(公財)生命保険文化センターの「令和元年度「生活保障に関する調査」」によると、民間の生命保険に加入している人は、男性が81.1%、女性が82.9%。8割を超える人が、何らかの生命保険に加入しています。実際、私のところに家計相談に来られる方の多くが生命保険に加入しています。

日本には民間の保険のほか、公的保険があります。公的保険は健康保険証による医療保険です。医療費の自己負担は3割(70歳以上の一部や6歳未満は異なる)ですし、その自己負担が一定額(収入により異なる)を超えると、超えた分が払い戻される「高額療養費制度」もあります。障害年金、遺族年金もありますから、万が一の時も、生活はある程度保障されます。

この公的保険で不足する分を民間の保険で補おうというのが順当な考え方なのですが、「どのように保険に入ることが良いのか分からない」という方が多いようです。今回は支出の削減にもつながることが多い、生命保険の基本的な考え方と選び方をお伝えします。

生命保険の3つの役割

生命保険は人に関わる保険の総称で、3つの役割があります。

(1)「医療」:病気や怪我で入院治療などが必要になった場合の医療費を補てんする保障です。仕事を休んでいる間の生活費に充てることもでき、生きているときのリスクをヘッジするための保障とも言えます。医療費専用の貯金が潤沢にあり、公的保険があれば心配がないという場合は加入しなくても良いかもしれません。ただし、公的保険の対象外で患者数の多い「がん、急性心筋梗塞、脳卒中」の三大疾病の不安がある方は、その保障を検討しても良いでしょう。

(2)「死亡」:お子さんが生まれたなど、生活を保障すべき扶養家族がいる場合は、生活の保障のために死亡保障を検討します。加入直後でも契約した保険金額が保障されますので、貯金が少ないご家庭には必要です。遺族年金もあるので、生活や学業を継続する上で不足する金額を保障できる内容を検討します。

(3)「貯蓄」:学資保険、個人年金保険のような、貯蓄を目的としたものです。昔は予定利率が良いものがありましたが、最近はそのような商品がなかなか見当たりません。満期までに解約すると元本割れする場合もありますし、途中で引き出すことができない流動性の悪い貯蓄にもなりかねません。また、今の日本はインフレを目指しているので、満期時にはお金の価値が下がってしまう可能性があります。それなら違う貯め方をしたほうが効率は良いと言えます。ただし、お金を貯める習慣がない人が目的に向かってお金を貯めたい場合に「貯める仕組み」を利用するという観点での活用はできます。

それぞれのライフステージにおける必要な保障とは?

前述の3つのうち、必要な保障の順番は「医療 > 死亡 > 貯蓄」です。保障内容を適正にするためには、「今、この3つの保障の全てが必要だろうか」を考えなくてはいけません。その時のライフステージや家族状況、生活の仕方、現在の貯蓄額などから、「自分や家族にとって、どの保障が必要か」を総合的に判断していくのです。

例えば単身者の場合、基本的に必要なのは医療保障のみです。医療費専用にできる貯金が300万円以上あるのなら、加入しなくても良いかもしれません。結婚してまだ夫婦二人で働いている時期は、単身者と同様に貯金の有無によって、医療保障を検討すれば良いでしょう。

ただし、お子さんがいる夫婦またはシングル、専業主婦(夫)がいる家庭では、医療保障はもちろんですが、万が一の時に遺族年金では不足する金額を補うための死亡保障を検討しましょう。保険金を一定額ずつ受け取れる「収入保障保険」も良いでしょう。

お子さんが独立し、夫婦二人に戻ったら、死亡保障を無くす、またはあっても葬式代程度と考え、これからの生きるリスクに備えた医療保障を再確認し、必要であれば見直しをしましょう。

このように、それぞれのライフステージによって必要な保障が変わっていきます。

保険は基本的には役割ごとに「単品」で

ライフステージごとに保険を見直すことは、保障を必要なものだけに絞り、家計に優しいということだけがメリットではありません。そもそも論ですが、私は生命保険を損することが前提である「賭け」のようなものだと考えています。保険金を受け取れるかどうかは将来的な健康の度合いにより異なるからです。ずっと健康で保険金をもらうようなことがなければ「加入しなくてよかった」と思うでしょうし、思いがけない怪我や病気で医療費や休業の負担が重くなれば「加入しているべきだった」と思うこともあるでしょう。ですから必要以上に加入する必要はありませんが、保障が足りなくてもいけません。

少し気を付けたいのが、複数の保障が1つになったパッケージ型の保険です。あらゆる健康上のリスクが備えられ、面倒がなくて良いと思う人もいるでしょう。ですが、保障の中身を見てみると、自分には不要だと思える保障がいくつか入っているということがあります。

ハンバーガーショップなどの「セット商品」を思い出してください。いろいろ入っており割安だと感じて注文しますが、チキンとハンバーガーだけが欲しかったのに、ポテトなども付いていて食べきれないとなると、それは“ムダ”と判断できます。無理して食べるかもしれませんが、本当は必要なかったのです。単品で欲しいものだけ買ったほうが安上がりになる場合もあるのです。

保険にもそれと似た部分があり、パッケージ型の保険には自分にとって不要なものが含まれている場合があります。その料金を支払い続けるのは、意味がないかもしれません。必要な保障に単品で入るほうが保険料は安く済み、家計に優しい場合もあるので、パッケージ型の保険を検討する場合は、まずしっかりと中身を確認しましょう。

つい高額化しやすい項目である保険料は、支出の見直しポイントの1つです。保険料を節約して家計の余剰金を増やすことができれば、貯金もできますし、投資の原資にもできます。ただ、減らし過ぎは良くありませんから、総合的な観点でご自分に必要な保障をしっかり検討されるようにしてください。