの量がはるかに多いですよね。コロナ対策の影響で、世界のマネーの量はこの1年間で20%ほど増加しています。2017年と比較すると、今の方が3割以上世界に流通するマネーの量は多いです。2020年後半から暗号資産の価格が高騰したのは、こうした過剰流動性がバックにあることも大きいと思います。
ひろぴー:流動性の問題は大きいですよね。先日、BlackRock(※1)が取り揃えている一部のファンドでビットコイン取扱いサービスに関する報道がありましたが、現在のビットコインの流動性と時価総額を考慮しても、伝統的な金融機関もいよいよ資金の運用先として暗号資産を無視できない存在になっている感じがしますよね。
2020年末には、Fidelity(※2)がビットコインを担保にした現金融資サービスを開始しましたが、世界最大級の機関投資家が2つ動いたというのは、業界にとって非常に大きなことだと感じています。
松嶋:お二人がおっしゃったように、今はマネーの量が過去最大級で、法定通貨の価値が下がっています。一方で、既存の金融市場は金利が低いので、投資で利益を出すことも以前と比べると難しくなってきていると考えられます。こうした中で、ボラティリティの高い暗号資産や、ブロックチェーン技術を活用したDeFi(分散型金融)などの金融サービスに人気が集まったのだと考えています。
DeFiのレンディングサービスを使って暗号資産の貸付を行えば、ステーブルコインの場合で金利が5%〜10%程度付く場合があります。こうした高金利に魅力を感じた一部の投資家が、既存の金融市場から流れてきたことも暗号資産市場の活況をもたらした一因ではないでしょうか。
ビットコイン決済の可能性
——PayPal(PYPL)やSquare(SQ)などの企業が相次いで暗号資産市場へ参入してきたことについて、どのようにお考えですか?
松嶋:これまで暗号資産は投機的な面ばかりが注目されてきましたが、PayPalやSquareなどのサービスで利用可能になれば、決済方法の1つとして認識されるようになる可能性は十分あると思います。
2020年末にはPornhub(※3)の有料配信サービスの支払方法からクレジットカード決済が除外されて、暗号資産決済のみになったというニュースもありました。2021年は暗号資産の実需としての価値がさらに認められるようになると予想しています。
大槻:PayPalは、今アプリがすごい勢いでダウンロードされてきていますよね。無料アプリランキングを見ても、米国やイギリスなどで急上昇している。この人気の理由は、暗号資産が使えるようになることに対する期待感からではないでしょうか。
暗号資産が決済で利用されるかどうかは、法定通貨の信用度とも関係があると考えています。下のグラフは先日セミナーのために作成したものですが、法定通貨の信頼度と暗号資産へのサポートレシオをプロットすると、逆相関があることがわかりました。つまり、信用格付が低い国ほど、暗号資産に対する信頼度が高いということです。国の格付けが低いトルコなどは、暗号資産に対する許容率が高くなっています。
新型コロナウイルスの対策でお金を大量に刷ったことで、法定通貨に対する信頼がこれから下がるとすれば、自国の通貨に危機感を覚えた人たちが決済手段として暗号資産を選択するようになる可能性はあると思います。
バイデン政権が暗号資産市場に与える影響
—— 2021年、暗号資産業界で注目しているイベントはありますか?
松嶋:米国の機関投資家参入の流れが、2021年には欧州、アジアなどにも広がっていくのかという点には注目しています。米国では、ゴールドマン・サックスやJPモルガンが暗号資産のカストディを始めるというようなことも報道されています。2020年、シンガポールのDBS銀行がデジタル資産取引所を開設しましたが、こうした流れが他の国々にも波及していけば相場にもプラスになると思っています。
また、米国にて暗号資産取引所を運営しているコインベースが新規上場を目指している等、暗号資産企業が金融業界にも今後大きな影響を与えていくと考えられます。
一方で、マイナス要因として見ているのは米国の規制です。バイデン政権下で新しく財務長官に就任したジャネット・イエレンは、過去に暗号資産に対して懐疑的な発言をしていることで知られています。米国の議会ではすでにステーブルコインに対する規制の動きがありますが、もしテザー(Tether/USDT)のような時価総額・取引高ともに上位にある暗号資産が規制によって潰されるようなことがあれば、市場に与えるインパクトは相当大きいでしょう。
また、プラスマイナスどちらに働くかわかりませんが、市場に与える影響が大きいという意味では、CBDC(中央銀行デジタル通貨)とDiem(旧Libra)の動きにも注目しています。
大槻:バイデン政権といえば、SEC(米国証券取引委員会)の委員長にゲーリー・ゲンスラーが指名されましたね。ゲンスラーといえば、MIT(マサチューセッツ工科大学)でブロックチェーンやデジタル通貨に関する講義を行なっていたという経歴があります。
一方で、オバマ政権時代にCFTC(商品先物取引委員会)の委員長だった彼は、リーマンショック後、ドッド・フランク法の立案に貢献したことでも知られています。
経歴を見る限り、ゲンスラーは暗号資産に対して理解があるように見えますが、理解がある金融機関に対して、彼はリーマンショック後に非常に厳しい規制を推し進めました。そういう意味では、暗号資産に対しても「理解しているからこそ、ここまでやるべき」という規制スタンスで臨むことはあるかもしれません。
2021年、ビットコインは10万ドルに到達する?
—— 2021年のビットコインの予想価格(高値・安値)を聞かせてください
ひろぴー:高値は5万7,000ドル、安値は2万2,000ドルと予想します。
大槻:その心は?
