7月9日にコロワイド(7616)が大戸屋(2705)への公開買付を開始しました。コロワイドと大戸屋の対立の経緯については以前のコラムで取り上げていますが、簡単にまとめると、居酒屋や回転寿司など外食チェーンを展開するコロワイドが大戸屋株を20%弱保有し、大戸屋の経営改善を図ろうとしたところ、大戸屋経営陣がコロワイドの進め方に反対し、最後は株主総会での決着となりました。株主総会では、大戸屋会社側の主張が認められ、コロワイドは大戸屋の経営改善を進められない状況となっていました。

会社は誰のものか

「会社は誰のものか」というのは株式会社制度以来の大きなテーマです。今回の大戸屋の株主総会では、大戸屋のフランチャイズ加盟店や従業員の多くがコロワイド案に反対したと開示されています。フランチャイズ加盟店や従業員の多くは(株主も一部含まれていると思いますが)株主ではありません。したがって、株主総会の議決権はありません。しかし、このような「ステークホルダー」と呼ばれる関係者が株主総会において一定の役割を果たすからこそ、こういう開示がなされるのでしょう。

一方、会社にとっての重要な意思決定は株主総会で決められます。株主総会の議決権は株主しか有しません。その面で、会社は株主のものと言っていいのでしょう。株主総会で過半数の賛成を得れば、会社のほとんどの意思決定が行えます。

大戸屋株取得に多額の資金を投じたコロワイド

そのため、会社の株の過半数を保有してしまえばその会社の意思決定を思うままにできると考えられます。コロワイドは大戸屋株の20%を有していました。第2位の株主が1.7%しか保有していない大戸屋においては圧倒的な筆頭株主です。残り80%のうち、30%がコロワイド側につけば過半数に届く。すなわち、コロワイドにとっては残りの株主の30/80=37.5%が自社の案に賛成してくれればいいわけですから、同社は強力な意思決定力を持っていたと思われます。

しかし、ここまでに書いたようにコロワイド案は株主総会で否決されました。こうなると、20%の持ち株は一転して弱い立場です。自分たちでは大戸屋に関し、基本的に意思決定できなくなってしまいます。コロワイドは大戸屋株取得に少なくとも30億円は投じていそうです。コロワイドは日銭の入る商売で資金繰りはよさそうですが、過去10年のうち9年は最終利益が30億円を超えていません。コロワイドにとって大戸屋への投資は決して小さくないことが分かります。

今回、コロワイドは51.3%の持株比率となるように公開買付を実施します。233万株を3,081円で取得するので実に72億円程度の追加出費となります。外食産業の苦境の中で背水の陣と言ってもいいのではないでしょうか。

コロワイドのアプローチの変化

このコラムで取り上げてきたように、最近のアクティビストは対象となる会社の一定の株式を取得し、その会社の経営の改善を図ります。コロワイドのアプローチは似ているようですが、他の株主の賛同を得られなかったことで過半数を取得せざるを得なくなりました。これはどちらかというと旧来のアクティビストの手法に近いものです。上述のようにその手法は大きな資金が必要となり、一般的には短期間に投じた費用を回収する必要が生まれます。それは長期的な成長と相反することも多いでしょう。

最近の(アクティビスト2.0と呼んでもよい)アクティビストには一般的にはそれほど多くの株式を取得するわけではないため、資金面でも長期の成長にコミットしやすく、他の多くの株主の同意も得やすいのだろうと思います。コロワイドも当初はその路線を意図していたように思いますが、株主総会で敗れたことで隘路に入ってしまったようにも見えます。

大戸屋はコロワイドの公開買付に反対すると報じられており、これまでの経緯からも恐らくそうなるでしょう。コロワイドにとってはなかなか厳しい局面です。公開買付は成立するかもしれませんが、その後の大戸屋の舵取りにも注目したいと思います。