6月23日にJR九州(9142)の株主総会が開催されました。アクティビストのファーツリーが株主提案をするなど、注目されていた株主総会でしたが、結局会社側の提案はすべて可決され、株主提案はすべて否決されたようです。

議決権がどのように行使されたかは、まだ開示されていないので不明です。しかし、会社提案の3つの議案はすべて可決され、株主提案の3議案はすべて否決されたので、株主は現在の経営陣に信任を与えたといっていいでしょう。この連載の中で取り上げてきたストラテジックキャピタルも株主提案が可決されていないようです。

本日6月26日には、三菱倉庫(9301)、極東貿易(8093)、淺沼組(1852)など株主提案が提出されている株主総会が複数実施されており、まだ結果については分かりませんが、現時点では特にサプライズはなさそうです。

そうしたなか、アクティビストファンドとは異なりますが、興味深い動きが出てきています。1つは大戸屋ホールディングス(2705)です。大戸屋ホールディングスは定食屋「大戸屋ごはん処」を展開する会社です。知名度は高く、売上高も2010年3月期に170億円程度だったのが、直近では250億円を超えるような年もあるなど、ある程度成長を続けています。

しかしながら、利益水準はいまいちで2018年3月期以降は3期連続で営業減益、2020年3月期には赤字に転落してしまっています。もちろん、人件費の上昇や原料高などの影響もあると思いますが、吉野家ホールディングス(9861)、松屋フーズ(9887)、ゼンショーホールディングス(7550)などのこの3年ほどの業績推移と比べると物足りない結果であると言えそうです。

大戸屋に目を付けたコロワイド

その大戸屋に大きな動きがあったのが2019年10月。大手外食のコロワイド(7616)が大戸屋株の20%弱を大戸屋の創業家から買い取ったのです。「甘太郎」「北海道」などの居酒屋チェーンが主だったコロワイドはM&Aに積極的な会社です。

以前にもコロワイドは、関西が主力の居酒屋「贔屓屋」、東海地方の焼肉チェーン「がんこ炎」、回転寿司チェーン「アトム」、北関東のステーキチェーン「宮」、焼肉チェーン「牛角」やしゃぶしゃぶの「温野菜しゃぶしゃぶ」を運営する「レックス・ホールディングス」、「かっぱ寿司」の「カッパ・クリエイト」などを買収しており、いまや居酒屋のみならず、焼肉・ステーキ、回転寿司、ファミレス、イタリアン、カラオケなど広く飲食事業を手掛ける一大外食チェーンとなっています。

同様の大型外食チェーンとしては「すき家」のゼンショー(売上6300億円)、すかいらーく(3197)(同3800億円)などが有名ですが、コロワイドは2400億円の売上をあげており、両社には届かないものの、吉野家(2200億円)、スシロー(3563)(2000億円)を超える売上高で、国内トップクラスの外食チェーンと言ってもいいでしょう。コロワイドは、これらチェーンで利用できる株主優待券でよく知られているので、個人投資家の方に対してこのような解説は不要かも知れませんが…。

すでに書いたように大戸屋の売上高は250億円程度ですので、コロワイドはそのざっと10倍です。すでに買収したカッパ・クリエイト(7421)が800億円程度の売上を持っている会社なので、コロワイドはチェーンの拡充のため、大戸屋に目を付けたものと思われます。大戸屋はもともと創業者と現経営陣の足並みがそろっておらず、そのことも株式取得の助けになったのかと思います。

株主総会での委任状争奪戦

コロワイドはこの保有株を背景に6月25日に開催された株主総会に株主提案を行っていました。提案内容は取締役12名の選任で、実質的に大戸屋の経営権を得ようというものです。現在の大戸屋の経営陣はこれに反対し、その決着の場は株主総会になるので、両者による株主の委任状争奪戦が行われていました。報道等にあるように結局、この委任状争奪戦は大戸屋側の勝利となりコロワイドの株主提案は否決されました。大戸屋のウェブサイトでは株主の皆様への感謝の意が伝えられています。

いくつかの報道を見ると「手作り(店内)調理」、「創業精神」が争点となっており、創業の精神に則って、店内調理を主張した現経営陣が個人投資家の支持を得て株主総会で勝利したと整理されているようです。2019年3月末で、大戸屋株は約85%を個人投資家が保有しています。このうち、20%弱は筆頭株主がコロワイドに売却したものですが、60%程度は個人が保有しており、大戸屋の株主総会では25,000人近くを数える個人投資家の考えが強く働いています。

コロワイドはアクティビストファンドではないですが、非常におもしろいケースだと思うので次回以降、今回の経緯について詳しく見ていきたいと思います。