ひろぴー:フィボナッチを使って分析しました。2020年はこの方法でコインテレグラフさんの予想を上も下もぴったり当てました。多分、二年連続は無理だと思いますが(笑)。
大槻:いやいや、そんなことないでしょう。私は、高値が5万ドル、安値が2万4,000ドルと予想しています。需給の関係や過去のチャートなどから見ると、大体そのくらいに収まるのかなと。ただ、正直なところこれだけ値動きが激しいと、私が出した予想から上下10%くらいはブレる可能性はあると思います。
松嶋:私は高値が6万ドル、安値が2万ドル前後で考えています。高値については、ビットコインは金のチャートと比べられることが多いのですが、金がETF承認後に高値の3倍まで高騰した過去があるので、2021年ビットコインのETFが承認されれば、2017年の高値(2万ドル)の3倍くらいは上がるのではないかと考えています。
安値については、企業プレイヤーをはじめ中長期目線での保有が増えていることから、下がるとしても限定的なのではないかと考えています。あとは、「2万ドルを割ったら、私なら買いたい」という個人的な願望も含まれています(笑)。
大槻:ちなみに、株価だとマーケットコンセンサスという形で市場予想の平均値を出します。同様のことをビットコインでもやってみたところ、世の中に出ている2021年のビットコインの価格予想を列挙して(図表2)、それらの平均値を出すと、大体10万ドルくらいになることがわかりました。(参考)1月8日掲載レポート:急騰ビットコインの年末の予想価格は?
ひろぴー:10万ドルは強気ですね。でも、そういう予想って到達するとオーバーシュートする可能性もあると思います。アベノミクスの時もそうだったのですが、まだ日経平均が1万数千円だった頃に、世に出ている株価予想がみんな当たっちゃったんですね。そうしたら、そこから一気に株価が上昇するということがありました。
そのため、もしビットコインがマーケットコンセンサスの10万ドルに到達するようなことがあれば、勢いに乗って20万ドルくらいまで急騰する可能性は十分あると思います。
5年、10年で暗号資産はどのように変革するか?
——5年後、10年後などの中長期で見たときに、暗号資産市場はどう変革していくと思いますか?
ひろぴー:これからはネット上の決済手段からクレカ決済が減ってきて、暗号資産決済が増えてくると思います。私は自分の会社でシステムの受託開発を行なっています。システムを導入する企業から、「クレジット決済を入れてほしい」という要望をよくいただきます。
ただ、クレジットカードは直接VisaやMastercardと契約するのではなく、代理店を通して契約するのが一般的です。業界にもよりますが決済手数料は約3.5%〜7%です。小売業やサービス業で、手数料で7%というのは厳しい面もあると思います。
そう考えると、Pornhubのように割り切ってクレカ決済を一切やめて、暗号資産だけしか決済できないようにした方が、クレカ決裁の加盟店手数料がかからない分経費を削減できてより質の高いサービスを提供できるようになる。それが結果的に収益向上に繋がると思えば、暗号資産決済を取り入れることは企業にとって非常にメリットがあると思います。すでに国の規制が弱いところでは、こうした現象が起こり始めているので、同様の流れが今度も世界中で浸透していくと思っています。
松嶋:中長期では、ブロックチェーン上で株や債券をはじめとするあらゆる資産が取引できるようになり、「暗号資産」という概念がなくなっていくのではないでしょうか。
大槻:2021年においては、米国が量子暗号の基準をつくっていこうとしているので、節目の年になると思っています。現状ビットコインのマイニングの約7割が中国です。これまで米国が暗号資産に対してややネガティブな姿勢でしたが、米国がマイニングに力を入れており、デファクトスタンダードを作ろうとしているのだと思います。米国主導の暗号資産業界の変革に、日本がどう関わっていくのかが重要なポイントだと思います。
暗号資産の情報収集について
—— 最後に、これから暗号資産投資を始めようとしている人に向けて、留意すべきポイントがあれば教えてください。
ひろぴー:マネクリを読んでください(笑)。大槻さんと松嶋さんのコラムはとても参考になるので。私も2021年から暗号資産のコラムを担当させていただいているので、これから暗号資産の投資を始めようとしている方はぜひ参考にしていただきたいですね。
松嶋:そうですね。マネクリでは三者三様の視点から暗号資産について解説しているので、それぞれ違った切り口の相場観を楽しんでいただけると思います。チャート分析に関する情報が知りたい方はひろぴーさんのコラム「ビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)をチャートで学ぶ」を、業界ニュース的に相場を見たいのであれば私のコラム「まるっと週刊ビットコイン予想」を、金融的な視点から暗号資産市場について学びたいのであれば大槻さんのレポート「金融テーマ解説」を、というように読み分けてもらうことで、暗号資産に関する情報を網羅的に抑えられると思います。
暗号資産は自分でニュースを探して、その情報を元に価格の動向を分析することもできますし、チャート分析も機能します。そのため、これまで投資をしたことがなくても、興味をもって、関連するニュース等の情報収集から始めてみてもらいたいですね。
大槻:留意すべきポイントは、値動きを気にし過ぎないこと(笑)。投資経験がある人でも、暗号資産のボラティリティの高さは怖くなると思います。そのボラの高さが暗号資産の魅力でもあるのですが、誰でも値動きが気になりだすとそのことばかり考えてしまうことがありうるので、投資してもあまり画面を見過ぎないように気をつけてはと思います。
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執筆:ライター 柳田 孝介
写真:竹井 俊晴
※撮影時のみマスクを外して撮影しました。