中国内需は回復基調

新型コロナウイルスの発生源とされる中国では、厳しいロックダウンの実施により経済活動を全国規模で抑制した。事実上、一時停止した経済を支える対策として、3月以降、各種施策を実施してきた。税控除や増値税の減免といった減税措置、企業向け社会保障費の減免、各種管理費用の免除、納税申告の期限延期、国有銀行による中小企業向け融資の拡大、企業の利払い延期容認、雇用調整助成金の支給など、実に幅広い措置が取られてきた。

また、新規の企業融資に係る支払利子の補填など、資金繰り難に直面する中小企業を支援して、中小企業の倒産やそれによる雇用の悪化を回避してきた。他にも、商品券の配布や5Gに関連した投資の拡大、自動車の購入規制緩和など、需要刺激策が講じられてきた。

こうした措置が功を奏して、ロックダウンの解除以降は、内需が回復し始めた。新車販売台数は新型コロナウイルスの影響で2020年2月・3月に歴史的な落ち込みを記録したが、4月は前年同月比でプラスに浮上している。

生産現場も順調に再開したことで、国家統計局が発表する製造業購買担当者景気指数(PMI)は、2020年2月に35.7と大きく低迷したものの、翌月3月には52.0と大きく持ち直し、4月は50.8、5月は50.6、6月は50.9と景況拡大と悪化の分かれ目である50を上回って推移している。中国サービス業購買担当者指数(財新サービス業PMI)は、2月に26.5と驚くほど落ち込んだが、5月は55.0と50を超え、6月は58.4と順調に回復し、中国国内での経済活動が回復基調にあることが示された。

国内の消費主導型経済への転換を進める中国政府

内需の回復が認められる一方で、輸出は3月に前年比-17.2%となるなど、低迷したままである。世界需要の回復が弱い現状では、輸出の勢いが戻らなければ中国経済の回復は難しいとの見方も根強い。

その点は、5月22日から28日に行われた全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告でも、「パンデミックと世界経済・貿易環境に関する強い不確実性が中国経済を左右しかねない」ことが触れられたとおりである。

しかし、新常態経済への脱皮、すなわち、中国国内の所得水準を持続的に高め、貿易主導型の経済から国内の消費主導型の経済への転換を進める中国政府にとっては、構造改革の追い風との見方もある。これは、ある意味では、中国経済のポストコロナのテーマの1つと言えるだろう。

国内外から資金が集まる中国株式市場

市場に目を転じると、中国の株式相場は、2020年3月に世界的な株式相場の下落とともに急落を経験したが、4-6月は順調に戻りを試し、代表的な株価指数であるCSI300では、7月に入っても上昇を続け、3月高値を超えてきた。

1日当たりの売買額も連日1兆元を超えており、市場に参加する個人投資家にも広がりが見られる。低金利や一部の人気理財商品における初の元本割れなどで株式市場に資金が流入しているとの側面もあるようだ。

7月6日には、中国・新華社系の証券新聞である中国証券報が、資本市場改革が進められてきた株式市場には国内外から資金が集まっていることや、ポストコロナで中国経済が回復しつつあることから、健全な強気相場の準備が整いつつあるとの認識を示した。また、急速に発展するデジタル経済化への資金確保と、国家間の競争での影響力強化を念頭に政府の支援も指摘し、「上昇は必要」といった異例とも言えるコメントも掲載した。

一定程度保たれている米国との関係性

米国とは、通商交渉での駆け引きやハイテク産業での競争激化、香港問題でのつば迫り合い、新型コロナウイルス対応を巡っての中国批判など、緊張関係は続いているが、6月17日の両国外交トップであるポンペオ国務長官と楊政治局員が会談し、1月に合意した両国間の第1段階の通商合意を履行することで合意した。

実際、4月には中国が米国の最大の貿易相手国に返り咲いており、米国の農家や輸出業者に限らず、再選を目指すトランプ米政権にとっても、中国は大切な存在ということになろう。国家安全法を巡ってのやり取りでもトランプ米政権は厳しい対応をとっておらず、米国との仕切りは、一定程度できているようである。米国との関係悪化は株式相場の上値を追うには重しとなるが、その懸念も当面ないとなれば、株式相場の上昇も頷けよう。

景気回復への期待は上昇トレンドを維持する材料に

新型コロナウイルスの感染拡大を材料に下落圧力にさらされ、5月27日には1ドル=7.1671人民元まで下げていた人民元相場も、景気回復が確認されるに連れ、上昇トレンドが鮮明になってきた。管理フロート制が採られる人民元は、為替レートの変動は市場のメカニズムに任されるものの、人民銀行(中央銀行)が発表する「基準値」から±2%以内に変動幅が抑えられる。

6月10日には、人民銀行が、「人民元相場の弾力性を高める」とコメントし、人民元の切り上げを方向づけた。易網総裁も、景気回復を後押しするため、人民銀行は潤沢な流動性を維持していくと語り、世界の投資家にとって人民元は極めて魅力的な資産だと指摘している。

7月に入り、株式相場が上昇するにつれて、人民元は、節目である1ドル=7.00人民元を下回ってきた(人民元は上昇)。残念ながら、世界的に感染拡大は継続していることから、安全資産と位置づけられる米ドルが、大きく調整する段階には至らないと筆者は考えているので、人民元が一方的に上昇を継続するとは予想し難いが、景気回復への期待は、人民元を下支えし、緩やかな上昇トレンドを維持する材料となるだろう。